Opinion : EP-3 "接触事故" に関する私見 (2001/4/16)
 

中国の戦闘機と接触して海南島に不時着した EP-3E の乗員が帰国できたのは、まずは喜ばしいことだ。中国政府が乗員を "人質" にして、さらに強硬な対応に出ないかと危惧していたのだが、そうならなかったのは、なによりである。

ただ、そもそも今回の事件がどうして発生したのか、という点と、機体の扱いの問題が残っているので、その辺について考えてみたい。


そもそも、冷戦中にも東西両陣営の間で、互いに ELINT・SIGINT ミッションをあの手この手で展開していたが、そのときには、今よりも "秩序" というか "暗黙のルール" が守られていたような気がする。

ソ連の漁船 (という名の情報収集船) が日本やアメリカの沖合、あるいはアメリカ海軍の艦体の近所をうろつくという事例はあったにしろ、たとえば領海内に強行突入して騒ぎを起こすという事例はあまり聞かないし、洋上でも、進路前方を横切ってジャマをするという程度の話が多かったようだ。

その点、冷戦崩壊後の方が、何かにつけて荒っぽくなっているように思える。北朝鮮の不審船は堂々と日本の領海に乗り込んできてアンテナを立てていたし、今回も中国の戦闘機は衝突事故まで仕出かした。

いくらなんでも、発進前の概要説明で「ぶつけて来い」という命令が出たということはないと思う。人民の血税で買った戦闘機を、いくら安物とはいえ、いちいちぶつけていたのでは機体がいくらあっても足りない。それに、いくら人命が安い中国とはいえ、「ぶつけて死んで来い」という命令は出せないだろう。
多分、2 機の戦闘機で EP-3E を包囲して、あわよくば拿捕して中国国内の基地に強制着陸させろ、という命令が出ていたのではないかと推測される。監視するだけなら 1 機でよいのだ。2 機という数が、そもそも怪しい。

念のためにお断りしておくが、EP-3E は丸腰である。何をやろうが、反撃されるという気遣いは存在しない。

単にインターセプトして監視するだけ、というミッションだったとすると、その後の話の流れが中国にとって "うま過ぎる" と思うのだ。少なくとも、機体を拿捕するぐらいのことは、中国側としても狙っていたのではないか。

EC-121M をいきなり撃墜してしまった北朝鮮はともかく、過去にもプエブロ号事件のような先例もある (おっと、これも北朝鮮か)。
少なくとも、アメリカの情報収集活動に対して、中国が不愉快に思っていたのは間違いない。中国がどれだけ大したレーダーや通信施設を持っているのかどうか知らないが、装備の程度が高くても低くても、情報収集の対象にはなる。

また、<えひめ丸> 事故で「米海軍のモラルの低下」や「米海軍に対する批判的論調」が大きく前面に出ている時期であったことも、考慮に入れるべきだろう。衝突 "事故" の発生後に、何かにつけて「謝罪」を要求した中国政府の出方は、<えひめ丸> 事故のときの日本における、朝野を挙げての対応とソックリだ。

しかも、その直後に江沢民はキューバに飛んで、「共産主義国家の連帯」を麗々しくアピールしている。こうした一連の動きは、偶然と見るには、あまりにもタイミングが良すぎはしないか。

やはり、こうした動きを単なる偶然の符合と見るのは、いささかおめでたい考えだと思う。何か自国に有利な状況があれば、それをフルに利用しようとするのは平時も戦時も変わらない。
平素から、自国の沖合を飛行する EP-3E を苦々しく思っていた中国が、<えひめ丸> 事故で米海軍が悪役にされたのに便乗して今回の事件を引き起こしたと見るのは、そう荒唐無稽な話ではないだろう。

「同じアジア民族だから、やはり頭を下げることを大事にするのか」というのは好意的な見方。むしろ、ハワイ沖の事故に便乗して騒ぎを起こし、

  • まず EP-3E を拿捕して
  • 領空侵犯事件をでっち上げて
  • 乗員を人質にしてアメリカの「謝罪」を引き出し
  • アメリカ政府の面子を潰す
というのが、中国政府の最終目的だったのではないか。

だいたい、中国は自国の防空識別圏 (ADIZ) を明らかにしていないというし、領海や領空の解釈がアメリカと食い違うというのはありそうな話。だから、実際に領空侵犯していなくても、「我が国が主張する領空には侵入していたのだ」ぐらいのことはいうだろう。
かつてのソ聯も、"領海" という言葉の意味する範囲が、世界の一般的な常識よりもかなり広かったのは、周知の事実だ。

さらに、機体の拿捕に成功すれば、EP-3E が搭載する高度の SIGINT ミッション機材というおまけも手に入る。彼らは、機体の内部調査の言い訳として、こんなことをいうかもしれない。

「日本やアメリカだって、MIG-25 が着陸したときには内部を分解して調べたじゃないか」

だが、MIG-25 は自分の意志で飛んできたもので、今回のように "拿捕" したものではない。そこのところが決定的に違う。

余談だが、問題の EP-3E は、"ARIES II" と呼ばれる仕様に分類される。ARIES とは "Airborne Reconnaissance Integrated Electronic System" の略だそうだ。(でも、きっと「牡羊座」にもひっかけたと思う :-)
米海軍の Fact Sheet によると、ARIES II は全部で 11 機が改修され、1997 年に引き渡しが完了したとのことだから、かなり新しい SIGINT 機材を積んでいたハズだ。これは、かなりおいしい獲物である。


事実はどうあれ、機体をぶつけるほどにきわどい飛行をさせた今回の事件といい、何かにつけて武力行使をちらつかせて台湾を恫喝する件といい、どうも最近の中国政府の行動は、危険な匂いがする。
かつての米ソ間冷戦は不幸な出来事だったが、そこにはまだ、今よりも一種の秩序が保たれていたのではないかと思う。むしろ、現在の中国政府の方が、危険な存在ではないかと思えてならない。

デイル・ブラウンの小説のように、核爆弾を何発も台湾上空で破裂させるほどには狂っていないと信じたいところだが、少なくとも武力行使の一発や二発ぐらいは仕出かすのではないか… そんな危惧が拭えないのだ。

お断りしておくが、私は中国人民に対して何か恨みがあるわけではない。ただ、中国共産党政府の動きに対して、懸念しているだけだ。

私が本稿で書いた仮説が当たっていれば、中国は、あれこれと理由を並べたり難癖をつけたりして、EP-3E の機体返還に抵抗するだろう。最悪の場合、そのまま分捕ってしまうかもしれない。現に、北朝鮮はプエブロをそのまま分捕ってしまったではないか。
ともあれ、今後の中国政府の動きは、口先の表現よりも雄弁に、彼らの隠れた意思を証明することになるだろう。

関連サイト

EP-3E 事件に関する記事の一覧 (PACOM Web Site)
EP-3E Fact Sheet (US NAVY)

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