Opinion : 「愛国心」を考える (2001/7/2)
 

「歴史教科書」をめぐる論議について見聞きしていると、気になって仕方がないことがある。それは、「自分の国の悪いことばかり聞かされて育つと、愛国心が持てない」という言い分のことだ。

以前から、陸軍省文部局、じゃなくて文部省は愛国心がどうのこうのといっているわけだが、今週はこの言葉について考えてみたい。


まずは個人的な話だが、私は日本という国に愛着があるかと聞かれたら、「ある」と答える。これは間違いない。
日ごろの私のコラムを御覧いただいている皆さんなら、「日本のことをあれこれ悪口ばかり書いてるくせに、なんだよ」と怒り出しそうだが、まあ聞いていただきたい。

私が愛着を持っている「日本」というのは、正確には、日本の風土であるとか、自然であるとか、そういったもののことだ。たとえば、現在の日本の政治体制に愛着があるかというと、これはいささか疑問符が付かざるを得ない。

ただ、政治体制に問題があるからといって、簡単に他所の国に逃げ出すことばかり考えるような人は、どこの国に逃げ出しても、結局はうまくいかないと思う。

漫画や TV ドラマのヒーローに毒されて、現実社会におけるヒーローの出現を待望してしまうのも同じことだ。ヒーローが出てきて、一夜にして世の中が良くなるなんていうのは、所詮は絵空事であって、現実にそんなことをやってうまくいった試しはない。
むしろ、「革新的な」ヒーローの出現は、えてして独裁体制の確立と、それに伴う国家の崩壊を生んだ事例の方が多くはないか。

今の日本の政治体制に問題があるなら、現行の選挙制度などを通じて地道にそれを変えていく努力をするのが本筋で、武装革命だの亡命だの (亡命は、正確には抑圧的な政治体制下でないと成立しない行為だが) というのは、とどのつまりは「逃げ」に過ぎないのではなかろうか。


おっと、話が脱線した。「愛国心」の話だった。

そもそも「愛情」というのは、何も国 (正確には国土か) に対してだけ抱かれるものではなくて、生身の人間やペットなどに対しても注がれるものだ。
そこで考えてみていただきたい。自分が "愛情" を抱いている、人でも動物でもぬいぐるみでも (爆)、それが完全無欠な、何の欠点もない存在であるものだろうか ?

理想論からいえば、長所も短所も、みんなひっくるめて認めた上で、相手のことを受け入れるのがホンモノの愛情ではないか、という主張がある。それは「国」が相手の場合でも同じではないのだろうか。

どこの国でも、過去に「負の歴史」を何も背負っていない国などというものは (昨日建国したばかりの国でもない限り) あり得ない。問題は、その「負の歴史」と、どのように向き合うか、ということではないかと思う。

もし、過去の失敗を直視せず、なんとなく失敗をなかったことにしてしまうような国があれば、その国は同じ失敗を繰り返す恐れがある。過去の失敗を直視した上で謙虚に学び、同じ失敗を繰り返さないようにする国が信頼されるのではないだろうか。問題はそこだ。

もちろん、「負の歴史」ばかり強調するのもおかしいと思うが、「陽の歴史」ばかり強調して過去の失敗を「なかったこと」にしてしまったのでは、過去の失敗に学ぶことができない。それでは、また同じ失敗を繰り返すことにならないか ?

パスカルは「人間は考える葦である」といったが、過去の失敗に対して目をつぶってしまったのでは、お世辞にも「考える葦」などといえた義理ではない。成功も失敗も、すべて直視した上でその教訓を今後に生かすという姿勢が、個人でも企業でもお役所でも、そして国家でも、同じように必要なのではないだろうか。


どうも、「愛国心」をタテにして左翼系の "教育者" とやりあっている人の多くは、「負の歴史」に対して目をつぶりすぎる傾向があるように思える。これも、何かにつけて両極端に走りやすい、この国の議論形態の一つの典型といえるが、そんな不毛な議論ばかり続けていても、未来の日本の役に立つ人材を育てる教育はできないと思う。

そもそも、歴史認識に正解はない。十人十色、百人百様の見方があるのが歴史というものだ。
それぞれの人が、自分なりの見方で歴史を見つめて、そこから教訓を学ぼうと思ったら、「陽の歴史」ばかりを強調するのも、反対に「負の歴史」ばかりを強調するのも、どちらも同じくらい有害なことではないのか。

そうなると、どちらにしても結局のところ、自分たちが住んでいる「日本」という国に対して「長所も短所もみんな認めた上で受け入れる」という結果にはつながらないと思う。それでは、ホンモノの「愛国心」は育たない。だいたい、自分の国の「負の歴史」について聞かされただけで消し飛んでしまうような「愛国心」が、果たして何の役に立つのだろうか?

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