Opinion : 「成田新高速鉄道」の怪 (2001/8/20)
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例の「成田空港と都心を結ぶ新しい高速鉄道」を来年から着工するというニュースが流れた。
最初にこの話を聞いたとき、私はてっきりブラン・ニューの新線を大手町あたりから造るのかと思ったが、蓋を開けてみれば竜頭蛇尾とはまさにこのこと。都市公団鉄道 (旧住都公団線) の先っぽを、成田市土屋まで 10.7km ほど延ばすのだそうだ。工費が 1,600 億円というから安すぎると思ったら、そういうことだったのだ。
しかし、根っこの部分に京成の線路をそのまま使っておいて「高速鉄道」とは聞いて呆れる。京成本線の線形の悪さは衆知の事実で、線形がいいのは京成高砂から先の、北総・公団線部分だけだ。
確かに、北総・公団線についていえば線形はいいし、千葉ニュータウンの入居率の低さが幸いして電車の運行本数もそれほど多くないから、「成田空港行き」を割り込ませる余地はありそうだ。だが、この程度の対策で「高速鉄道」とはまた、誇大広告にも程があるというものである。JARO に訴えられそうだ。
そこで、欺瞞を暴くため、ちょっとした算数をやってみよう。
<成田エクスプレス> の場合、東京-成田空港間は 79.2km ある。それに対し、現行の <スカイライナー> は、京成上野から成田空港まで 69.3km だ。にもかかわらず、線形の悪さが災いし、<スカイライナー> の方が時間がかかっている。
北総・公団線の、京成高砂-印旛日本医大 (現在の公団線の終点) 間は 32.3km あるから、これに京成上野-京成高砂間の距離 12.7km を加算すると 46.0km。これに 10.7km の線路を継ぎ足して成田まで延ばすということだから、京成成田-成田空港間の 8.1km も加算して、最終的な「新ルート」の距離は 64.8km と概算される。
「新高速鉄道」の終点とされる「成田市土屋」を地図で調べると、成田線から空港に向かう JR の線路が分岐するあたりになる。ここから空港までの距離は京成成田から成田空港までの距離と大差ないようなので、上の数式を採用した。誤差はせいぜい数 km 程度だろう。
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さて。現行の京成ルートと、概算された「新ルート」の距離を比較して欲しい。
69.3km vs 64.8km (概算値) ということは、たった 5km 足らずを短縮するために、1,600 億円を投じるという計算になる。距離の短縮比率は 7.5% 足らずに過ぎない。
実際には、京成高砂以遠では線形のよさにモノをいわせてスピードアップできる可能性があるから、時間短縮効果は距離の比率より大きなものになろうが、それでも 3 分の 2 とか半分といった、ドラスティックな時間短縮効果は期待できそうにない。少なくとも、京成高砂より都心側でスピードアップできる可能性はゼロだろう。
これが「新高速鉄道」の正体だ。
仮に、全区間を通じて表定速度 100km/h を実現したとしても、京成上野から成田空港までの所要時間は 40 分かそこらという計算になる。現実的には、こんな数字は実現不可能だから、<スカイライナー> と比べればかなりのスピードアップになるにしても、<成田エクスプレス> との差は少ないという結論になりそうだ。そんなもので「東京の国際競争力強化」とは笑わせてくれる。
しかも、京成電鉄には悪いが、東京側のターミナルが京成上野になってしまうというのがよろしくない。これでは、上野から先のアプローチがボトルネックになって、10 分かそこらのスピードアップなど帳消しにしてしまう。乗り換えが超面倒とはいえ、東京駅に乗り入れている <成田エクスプレス> の方がはるかにマシだ。
おまけに、京成上野駅は JR 上野駅から少し離れているという不利がある。日暮里での乗り換えは利用しやすい距離だが、これとて乗り換えられる相手が山手線と京浜東北線、常磐線しかないから、恩恵が及ぶ範囲は少ない。新幹線へのリーチは非現実的だ。
では、京成高砂から都営浅草線を経由して羽田空港に足を延ばすというのならどうだろう。これならまだ許せなくもないが、都営浅草線は都心の一等地を外れて通っているから、利便性はイマイチだ。しかも、さらにスピードの面では不利になる。
だいたい、国際線で成田に着いてから国内線に乗り換えるために、わざわざ都心を横切って羽田空港まで行くという暇人はいないだろう。それは、ワシントン DC のダレス空港に着いたら、国内線に乗り換えるためにボルティモア-ワシントン国際空港まで移動しろ、というようなものだ。いくら成田発着の国内線が少ないとはいえ、誰がそんな真似をするだろうか。
というわけで、「新高速鉄道」という看板が、実はほとんど詐欺に近いものである可能性が出てきた。こうなると、「新高速鉄道」の建設で得をするのはいったい誰か、ということになる。
「新高速鉄道」をめぐる一連の動きを見ていると、千葉県の堂元知事が熱心だったようだ。千葉県といえば、北総開発鉄道の株主である。筆頭株主は京成電鉄だが、千葉県も少なからぬ出資をしているし、そもそも北総開発鉄道設立の原因になった千葉ニュータウンは、千葉県がぶち上げた事業だ。
もし、「新高速鉄道」が開業して「成田空港行き」が走ることになれば、その分だけ北総開発鉄道に運賃が落ちることになる。別の会社が第 2 種事業者になる場合でも、賃借料が落ちるから同じことだ。都市公団線にしても、事情は変わらない。
つまり、この一件は「成田空港アクセスの向上」に名を借りた、北総開発と都市公団線の救済策、という可能性が出てくる。となれば、陰で北総開発や都市公団に利権を持っている関係者が熱心に動いたとしても不思議はない。なんのことはない、ただのマッチポンプではないか。
また、千葉ニュータウン構想をぶち上げたものの入居率の低さに泣いている千葉県としては、この一件を契機に北総・公団線の沿線地域に世間の耳目を集め、「空港直結」を謳い文句に千葉ニュータウンの入居促進、という深謀遠慮があるのかもしれない。
だが、地価下落で「都心回帰」が起きているこの御時世に、誰が好き好んで千葉ニュータウンなんぞに住むものか。
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だいたい、事業主体がバラバラなままで「成田空港行き」を走らせれば、仮に新規建設部分が都市公団の所有になったとしても、京成-北総-公団-京成と、3〜4 社にまたがって走ることになる。これでは運賃が高くついて仕方がない。ただでさえ、北総・公団線の運賃の高さは有名なのだ。
「高速鉄道」といいつつも時間短縮効果といえば詐欺みたいなもので、しかも運賃が初乗り加算で馬鹿高い、おまけに都心側のターミナルは使いづらい、ということになれば、「新高速鉄道」を利用して成田空港に向かう人など、ロクにいないだろう。
ひょっとすると、国土交通省は <スカイライナー> を新線に振り替えた上で JR 東日本に圧力をかけて、<成田エクスプレス> の運行を止めさせるというウルトラ C を使うつもりかもしれないが、まがりなりにも民間企業ということになっている JR に対して、この「規制緩和と構造改革」の御時世に、そんな介入は許されないだろう。
もっとも、<スカイライナー> の新線振り替えには別の問題があって、京成電鉄有数の高収益部門をそっくり奪い取ってしまうことになるから、これをやったら京成電鉄が沈没しかねない。そうなったら、京成が大株主の北総まで道連れだ。
それを防ぐには、京成・北総・公団の大合併しかなかろうが、これとて関係する当事者が多いから、京成自身の経営体力の問題もあり、そう簡単に進む話ではないだろう。
こうなってくると、いったい何のための、誰のための「新高速鉄道」かと思う。このままでは、単なる資金の無駄遣いだ。関係者 (特に国交省) には、猛省と計画の再考を求めたいところだ。
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