Opinion : 食う寝るところに住むところ (2001/7/30)
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去年の 11 月に訪米し、ワシントン DC 近辺で博物館回りをしたり、ラスベガスで COMDEX/Fall を見物したりした。海外旅行とはいっても、この内容では息抜きというより仕事である。
この旅行、本来の目的の部分では大きな成果があったのだが、なにしろ「貧食」旅行だった。
だいたい、最初に乗った UA 機の夜食「きつねらあーめん」あたりからして騒動の火種は見えていたのだが、NASM のカフェテリアのハンバーガーはイマイチ、翌日にフォート・ミードから帰った後でスーパーに立ち寄って買い込んだ菓子パンは激甘、といった調子で、ワシントン DC における食生活は散々なものだった。ホテルの朝食がまともでなかったら、頭がおかしくなりそうだ。
ラスベガスでは、そこまでひどくなかった。ラスベガスのホテルはたいていがバフェ (いわゆるバイキング方式) だから、食いたいものを気軽に食えるという点では、一人旅にはありがたい。特にベーグルはうまかった。(ただし、ケーキ類は最悪)
あと、「THE MIRAGE」の日本食屋で食べた寿司は、ちゃんとした寿司だった。ネバダの砂漠でまともな寿司にありつけたのは、ちょっとした感激だった。
最後に立ち寄ったシアトルでは、地元民の案内でレドモンドのイタ飯屋に行った。これも、分量の異様な多さはともかく、味の方はなかなか。やはり、地元民の案内付きというのはありがたいと痛感した次第だ。
で、何をいいたいのかというと、自分のホームグラウンドを離れて、知らない土地に外征した場合、いかにして食生活の面で士気を維持するかというのが重要な課題だ、ということなのだった。次回の渡米に際しての、重要な課題だ。
とりあえず、日本でもアメリカでも同じものにありつけるという点では、スターバックスをチェックした。だが、これは飯を食う場所ではない。
マクドナルドは「世界の言葉」というものの、やはり日米でなんとなく違うのだ。多分、米海軍基地のマクドナルド (ちなみに、空軍基地はバーガーキング) では、日本と違う食材を使っているのではなかろうか。
先日、書店で「戦闘糧食の三ツ星をさがせ !」という本を見つけたのだが、この本、実に面白かった。
世界各地の紛争地帯に取材に行った著者が、そこに平和維持活動などの目的で展開している各国軍隊の戦闘糧食をもらってきて試食するという内容なのだが、その戦闘糧食の内容が、実にお国柄を反映して、バラエティに富んでいるのだ。
たとえば、ノルウェー軍は寒冷地の軍隊だからか、日量 7,500kcal という「超高カロリー食」になっているという。米軍の MRE はバージョンアップごとにメニューが増えて、最近ではベジタリアン向けのメニューまであるそうだ。
我が自衛隊は、やはり日本人だから「米だ、米 !!」というわけで、例の「缶飯」や、レトルトの御飯物が登場する。特に、レトルトの「戦闘糧食 II 号」には、使い捨てカイロの要領で飯を温めるヒーターまである (これは米軍の MRE にもあるそうだ)。
戦闘糧食といえば携帯性や保存性が第一で、味やその他は二の次かと思っていたら、これがとんでもない誤解。各国とも、より優れた戦闘糧食を開発するために努力しているのだということが、行間から読み取れた。
多分、MRE が「エチオピア人も食わない食事」などと揶揄されるのは、似たようなモノを毎日続けて食わされるからではないだろうか。
米軍では、日本国内の基地でもアメリカ国内チェーンのバーガー屋に店を出させて (決して「モスバーガー」や「ロッテリア」ではない)、アメリカ国内と同じ物を食わせている。横田基地のフードコートを訪れたことがあるが、雰囲気も食い物の量も、完全にアメリカンだった。やはり、フェンスの向こうは日本ではなくアメリカなのだ。
外国に展開したときでも国内と同じ物を食わせるということが、士気の維持に重要な役割を果たしているということを、米軍はちゃんと認識しているようだ。
あの、食い物の味に鈍感といわれがち (失礼) なアメリカですら、基地の食生活環境整備や MRE の改良に心血を注いでいるのだから、もともと「食」に対するこだわりの深いフランスやイタリアの軍隊では、戦闘糧食というにはもったいないような内容のものが出てくるらしい。
やはり、「食」というものが、単なる栄養補給と生存の手段にとどまらず、士気を維持する重要な手段なのだということが、この本を読んで、改めて認識できた。
なんでも、イタリア軍にはコンテナ式の「機動ジェラート・マシーン」なんてモノまであるそうだ。おそれいりました !
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日本の場合、「自衛目的の戦争」しか想定していないから、戦闘糧食一つとっても「外征軍」の米軍などとは事情が違うと思う。だが、最近では PKO などで外国に人員が出向くことも多いから、そうした自衛隊員が「食」の原因で士気を落とさないような配慮も必要ではないか、ということを感じた。
もちろん、「食う寝るところに住むところ」というぐらいだから、寝る場所や衣類の洗濯などにも気を使う必要があるだろうが、それは「食」と比べると、「衛生」や「健康」という、もっと物理的な問題といえる。
目に見えないけれども影響が大きい、という点では、「食」の問題に優るものはないのではないだろうか。単純に、栄養価が満たされていればよい、という問題ではないのだ。
あと、戦闘糧食といえども「お国柄」を反映しているということは、PKO のように多国籍で部隊を編成して任務にあたる場合、戦闘糧食をネタにした国際交流ができる、という余禄もありそうだ。実際、「戦闘糧食の三ツ星をさがせ !」によると、PKO 参加部隊で「戦闘糧食コンテスト」を開催したりする事例もあるらしい。
そこで自衛隊の糧食が好評を博したりすれば、これは考えるだに楽しい光景ではないか !
F1 グランプリのパドックにおいて、チームやエンジン・サプライヤーなどのホスピタリティで出される食事も、案外、同じような機能を果たしているのではないかと思う。
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ともあれ、特に志願制の軍隊では「マトモなものを食わせる」ということも重要な要素だと思うから、予算が厳しくて大変だとは思うが、糧食の改良にも力を入れていただきたいなあ、と思ったのであった。
余談だが、戦闘糧食というのは保存食としても優秀だと思うから、もし可能であれば民間の希望者にも放出してみると、面白い意見が聞けるかもしれない。
もっとも、(軍隊にとっては) 的外れな意見もたくさん出そうだけど…
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