Opinion : 「上下分離」の提案 (2001/7/16)
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NTT再編成によって、東西地域会社と長距離会社が分割されたが、これによって競争が促進されたかどうかという点については、いまだに喧喧囂囂の議論が絶えない。ADSL 導入の件にしても、光ファイバー敷設の件にしても、やれ「NTT が他の事業者に意地悪をしている」だの、「光ファイバー敷設地域のばらつきに拠るデジタルデバイド」だのと、特に地域会社は叩かれっぱなしだ。
実は拙宅も、最近になって建設されたマンションの常で、光ファイバーで線が引き込まれているらしい。これでは ADSL は使えない。まあ、どっちにしても ADSL というのはニアチップ (near-tip、「つなぎ」の意) で、政府が掲げる方針を見ていても本命が光ファイバーだという路線に変わりはないようだから、ADSL に期待し過ぎるのも問題があるような気がする。
ただ、ここで問題にしたいのは、銅線だろうが光ファイバーだろうが、加入者線を NTT 地域会社が握ったままでは、金輪際、他の事業者にとっては平等な競争などできっこない、という点だ。
東西 NTT 地域会社とて営利企業だから、自社ができるだけ利益を出せるようにコトを運びたい、と考えるのは無理もない。ただ、自分達の努力で加入者線を制覇したのならともかく、「電電公社」という先祖の遺産で食いつないでいるわけだから、あまり誉められた話とはいえない。きついいい方をすれば、先祖の遺産で食いつないでいる利息生活者のようなものだ。
そんな調子だから、「加入者線を NTT 以外の『公団』に所有させれば良い」という、いわゆる「加入者線公団構想」みたいなものが出てくるわけだ。
住都公団などの例を見ても、「公団」という形態には問題がおおありだと思うが、加入者線という「インフラ部分」を独立した企業体に保有させて、それを NTT を含む通信事業者各社に対して貸し出す、という営業形態、それ自体は、いいアイデアだと思う。
たとえば、NTT 以外の ADSL 事業者が参入に苦労したのも、加入者線というインフラを握っている NTT があーだこーだと理屈をこねたせいだ。NTT は自社の加入者線を使っておいしい商売をしたいし、そこに他の事業者がやってきて、たとえば ISDN みたいな NTT の「めしのたね」をかっさらっていったのでは面白かろうハズがない。
私は、なんとなくタイミングを逸して ISDN を導入しそこない、引越によっていきなり 128kbit/sec の常時接続回線が備えられた「インターネット・マンション」になってしまった人なのだが、NTT としては、ADSL なんてモノが出てこなければ、ISDN で引っ張りたかったというのが本音ではないかと推測される。ISDN には高い設備投資をしてきているのだから。
(そういう意味では、ISDN には NHK のアナログ・ハイビジョンと似たものを感じる。NHK にはぜひとも、「ISDN」と「アナログ・ハイビジョン」を「プロジェクト X」のネタにしていただきたいものだ :-)
それにしてもインチキだと思うのが、かつて NTT が流していた ISDN の CM だ。「ISDN はモデムよりもこんなに速い」という趣旨の CM だったが、すでに 56K モデムがどんどん出てきている御時世に、CM における比較対象が V.34 モデム (33.6kbit/sec) とはふざけている。あれでは、マーク II がサニーかブルーバードあたりを相手に比較広告をするようなものではないか。(トヨタならびに日産の皆さん、引き合いに出してしまってすみません)
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かくして、「東めた」などがさんざん待ちぼうけを食わされた挙句に、NTT 自体が「フレッツ・ADSL」をおっぱじめるという、いささか不公平な状況が現出することになる。加入者線のインフラを第三者が保有していれば、こんな間抜けなことにはならない。
分かりやすい通信事業を例に出したが、たとえば鉄道事業でも同じことがいえると思う。
かなり以前に、ニュータウン新線などが既存路線と別の事業体になってしまうせいで、運賃が割高になるなどの弊害が生ずる、という指摘をしたことがある。典型例としては、京成-北総開発-住都公団のケースがある。
これも、国土交通省から免許をもらって線路を建設・保有する会社と、そこからインフラを借りて営業活動を行う会社に分けてしまえば、解決できないか。そして、線路の保有が違っていても営業活動を行なう会社が単一にまとまれば、初乗り加算による割高運賃という問題は解決する。
つまり、通信も鉄道も、インフラとサービスの両方を提供する「第一種」ではなくて、インフラだけを保有する「第三種」と、サービスだけを提供する「第二種」に分けてしまうのだ。電気通信事業の世界にはインフラだけを貸し出すダーク・ファイバーやドライ・カッパーの例がすでにあるし、鉄道界にも「神戸高速鉄道」という先例がある。
ぶっちゃけた話、道路や海運、航空はすでに「上下分離」化されている。
たとえば、道路を保有・運営する組織と、その上でバスやタクシー、自家用車を走らせているのは、それぞれ別の組織や個人だ。通行料、あるいはガソリン税などの形で、インフラを保有する側に対して利用者は費用を支払っている。それと同じ理屈を他の業界にも適用するのだ。
まあ、こういうのはケース・バイ・ケースで、あらゆる事業について「上下分離」を取り入れればうまくいく、というものでもなかろうが、「何でも自前でやる」ということに固執する前に、検討するだけでもしてみればいいんじゃない ? ということを申し上げたいのだ。
政府は「世界最先端の IT 立国」と称して光ファイバーを張り巡らそうとしている。日本中に光ファイバーを張り巡らすだけで「世界最先端の IT 立国」とはお笑い種だが、それについては別の機会に論じることにしたいが、問題はその整備方法だ。
電話のときと同様に NTT に光ファイバー整備を一任したら、ADSL のときと同じような騒動がまた起こり、日本の通信事業はいつになっても NTT 支配から脱却できない共産国家状態、ということになる。それなら、「光ファイバーを保有する会社」と、「それを借りてサービスを提供する会社」に分けてしまう方が、競争の創出には効果がありそうな気がする。もちろん、東西 NTT 地域会社も「サービスを提供する会社」に改組してしまうのだ。
「光ファイバーを保有する会社」の形態としては、「公団」は問題ありだと思うので、通信事業者各社が共同出資して民間企業として設立するか、あるいは国や地方自治体も一枚かませて三セクにするか、そんなところではないだろうか。
もっとも、国や地方自治体が主導権を握った三セクを作るとロクなことはないので、出資はあくまで「民間主導」であるべきだろう。
というわけで、IT 戦略会議の皆さんにも、国土交通省の皆さんにも、もう少し「上下分離方式」ということを考えてみてもらえれば、と思うのだが、いかがなものだろうか。
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