Opinion : 「非常食」を考える (2001/10/29)
 

今週は、前から書こうと思っていたのだが、テロの余波で延び延びになっていたネタを取り上げよう。本当なら、9 月 1 日の「防災の日」に合わせてライブできると、ちょうど良かったのだが。


日本は比較的地震などの災害の多い国だからか、自宅に「非常食」を常備している人は少なくないと思う。特に、阪神淡路大震災の後がそうだったが、どこかで大災害が発生すると、とたんに非常食の購入に走った経験がある人は少なくないのではなかろうか。(本当は、そういうことではいけないのだが)

また、例の「大山鳴動してネズミも出なかった」2000 年問題が話題になったときにも、年末に非常食の備蓄に走った人は多かったハズだ。なにしろ、フジテレビの「スーパーニュース」みたいに、スーパーマーケットの棚が空になる映像まで流して煽りに煽ったメディアがあったのだから、それを見てパニックを起こした人も少なくなかったろう。

実際に年が明けてみたら、自分達が騒動を煽りに煽ったことなどすっかり忘れている「スーパーニュース」の関係者は、実にいい根性をしていると思う。
おっと、閑話休題。

動機の是非はともあれ、非常食を常備するというのは良いことだ。台風は予測のしようがあるが、地震の予測は不可能なのだから。誰かさんみたいに、実際に事件や災害が起きた後で「実は予知していたんだ」なんていうのは、イカサマもいいところである。

となると、非常食というのはいつ必要になるか分からないから、保存性の高さが要求される。そこで誰もが考えるのは「乾パン」なのだが、これ、果たして適正な選択なんだろうかと疑問に思う。

自衛隊の戦闘糧食を見てみても、I 型 (いわゆる缶飯) には乾パン食があるが、II 型 (いわゆるレトルト) ではクラッカー食に変わっている。してみると、あまり乾パンの評判は良くないのではなかろうか。自衛隊にしてこうなのだから、市井の一般市民にとってはなおのことだ。

確かに乾パンという奴は保存性に優れているし、そのまま食べられるという点でも優れた保存食だと思う。だが、家庭で常備する保存食といえども、賞味期限というものがある。期限が来たものを捨てるというのはもったいないから、自分の腹の中に処分するのが筋だろうが、そのときに乾パンを食う気になるものだろうか ?

たとえば、賞味期限を考慮して 1 年程度のサイクルで新しいものと入れ替えると考えると、毎年、「非常食消化週間」みたいなものが出現することになる。自衛隊でも期限切れが近づいた缶飯を食うことがあるという話を聞いた記憶があるが、それと同じ理屈だ。
だいたい、保存性に優れた非常食といえども賞味期限はあるのだから、定期的に新しいものに更新しておかないと、いざ本番というときに役に立たなかったりする。それでは意味がない。

そうなったときに、嫌がらずに食えるようなものこそ、保存食として適正なのではないかということをいいたいわけだ。朝飯でも昼飯でも晩飯でもいいが、非常食の在庫処分だからといって乾パンを食う気になる人が、どれだけいるだろう ?


というわけで、拙宅にも非常食の在庫はあるが、乾パンは存在していない。主食として用意しているのはレトルト食品と缶詰が多く、それを補うのがクラッカー・ビスケットの系列で、水分はミネラルウォーターの 2L ボトルを複数備えてある。ただ、ミネラルウォーターのストックは、もう少し増やした方がいいかもしれないと思っているが。

だいたい、災害のときに比較的復旧が早そうなのは電気で、一番時間がかかりそうなのはガスだと思う。それを考えると、非常食の調理性を考慮した優先度としては、

  1. そのまま食えるもの
  2. お湯で温めれば食えるもの
  3. 電子レンジで温めれば食えるもの

と、こんな感じになるのではなかろうか。
そう考えると、レトルト食品というのは優れている。パックを温めるだけなら、多少水質が悪くてもなんとかなる。いざ食べるときにも、お行儀など考えなければ、パックから直に食ってしまえばよろしい。

そういう見地から考えると、きれいな水と熱源の両方を必要とするカップ麺というのは、缶詰やレトルトと比較すると、非常食としてはハンデがあるように思える。

実際問題としては嫌がる人も多いと思うが、レトルト食品や缶詰、カップ麺の類だったら、日常生活の中で古くなったものを消化するというのも、比較的、苦にならないのではないかと思う。少なくとも、乾パンと比較すればだが。


こうやって見てみると、非常食というのは、実は軍隊の戦闘糧食と似た考え方を取り入れるのが良いのではないかという考えが出てくる。
そもそも、缶詰もレトルト食品も瓶詰めも、みんなルーツは軍隊の戦闘糧食にあるのだ。その理由は簡単で、戦場で食事を提供するというのはインフラ不備の程度からいって、災害被災地といい勝負だからだ。いや、それ以上に条件は厳しい。

ということは、食うに耐えるだけの戦闘糧食ができれば、それはすなわち、非常食としても十分に通用するということを意味しているのではないだろうか。
そうなれば話は早い。「戦闘糧食の三ツ星をさがせ !」を読んで、世界各国の戦闘糧食の中から好みに合いそうなものを見つけて、それに近そうな食料品をかき集めれば OK、ということになる。

これは冗談ではない。究極の自給自足組織である軍隊のメガネに適った糧食なら、非常食としての適性を十分に備えているハズだし、特に舌の肥えた先進国の糧食なら、中身にも相応に気を使っていると考えられるからだ。(ウクライナ軍の糧食みたいな例外もあるが…)

というわけで、「非常食 = 乾パン」という単純な図式はひとまず横に置いておいて、「日常生活での利用に耐えられる非常食」を備蓄するということも考えてみてはいかがだろうか。いざ災害に見舞われたときにも、そこで何を食うかというのは士気に響くと思うのだ。

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