Opinion Special : 過度の謝罪要求は国益を損ねる (2001/2/28)
 

実習船と原潜の衝突事故に関して、日本側の「謝罪要求」は、一向にとどまるところを知らない。とうとう、アメリカのマスコミにも「謝罪は十分だ」という論調が出てきたそうだ。

行方不明者の家族にしてみれば、いくら頭を下げられても納得できるものではなかろうが、政治家やマスコミまでが一緒になって謝罪ムードを煽り続ける状況に危惧を覚えたので、緊急寄稿としたい。


過去にも書いたことだが、そもそも、何の過ちも犯していない人は世の中にいないだろうし、それは企業や組織、国家についても同じことだ。

犯してしまった過ちは、頭を下げようが何をしようが、ひっくり返すことはできない。となれば、それに対する最大の償いは、同じ失敗を二度と繰り返さないようにすること以外にないのは明白だ。

もちろん、今回の事故に関して、原潜側にとんでもない失態があったのは事実だが、それをいくらあげつらったところで、行方不明者が見つかるというものではなかろう。まして、大統領に謝罪させようが、艦長に謝罪させようが、それは溜飲を下げる役には立っても、事故原因の究明や、いわんや再発防止には、何の役にも立たないものだ。

それが分かっているのかいないのか、「謝罪」を求め続ける関係者と、それを声高に報じるマスコミの態度には、釈然としないものを感じてならないのだ。


ワシントンポスト紙の論説では、「日本側は南京大虐殺について謝罪していないのに、今回の件については謝罪を要求し続けていて身勝手だ」という内容があるという。

南京大虐殺における被害者の人数については諸説あるが、どちらにしても、中国はそのことをダシにして、何かというと日本政府に対して「ゆすりたかり外交」を展開している。特定の虐殺事件こそ持ち出さないものの、「過去の謝罪」を振りかざす北朝鮮も同じだ。

それに対し、特に最近では、日本国内でも反発を覚えるムードが強いし、私自身も、かような「ゆすりたかり外交」には反対である。

もっとも、「南京大虐殺否定論」を展開し、結果として「ゆすりたかり外交」に油を注ぐ結果になっている一部勢力についても、批判されるべきだとは思うが。

それなら、なおのこと、日本が他国に対して同じことをしてはならないのではないか。
他国に対しては「謝罪要求の繰り返しに反感を覚える」くせに、自国が被害者になると「謝罪要求を繰り返す」というのでは、まるで筋が通らない。典型的なダブル・スタンダードだ。

こういう、自国が加害者のときと被害者のときとで態度を変えるような国は、どう見ても信頼されるとは思えない。こういう感情論を振りかざし続けることが、結果として国益を大きく損ねることになるのではないかと思うのだ。

また、共産党の「事故調査団」にしても、ウケ狙いのスタンド・プレーに他ならない。
なぜなら、どこかで何か事故があるたびに、共産党が「事故調査団」を出しているわけではないからだ。もし、今回の事故がアメリカの原潜ではなくロシアの原潜によって引き起こされたものだったら (あるいは、かつてソ聯が同じような事態を引き起こしていたとしたら)、共産党が意気揚揚と「事故調査団」を派遣しただろうか。はなはだ疑問である。

去年の選挙で大きく議席を減らした共産党が、今回の事件をダシにして支持拡大と党勢回復を図ったのでないと、いったい誰が断言できようか。もちろん、党の公式見解としては「そんなことはない」ということになるだろうが、そんなものは最初からそういうに決まっているので、アテになるわけがない。言葉よりも行動が、本音を表しているのだ。

現に、ロシアが原潜を沈没させたときも、大韓航空機撃墜事件のときも、共産党は「事故調査団」など出さなかったではないか。相手が米海軍の原潜だったからこそ、日米同盟にヒビを入れる絶好のチャンスと見て飛びついたと見るのが妥当だろう。

そして、同じことは不人気の極みにある自民党や外務省にもいえる。不人気挽回のために「謝罪を求める」世論に媚びるというのは、大局的見地から見て、まったく不同意である。


とにかく、無意味な「謝罪要求」は、そろそろ打ち止めにしようではないか。先に書いたように、いくら頭を下げさせたところで原因究明の役にも立たないし、再発防止の役にも立たない。頭を下げさせるのに使う労力と時間があったら、原因究明と再発防止策を徹底することを求めるために使おうではないか。

そうしないと、今回の事件が引き金になって、結果として日米関係を悪化させ、政治・経済・軍事のすべてにわたって国益を損ねることになる。そうなったら、マスコミも、政治家も、そして行方不明者の家族も、誰も責任は取れまい。
感情的になって日米の同盟関係に亀裂を生じさせても、得をするのはロシアと中国だけなのだ。そのことを正しく認識するべき時期にきているのではないだろうか。

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