Opinion : 報復行動の内容は ? (2001/9/15)
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アメリカで発生したテロ事件では、政府機関の立ち上がりの早さにも驚かされたが、アメリカ国民の団結ぶりにも驚かされた。
献血に行列ができるだけでなく、義援金集めや救援活動に人がどんどん集まる上に、議会では共和党と民主党が一緒になって武力行使容認決議まで出すというのだから、まさに虎の尾を踏んだ状態とはこのことだ。
あと、早々に国防総省やニューヨークの事件現場を訪れて、捜索や消火などの活動に当たっているメンバーを激励したブッシュ大統領は見上げたものだ。もちろん、それなりの安全策を考えた上でのことだろうが、こういうときに総大将が現場に出て来るのと来ないのとでは、士気の上がり方が全然違う。そのことをちゃんと分かっているのだから偉い。
もともと、あの国は「人工国家アメリカ」といわれるぐらいで、土地や風土に対する愛着をベースにした他国の「愛国心」とは性質を異にするところがあるように思える。自由を求めて各国から人々が集まってきたという、国家の成り立ちに起因するものだろうか。
それだけに、普段はいがみ合っていても、何かあると星条旗のもとに団結してしまうという傾向が強いということなのだろう。日常的にいろいろな場所で国旗が掲げられているのも、そうした事情を反映しているのだと推測する。
日本もかつて、太平洋戦争を仕掛けてみたら、へなちょこ民主主義国家だと思っていたアメリカにぶちのめされたという歴史があるわけだが、今度はイスラム原理主義者が同じ目に遭うことになりそうだ。といって、同情はしないが。
ただ、軍事的手段でもって報復するといっても、話は簡単ではなさそうだ。
もっともリスクが少ない方法は、アフガニスタン国内にあるウサマ・ビン・ラディン配下の施設にトマホークをぶち込むというものだが、これが全然効果を挙げられないのは、以前のミサイル攻撃で実証済み。ラディンが寝ている隣にトマホークが着弾すれば、ラディンが少々肝を冷やすという程度のものだろう。そんな攻撃で矛を収める相手とは思えない。
といって、まさか ICBM を発射するというわけにも行かないだろう。いくらなんでも、核兵器を使ったのでは過剰反応といわれてしまう。
では、地上軍を送り込んで大々的に掃討作戦をするという選択肢はどうか。
この場合の問題点は、アフガニスタンが内陸国家だという点にある。湾岸戦争のときにはサウジアラビアに整備された港湾施設が複数あったから、そこを通じて装備や補給物資の荷揚げができた。だが、内陸国家のアフガニスタンが相手の地上戦では、兵站がボトルネックになる可能性が高い。
しかも、アフガニスタンといえば山々が櫛比する天然の要害だ。そんな場所にうかつに攻め込めば、たちまち泥沼と化すのはソ聯が証明してくれている。しかも、場所が広い分だけ硫黄島よりタチが悪い。正直な話、選択肢の一つとしてならともかく、本当に地上軍を大規模に派兵するというのは難しいのではなかろうか。犠牲ばかりが大きく、効果が上がらない作戦になりそうだ。
では、空爆も駄目、地上戦も駄目となったら、どうすればよいのだろうか。
そもそも、報復の目的に何を掲げるかにもよるが、ここは一発、お尋ね者のウサマ・ビン・ラディンの身柄を押さえて、公開裁判にかけるというのが良いと思う。なまじ殺してしまっては、ラディンをイスラム原理主義者の英雄にしてしまうことになり、却って逆効果だ。
ラディンを捕まえてアメリカに連行し、公開裁判にかければ確実に終身刑にできる (死刑にするのは、前述のような理由により好ましくない)。その後は、普通の刑務所だと奪還作戦を企まれる可能性があるから、監視が行き届いていて、しかも物理的に脱走不可能な場所に - たとえばグルームレイク近辺にでも - 死ぬまで収監してしまえばよろしい。
ただ、タリバンは身柄の引渡しに応じないとしている。正確には、「ラディンが今回のテロ事件に関わっていたという明確な証拠がない限り引き渡さない」というものだが、何か証拠を出したところであれこれと難癖をつけるのは明白だから、事実上は引き渡し拒否と同義だ。
となれば、なんとかしてラディンの居場所を突き止めて、特殊部隊で急襲してラディンの身柄を拘束するというのが、比較的現実味のある作戦ではないかという気がする。
ああいう人物だから、居場所を突き止めるというのが難事業だろう。とはいえ、アフガニスタンが国際社会から完全に孤立してしまっている現在、ラディンがアフガニスタンの国内にとどまっているのなら、国外に出るというのは難しい。今もアフガニスタンのどこかにいるハズだ。
幸い、ロシアもパキスタンも (というか、アフガニスタンとイラク以外はほとんど全部が) アメリカの味方になってしまっているから、デルタ・フォースと支援の航空機を展開するぐらいなら、発進基地の設営は難しくないだろう。
相手がかなり堅固に守りを固めているという場合は、戦闘機による支援や、デルタ以外にレンジャー部隊を送り込む、ということになるかもしれない。ただ、あまり大規模な地上部隊を送り込むと、投入と撤収が大騒ぎになるのが悩ましい。
あるいは、大規模な軍事行動を「脅し」に使い、いまにもアフガン国内に米軍が大挙して乗り込むかのようなギリギリの状態にもっていくことでタリバンを揺さぶり、結果としてラディンの身柄引き渡しに応じさせる、という手もある。いわば「キューバ危機方式」だが、この場合、どこまで緊迫感のある「脅し」を展開できるかが鍵になる。
素人の勝手な言い草はこれくらいにしておいて。
今回の事件では、改めて「非対称戦」の難しさが実証されたように思える。テロの場合、犯人は非戦闘員の中に潜伏しているから、いってみればモグラ叩きのような状態が続くわけだ。そうした中で、市民生活の安全を確保するというのは簡単ではない。
とはいえ、空港のセキュリティを厳しくするとか、コックピットへの立ち入りを完全に止めるということはできると思う。「不定期日記」にも書いたが、アメリカの空港では搭乗券を持っていなくても、セキュリティ・チェックを通れば出発ロビーまで行けてしまうが、こうした「セキュリティ・ホール」はひとつずつ潰していくべきではなかろうか。
以前からテロリストに狙われやすかったイスラエルのエルアル航空がいいお手本になると思うが、今回の一件を教訓に、アメリカの民間航空はセキュリティ強化が必要ではないかと思う。乗客からは不満も出るだろうが、テロで死ぬよりマシだ。
あと、米軍についていえば、今後は情報部門と特殊作戦部隊の強化が図られるのではないか。「目には目を」とは少し違うが、SAS のように、ゲリラやテロリストと同じ目線で考え、行動できる部隊を持つことは、テロリスト掃討作戦には有効なハズだ。
ともあれ、どういう方法を取るにしろ、同じ事件を二度と再び繰り返させないこと、そして今回の事件の犯人を叩きのめすことこそが、犠牲者に対する最大の供養だ。そのことを我々は忘れるべきではないだろう。
こういうときには必ず、「軍事力の行使反対」という「似非平和主義者」が出てくるものだが、テロリストの暴力は見過ごしておいて正規軍の展開だけ反対するというのは筋が通らない。本当の平和主義者なら、現実味のある対案を提示した上で反対するべきだろう。「何が何でも戦争反対」とわめくだけでは、今の国際情勢が抱える諸問題の解決にはならないのだ。
もうひとつ。現在、日本では米軍や PKO に対する支援として「後方支援のみ」というタガをはめているが、「後方支援なら戦闘に巻き込まれない」という考えが根底にあるのではないかと思う。だが、特に非正規戦では前線も後方もないのだから、こういう考え方は今のうちに是正しておくべきだろう。これから先、今回のような非正規戦が発生するケースは増えるハズだから。
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