Opinion : "誤爆" をなくせないものか ? (2001/12/10)
 

過去の戦争報道や戦記では登場しなかった "誤爆" という言葉は、"空爆" とともに、湾岸戦争のときに登場した新語であったと記憶する。
爆撃は飛行機でするものに決まっているのだから、"空爆" も何もあったものではないと思うのだが、なぜか湾岸戦争以来、この奇妙な言葉が流行っている。不覚にも私自身、うっかり使ってしまうことがあるのが悔しい。

その "うっかり" が笑い話ですまないのが、いわゆる誤爆である。
英語では、その他の同士討ちもひっくるめて、"friendly fire" あるいは "blue on blue" などという。さまざまな同士討ちの中でも、爆撃に起因するものを "誤爆" と呼ぶのだろうが、別に間違ってなくても "誤爆" といわれてしまうのは、なんだかなあと思う。


そもそも、過去の戦史を紐解いてみても、間違って友軍や無関係の民間人を攻撃してしまったという事例はたくさんある。誰も好き好んで味方を攻撃しているわけではないし、同士討ちを防ぐための研究もいろいろなされているが、それでも間違って味方を攻撃したり、攻撃するべきではないところを攻撃してしまうという事故は後を絶たない。

その事例を見てみると、作戦決定時の情報のミスに起因するものと、現場での偶発的な原因によるものとに分類できるように思える。

たとえば、第二次大戦中にイギリス空軍のモスキート爆撃機がデンマークかどこかの小学校を誤爆したことがあったが、これは先導機が撃墜されて小学校に突っ込んでしまったのを、後続機が目標に対するマークと勘違いしたことによる。
これは、典型的な「現場での偶発的事故」に起因する誤爆といえる。

また、"Operation Allied Force" における中国大使館誤爆事件は、情報が古くて、JDAM にインプットした座標が間違っていたことに起因していたと記憶する。JDAM は御承知のように GPS 誘導だから、間違った座標をインプットされれば、間違った座標に向けて正確に飛んでいき、(妙な言い方だが) 正確に誤爆してしまう。

レーザー誘導爆弾 (LGB) なら、投下してから命中するまで人間の手でレーザー照射が行われるから、間違いに気付けば手の打ちようがないわけではないと思う。ところが、GPS 誘導なら攻撃機はスタコラサッサと逃げ出すことも可能だから、正しく誤爆してしまう可能性が高いだろう。

陸戦と、それに関わる近接航空支援では、敵味方識別のトラブルに関わる誤爆が多い。もちろん、陸軍の側ではいろいろと識別手段を講じるわけだが、敵がそれを真似してしまうと面倒なことになる。かといって、あまり複雑な識別手段を講じると、識別の失敗が起きそうだ。

また、夜間の戦車戦では、赤外線センサーの熱映像を頼りに戦闘する関係上、敵味方の識別が難しくなる。米陸軍ではこの辺の問題を解決するべく、陸戦用の IFF のようなものを開発していたハズだが、このプロジェクトは予算難で中止になったと聞いた気もする。これが事実だとすると、困ったことだと思う。

特に志願制の先進各国では、あまり誤爆による味方の死傷が多発すると、士気に関わりそうだ。そういう観点からも、間違って背中から撃たれないようにするための技術は必要だ。
また、間違った場所に爆弾を落とすとプロパガンダに使われるのも世の習いなので、そういう観点からも、誤爆、あるいは友軍相撃を防ぐ技術の重要性は高いと思う。

もっとも、過去には一部の国において、間違わなくても背中 (味方) から撃たれた事例もあるが、それはもはや誤爆でもなんでもないので、本稿では関知しないことにする。

正直な話、情報ミスに起因する誤爆は現場で対策できる性質のものではないので、事前に正しい情報を入手するよう努めることと、情報の多重チェック体制を敷くという以外に、手の打ちようがないと思う。もちろん、特に今後増加が見込まれる非正規戦では、敵側が誤爆を誘おうとして小細工を弄する可能性が高いと思われるので、それに対する対策も必要だ。

今回のテロ事件に関係して、米軍が HUMINT、つまり人的情報収集能力の不足を認めて対策に乗り出したことも、ひょっとすると、誤爆対策に役立つかもしれない。やはり、偵察衛星だけですべて分かるというわけではないのだから。

今回の対アフガン攻撃ではどうだか分からないが、多少なりとも脳味噌を備えた悪党なら、「米軍の誤爆」を材料にした反米キャンペーンを煽るために、あの手この手で誤爆を誘ったとしても不思議はない。なにしろ、「住宅地に対する誤爆の映像」ほど強力なプロパガンダ兵器は、そうそうあるものではない。

湾岸戦争のときにも、「住宅地を誤爆した」と "英語で" 叫ぶイラクの御婦人の映像が公開されたことがあったハズだが、あれがイラク当局の差し金でなかったと、いったい誰が保障できようか。100 件のうち 99 件を正確に爆撃していても、残り 1 件で誤爆が発生したことを騒ぎ立てれば、正確な爆撃の話など吹っ飛んでしまう。それが宣伝戦というものだ。

また、湾岸戦争で A-10 が英陸軍のウォーリア歩兵戦闘車をふっ飛ばしてしまったような事例は、航空機と同様に AFV にも敵味方識別装置を付けなければ、解消できないと思う。米軍お得意の夜間戦闘では、先にも書いたように赤外線センサーが頼りになるが、これだけで正確に敵味方が識別できるとは思えないからだ。

空の上ではかなり前から IFF が普及しており、間違って味方の航空機を撃墜したという事例は、皆無ではないが、比較的少ない。最近では、イラク上空で米空軍の F-15 が米陸軍の UH-60 (だっけ ?) を誤射した事例ぐらいだろうか。

ただ、これも悪条件が関わると誤射が起きないとはいい切れず、イランの旅客機を撃ち落してしまったイージス巡洋艦ヴィンセンスのような事件が起こる。基本は IFF だろうが、無線による呼びかけに対する応答や飛行中の行動など、さまざまな要因において「勘違い」が発生しないようにする工夫が要るはずだ。

もっとも、こういう「人為的ミス」に対処することにかけては、特にアメリカ人は上手な方だと思う。日本人だと「そんなものは本人の工夫と根性と努力で何とかしろ」といってしまうところだが、なにせマニュアル社会のアメリカでは、衆知を集めて「人為的ミスを回避するためのマニュアル」作りに精を出しそうだ。

もっとも、そのマニュアルに欠陥が隠れているということもあるだろうが、それは次回の悲劇によって改善されることになるだろう。少なくとも、悲劇が起きても、それを教訓にして原因が改善されれば、まだしも犠牲者は浮かばれるというものだ。
もちろん、犠牲者が出ないで済めば、その方がいいに決まっているが…


これから、正規軍ではない敵を相手にする機会が増えると、ますます敵味方識別の重要性は増すと思う。しかも、失敗したときの痛手が大きくなることを考えると、陸海空のすべてにおいて、正確な情報の入手と敵味方識別の徹底、間違いのない攻撃の実行は、ますます重要なものになるはずだ。人為的、技術的、それぞれの面で、より誤爆をなくすための地道な努力が求められることになるだろう。

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