Opinion : 米軍の新戦略を読む [2] (2001/4/9)
 

先週に引き続き、今週は、「米軍のコンパクト化・高機動化」に関連して、装備面から気になった点を見てみたい。

といっても、あらゆる範囲について考えるというのもできない相談なので、特に注目したいポイントについてのみ、触れることにする。


まず、陸軍から見てみよう。

冷戦期のドクトリンを使って戦った湾岸戦争では、2 種類の対照的な軍団が、湾岸地域に展開した。機甲師団主体の第 VII 軍団と、空挺師団主体の第 18 軍団である。

見方によっては、第 VII 軍団は「冷戦型」、第 18 軍団は「ポスト冷戦型」といえるのではないだろうか。もともと、第 18 軍団は緊急展開軍 (RDF) 構想から出発した軍団だから、湾岸危機が勃発したときにも最初に展開している。

冷戦後の米軍のあり方として、「地域紛争に対処するための火消し」が唱えられているのは御承知の通りだが、地域紛争の場合は湾岸戦争や冷戦期のヨーロッパにおけるシナリオのような「大規模な戦車戦」というのは想定しにくい。むしろ、第 18 軍団のように、軽装備だがそこそこの破壊力を持ち、かつ迅速に展開できる軍団の方が使いやすいだろうというのは、私のような素人でも想像がつく。

実際、米陸軍が構想を進めている FCS (Future Combat System) からも、装軌車両よりは装輪車両を主体とし、空輸主体で展開でき、自力で長距離を移動できる陸軍、を目指すという方向性が見て取れる。同じ車体をベースにさまざまな用途の車両を派生させて開発や維持のためのコストを下げている点と、空輸できるという点が、ミソだ。

M1 戦車も "一応は" 空輸可能だが、輸送機 1 機で 1 両しか運べない。しかも、作戦行動中は 8 時間ごとに燃料を補給してやらないと動けなくなってしまう。これでは、補給面から足を引っ張られて、「高機動化された陸軍」を実現するのは難しい。
湾岸戦争では、第 VII 軍団を構成する各機甲師団は、一日に 80 万ガロン (≒ 3,000t) のディーゼル燃料を必要としたそうだが、こんな大量の燃料を補給するだけでも、大仕事である。

その点、装輪式の車両を主体にした方が経済的だし、軽くて小型だから空輸もしやすい。これだけでは、もちろん本格的な戦車戦には耐えられないが、ジャベリン ATM のような歩兵向けの対戦車装備はあるから、少数の戦車が相手なら、対処できないことはないということか。

つまり、将来の米陸軍は、紛争が発生したら空輸によって迅速に現地に展開し、UAV などを使った偵察によって情報面での優越を確保した上で、ハイテク装備を駆使して数的劣勢を補いつつ、素早く火を消す、ということを目指しているようだ。もちろん、だからといって機甲師団を全廃するようなラジカルな真似はしないだろうが。


海軍は、以前から「海上から陸上への力の投射」ということをいっている。そういう意味では、米海軍はかなり以前から「地域紛争対処型」といえる。

つまり、「緊急展開部隊の槍」である海兵隊を海から紛争地帯に送り込み、洋上から飛行機やミサイル、艦砲を使って火力支援をするというのがメインで、さらに艦船の機動力を生かして、弾道ミサイル防衛の傘をどこででも展開できるようにしたり、空母の艦載機を使って陸上のベースのない場所でもエアパワーの優越を確保する。これは、今後もそんなに変わりはなさそうだ。

ただ、空母の将来については、不透明感があるように思える。よくいわれるように、ステルス機を欠くという難点がひとつ。あと、空軍の爆撃機がアメリカ本土から紛争地帯に直接飛んで行けるとなったときに、空母の艦載機の優越性をどう主張するかという問題がある。

もちろん、空母には「その場にとどまってプレゼンスを維持できる」という強みがあるのだが、なにせ建造費や維持費が高い。しかも、高価で重要だから、多数の護衛艦を必要とする。それが「プレゼンス維持経費」として費用対効果に優れているかという点が、議論の的になるのではなかろうか。

アメリカでは最近になって「空母の小型化」ということを言い出したようだが、小型化といっても CTOL 機を運用する限り、そう小さくできない。だいたい、ドンガラよりも電子装備や艦載機、人件糧食費の方がはるかに高くつくのだから、空母のドンガラを小さくしてみても、節約できる経費など、タカが知れているのではないだろうか。

となると、小型空母を実現するには、JSF の STOVL 型の成否が重要な問題になるはずで、これがコケたら、自動的に空母の小型化構想も頓挫する可能性があるのではないだろうか。

ただ、JSF が成功して空母を小型化するとなると、空母が持つ攻撃力は物理的なサイズ以上にシュリンクすると思うので、却って費用対効果が悪いものができないだろうかと思う。


空軍についての興味深い動きは、「爆撃機の増勢」を求める声が出てきているという点ではないだろうか。

そもそも、空軍が海軍の空母と比べてハンデを負う点として、「基地が現場の近くにないと展開できない」という点がある。湾岸戦争のときは、先見の明を発揮して造っておいたサウジアラビアなどの多数の基地を利用できたが、そういうウマイ話が今後も続くという前提でモノを考えることはできない。

となった場合に、ステルス爆撃機をアメリカ本土から発進させて、空中給油で目的地まで飛んでいって爆撃し、またアメリカ本土に舞い戻ることができれば、現地に基地が要らなくなる。実際、ユーゴ爆撃では、B-2 がアメリカから直接、ベオグラードまで飛んで行った。

いまのところ、B-2 は 21 機しかない虎の子だが、これをさらに増勢できれば、同じことを、より大々的にできる。だが、こうなると空母の存在価値が危うくなると見て海軍が黙っていないと思うので、もし本気で B-2 を追加発注するとなると、勢力争いと予算の奪い合い、ということになるかもしれない。歴史は繰り返す。

ただ、爆撃機はこれでよいとしても、戦闘機はそういうわけにいかない。飛行機は空中給油で飛行距離を延ばせるが、一人しか乗っていないパイロットにとっては厳しい話だからだ。となれば、結局、戦闘機を飛ばして航空優勢を確保するために、紛争地の近くに基地を確保しなければならないということになってしまう。それでは、今と大して変わらない。

個人的には、デイル・ブラウンの小説にあるように、爆撃機が「空飛ぶ戦艦」になれるとは思っていない。小説のネタとしては面白いが、いくら爆撃機にステルス性を持たせても、スピードや機動力で戦闘機に勝てるわけはないし、大量の兵装を搭載できるとしても、それもいつかは撃ち尽くすからだ。

だから、爆撃機で「グローバル・パワー」するという構想は、戦闘機による制空権の確保の必要性を考えると、構想倒れに終わる可能性も少なくないのではなかろうか。現地に確保する基地の規模を縮小できるのは、間違いないにしてもだ。


正直な話、アメリカという国は、ある日突然、ガラリと方向転換するということをちょいちょいしでかす国だ。だから、ここで私のような素人があれこれ考えてみても、その予想をはるかに上回るようなことをやる可能性が高いのではないかと思う。それが、アメリカという国の最大の強みではないだろうか。

ともあれ、今後の米軍の動きは、アメリカという国の世界戦略や、ひいては国際政治の枠組みにも影響を及ぼすものだから、注意してウォッチしたいと思う。

Contents
HOME
Works
Diary
Defence News
Opinion
About

| 記事一覧に戻る | HOME に戻る |