Opinion : 「成田に新しいアクセス鉄道を」の愚 (2001/5/30)
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マスコミ報道によると、いったい何を考えているのか、「成田空港と羽田空港から、それぞれ都心まで 30 分で移動できる新しいアクセス鉄道を建設する」という案が出ているらしい。
私はこれを聞いたときに、思わず「何を馬鹿なことを !」と思ってしまった。通常の週刊ペースから外れるが、あまりにも腹が立ったので、緊急掲載したい。
そもそも、すでに成田空港にも羽田空港にも、アクセス鉄道が 2 本ずつ入っている。成田の場合は京成と JR、羽田の場合は東京モノレールと京浜急行だ。
これらのうち、京成は線形が悪いからスピードの面でやや見劣りするというハンデがあるし、京浜急行は蒲田駅の分岐がボトルネックになっている。
また、都心側のターミナル駅についても、京成は上野、東京モノレールは浜松町、京浜急行は品川から都営浅草線と、いわゆる「東京の中心街」へのアクセスという観点から見ればハンデがあるのは否めない。
しかし、だからといって、いまさら新しい鉄道を建設するというのは、いくらなんでも滅茶苦茶だ。用地のことを考えれば、建設には 20 年ぐらいかかるだろうし、その間に情勢がどういう変化をしているか、分かったものではない。
よしんば、もっと早期に完成したとしても、それで既存各社を相手に「民業圧迫」をしてまで、新しいアクセス手段を建設する理由にはならない。
だいたい、成田空港がいくら遠いといっても、せいぜい都心から 60km 程度だ。距離を短縮して 50km 程度とし、所要時間を能書きどおりに 30 分にしたところで、現在の <成田エクスプレス> だって最速で 53 分かそこらで東京駅から成田空港まで行くのだから、せいぜい 20 分程度の短縮にしかならない。
その 20 分足らずの短縮のために、何千億円もの経費を投入するというのでは、コスト パフォーマンスが悪すぎる。
しかも、新しいアクセス鉄道がたとえば東京駅か大手町あたりに乗り入れるとしても、すべての利用者がそれで恩恵をこうむるわけではない。首都圏ならびに関東甲信越地域の住人が羽田、あるいは成田を利用するのだから、できるだけ広い範囲にアクセス手段を波及させることの方が、トータルでの移動時間の短縮という点で利益になる。
非常にありそうな話だが、新しいアクセス鉄道を都心に入れるなら、まず間違いなく地下線になるハズだ。となると、既存の他の鉄道に乗り換えるために、京葉線東京駅のように 10 分以上かけて移動しなければならないなんていう、超間抜けな事態にならないと誰が保証できようか。
しかも、地下駅となれば、大きな荷物を抱えた空港利用客にとっての移動コストは、さらに高いものになる。付け加えれば、乗り換えた先の在来線は空港利用客に対する配慮など何もないのだから、乗客にとっては、はなはだ不便なアクセス手段になりかねない。
ましてや、「高スペック志向」の日本の政治家や役人が新しいアクセス鉄道を作るなんてことになったら、トチ狂って「リニアモーターカーにする」なんてことをいうかもしれない。そうなったら、在来線との相互乗り入れは不可能だ。そんなもの、造るだけ無駄である。
まずは、どうして <成田エクスプレス> や <はるか> がウケているかを考えてみるべきだ。
いずれも、JR 在来線のネットワークを駆使して、単に都心側ターミナルにとどまらない広い範囲にアクセス手段を提供しているから、好評なのではないか。
<成田エクスプレス> の場合は東京駅の乗り換えが超不便だが、それでも新幹線と物理的につながってはいるし、<はるか> の場合、新大阪駅の乗り換えは東京駅よりも使いやすい。これなら、新幹線で遠隔地からやってきた人が、スムーズに空港に移動できる。結果として、空港アクセスのネットワークが広域化して、より多くの人に恩恵がもたらされるのだ。
当局者の反論を承知の上でいってしまうが、今回の構想は単に、「公共事業」と称して田舎に誰も使わない道路や橋を造っている、という批判から逃れるために、場所を都心に変えて、都会の住人を懐柔しようとしているだけだ。そして、公共事業の名目作りに利用しているに過ぎない。
仮に「大手町から成田空港 (あるいは羽田空港) まで 30 分」のアクセス手段ができたとしても、それで得をするのは大手町近辺の一部の企業と、世界に冠たる優秀な日本のお役人様御一同、後は永田町の政治家諸氏、といったところに限られる。
そんなもののために資金を投入するくらいなら、総武本線や京成本線の線形改良 (あるいは短絡線建設)、あとは空港アクセス鉄道ができるだけ広い範囲に乗り入れできるようにするための工事に資金を回す方が、何万倍もよろしい。
また、直接の空港アクセスに関わらない路線に対しても、空港利用者にとって優しい施策 (たとえば、大荷物を持っていても移動しやすいように平面移動を増やすとか) 対策を施すことの方が、地味ながら、トータルで利益の多い施策ではないのか。
ついつい、交通手段の改良というと「点と点の所要時間短縮」に目が向きがちだが、実際には、その「点と点」だけを利用している人は少ないのだから、もっと面的な広がりを持った改善策を講じる方が、はるかに有益な結果になるハズだ。国土交通大臣には、そこのところを考え直していただきたい。
いまさら、ブラン・ニューのアクセス鉄道など作っても、万里の長城と化すだけである。
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