Opinion : NMD 構想は単なる無用の長物か ? (2001/6/4)
 

相変わらず、次から次へと田中真紀子外務大臣の発言が論議を呼んでいる。

外務官僚とのバトルについては援護射撃したい部分もなくはないが、アメリカの NMD 構想に勝手に異議を唱えてみたり、ブッシュ大統領の資質を疑うかのような発言をしてみたりしているのは、まことに重大な問題だ。ヘタをすると、これが小泉政権の命取りになりかねない。

私は以前から書いていることだが、田中真紀子という人は野次馬としていいたい放題いわせている分には面白いタレントだが、責任ある立場に就いた後にも同じノリでやられては、問題があるのだ。現に、その通りになってしまっているではないか。

本来は政権の人気取りのために入閣させたハズの人が、政権の足を引っ張ってくれたのでは洒落にならない。外務大臣には、自分が口にする一言一句が、さまざまな方面に影響を及ぼすのだということを、十分に自覚していただきたいものだ。

といったところで、田中外相がいうように、本当に NMD は無駄な構想なのか、その辺について考えてみよう。


いきなり結論めくが、弾道ミサイルを迎撃するというのは、いうは易く、行うのは至難の業だ。相手は極超音速で成層圏の上から突っ込んでくる上に、断面積が小さい。これを迎撃するために許される余裕は、極めて少ない。いくら優秀なミサイルでも、そんなターゲットにぶち当てるという仕事が、そんな簡単にできるわけがない。

個人的には、弾道ミサイルは発射前か、あるいは発射した直後のスピードが出ていない状態で潰すしかないと考える。だから、米空軍が推進中の AL-1 (Airborne Laser) 構想に期待しているのだが、日本のように「専守防衛」の国には、敵地に乗り込んでブースト段階のミサイルを叩き落す AL-1 のような飛行機は、使いたくても使えない。これは以前に NIFTY の電子会議室で、ある人に指摘されて気が付いたことだ。

立場としては台湾や韓国も似たようなもので、だからこそ弾道弾迎撃に少しでも効果がありそうな装備を求めて、あれこれと苦労させられる。台湾が PAC-3 やイージス艦を欲しがるのも、理由があってのことなのだ。

アメリカの場合、近所に弾道ミサイルをぶち込んでくるような国があるわけではないから、世界各地に出動した米軍の頭上を護る TBMD と違い、アメリカ本土に対する脅威といえばロシアと中国の ICBM ぐらいしか存在しない。ロシアが再び、キューバに弾道ミサイルを持ち込めば話は別だが。

そして、ロシアはまだしも、中国の ICBM の数などタカが知れている。数が少なくても大量破壊をもたらすのが核兵器の困ったところだが、それでもアメリカのように国土が広いと、ミサイル数発で国中が壊滅、ということにはならない。
とはいっても、人口密集地帯に撃ち込めば大変なことになるから、無視することは絶対にできないが…

そういう意味では、ロシアと比べると中国の戦略核の脅威は、相対的に低い。
もし、アメリカが NMD をモノにしてしまえば、大量の核ミサイルを有するロシアにとってはともかく、中国にとっては、数少ない自国の戦略核が、半ば無力化されてしまうという事態になる。

そうなれば、核兵器をバックにした相互確証破壊 (MAD) によって維持されている力のバランスが崩壊し、アメリカ絶対有利ということになりかねない。中国が NMD に猛反発しているのは、実は、そういう背景があるからだろう。中国が、アメリカ並みの水準の弾道弾迎撃兵器を今すぐに開発できるとは、到底思えないし。

ここで注目したいのは、アメリカが NMD をやるぞ、といい出しただけで、中国が過敏反応し、あれこれと騒ぎ立ててフリクションを引き起こしている点だ。また、中国としては、NMD に対抗するために、新型の ICBM の開発、あるいは、(できもしないのに無理やり) 自国における弾道ミサイル迎撃構想の推進に動く可能性がある。

アメリカの隠れた狙いは、ひょっとすると、その辺にあるのかもしれない。ちょうど、ソ聯が戦後数十年にわたって延々と、アメリカの爆撃機を迎え撃つための防空システムの開発と配備に巨費を投じたのを一因として、経済難から瓦解したように…

もちろん、アメリカは本気で資金を投入して、さまざまなウェポン・システムの開発を行うのだろうが、それによって中国に対抗手段開発のための無駄金を使わせたり、あるいは政治的圧力をかけるためのカードとして利用したりする、という狙いもあるように思えてならないのだ。ちょうど、北朝鮮の弾道ミサイル開発のように。

もちろん、弾道ミサイル迎撃ブームということになれば、アメリカ製の兵器、つまりパトリオットや新型の PAC-3、イージス艦やスタンダード SAM などが、弾道ミサイルの脅威に晒されている各国に輸出できるという御利益も考えられる :-)

また、弾道ミサイル迎撃という「高いゴール」を目指してさまざまな兵器開発を行えば、もし NMD そのものがポシャっても、NMD のために開発されたさまざまな要素技術がスピンオフして、他のウェポン・システムのレベルアップを行うという効果が期待できる。

マスコミも、各国の政治家も、いうまでもなく「反戦平和」を唱える諸団体も (笑)、NMD のような「新兵器開発」ということになれば、思惑の違いこそあれ、口を揃えてブーブーいうのは間違いない。

しかし、それらはあくまで表面的な部分だけを見ていることにしかならないのではないか。たまには、表面的な「NMD の推進」という言葉の陰に隠れた、裏の思惑まで読み取ろうと努力する物好きがいても、決して無駄ではあるまい。


ちなみに、アメリカで弾道ミサイル迎撃手段として開発されている主な兵器には、

  • PAC-3 弾道弾迎撃ミサイル
  • THAAD 弾道弾迎撃ミサイル
  • イージス艦 + SM-3/SM-4 弾道弾迎撃ミサイル
  • AL-1

がある。また、イスラエルで開発中のアロー・ミサイル (これにはアメリカの資金も入っている) や、これもイスラエルが短射程のロケット弾迎撃兵器として開発中の THEL (Tactical High Energy Laser) も、広義のミサイル迎撃兵器に分類できそうだ。
このように、アメリカとその周辺だけとっても、ミサイル迎撃分野について、すでにさまざまな兵器開発が進められている。まかり間違って、一つくらいはモノになっても不思議はない。(個人的には、イージスと AL-1 に着目している)

この辺の兵器開発に関する情報は JDW 誌に載ることも少なくないので、当サイトに掲載される情報を注目してウォッチしていると、何か特ダネがつかめるかもしれない。
…と、最後に宣伝しておこう (笑)

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