Opinion : 空飛ぶ陸軍部隊 (2001/6/25)
 

最近、アメリカも含めて各国の陸軍の新装備というと、装輪車両の話が目立つ。冷戦の頃には考えられなかった話だ。
たまに装軌車両の話が出てくるかと思うと、イギリスで軽量化のために、車体をグラスファイバー製にした装甲兵員輸送車を研究している、なんていう話だったりする。これは、かなり本気でやっているらしい。

どうしてこんなことになったかというと、最近では冷戦期のような、大規模な機甲部隊同士の衝突よりも、平和維持活動や小規模な地域紛争に対する備えが重視されていることと関係がある。


冷戦期間中に、NATO、あるいはワルシャワ条約機構に属する諸国が考えていたことといえば、ヨーロッパを舞台にして、東西両陣営の戦車部隊同士が正面衝突する、というシナリオだった。規模や地勢は違うが、中東戦争も似た一面がある。

特にソ聯軍は戦車と火砲が大好きな陸軍だから、新旧取り混ぜて、信じられないような数の戦車を擁していたのは、皆さんも御存知だろう。ところが現在、そのソ聯軍の末裔たるロシア軍は、チェチェンでゲリラ相手の討伐戦に手を焼いているのだから、なんとも皮肉な話だ。

実際に数百両もの戦車が所狭しと暴れまわった戦争というと、10 年前にクウェートの砂漠で何日かやったぐらいで、それと中東戦争を除外すると、ほとんど実例がなくなってしまう。特に 1990 年代以降は、対ゲリラ戦や対テロ戦など、どちらかというと「不正規戦」に属する話ばかりが目立つ。

そうなると、ばかでかい戦車や自走砲を、膨大な量の補給物資と一緒に輸送船で運び込んで戦争をするというスタイルでは、どこかで突然 "花火" が上がったときに、即応するのが難しい。また、"花火" の規模は比較的小さいから、ヘビー級の戦車ほどの能力は必要ないケースも多い。

そういう考えから、飛行機で運べる装輪式の車両を主体にした陸軍部隊の編成、という考え方が出てきたのだろう。
たとえば、米軍では LAV をベースにした装輪車両のファミリーの開発を進めているが、それに加えて MLRS の装輪バージョン・HIMARS なんていうものも開発している。搭載できるロケットの数は半減しているが、それでも、これが完成すれば空輸可能な部隊の火力が大きく増す。頼もしい味方になりそうだ。

ただ、勘違いがないように念を押しておくと、機甲部隊を基幹とする「重機甲師団」が、もう要らない、ということはないと思う。重師団の所要数は減るだろうが、いきなり全部止めてしまうのは、ラジカルに過ぎるというものだ。

ともあれ、規模の小さい部隊を迅速に展開する、となれば、船便では間に合わない。空輸するしかない。だが、大型の輸送機が離着陸できるような、都合がいい施設の整った空港が常に使えるとは限らない。

おそらくはそういう考え方からだろうが、どこの国の新装備でも、「C-130 (ないしは同規模の輸送機) で空輸できる」という条件がつけられている。C-130 がベンチマークになっているというのが、なかなか興味深い。
なにしろ、前線の飛行場まで一気に空輸をする、といって C-17 を開発した米軍ですら、C-130 をベンチマークにしているのだ。

そもそも極端な話、C-17 があれば、C-130 は要らないはずなのだ。戦略空輸と戦域空輸の区別をなくして、アメリカ本土から一挙に前線近くまで空輸できるように、というのが C-17 開発の狙いだったのだから。
ところが、結局は C-130 も死に絶えることなく、最新型 C-130J の調達が続いている。そして、米陸軍では、その C-130 で空輸できる陸軍を作ろうとしている。(そういえば、戦闘機をすべて手放すことにしたニュージーランド軍も、C-130 は手放さないらしい)

軍用輸送機の基本形を確立した件といい、戦域空輸のエースとなっている点といい、現在の "空輸可能な" 戦力を形成するに際してベンチマークとなっている点といい、本当に C-130 というのは偉大な輸送機だと思う。


19 世紀以前の戦争では、戦場は地面と海の上に限られ、いわば 2 次元の戦場だった。第一次世界大戦で航空機が兵器として登場したが、これが 20 世紀最大の革新だったということについては、論を待たないだろう。

航空機の登場は、単に戦場を立体化したというだけでなく、戦略爆撃や縦深阻止のような前線以外の場所への戦場の拡大と、陸上・海上に交通手段のない場所への戦力や物資の投入という革新を生み出した。冷戦末期の米陸軍では、最前線と後方を同時に立体的に攻撃する、エアランド バトルという概念も生み出した。

そして、規模こそ小さいとはいえ、陸軍の部隊そのものが、空の掛け橋を通じて世界各地に急遽投入される時代が来ようとしている。その部隊は、空挺部隊のように限られた内容のものではなく、歩兵も車両も火砲も、それなりのレベルのものが揃ったものであるという点が、これまでとの最大の違いだ。

また、そのような「空飛ぶ陸軍」の誕生は、必然的に陸軍とその他の軍種 (特に空軍) の間の、協力関係の強化を必要とする。そうなれば、軍全体の指揮系統のあり方にも影響を及ぼすことになるのではないだろうか。

ただ、願わくば、そうした戦力が実際に投入されることがないようにしてもらいたいものだ。軍事力のあるべき姿というのは、それが存在することによる抑止効果の発揮なのだから。

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