Opinion : 民間高速船技術の軍事的応用 (2002/4/1)
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ここのところ、現実世界にこだわって頭痛のするようなネタが多かったので、たまには、ちょっと夢のある話も考えてみようと思う。(といっても、「軍事的応用」というあたりからして夢のない話ではある)
「今週の JDW 誌より」の最後にも取り上げられているが、米海軍では高速フェリーで多用されている双胴型ウェーブピアサーの水上戦闘艦に関する研究を行っているらしい。
もちろん、いきなりこのタイプの軍艦が出てくるという訳ではなくて、将来構想の一環としてリサーチしているということなのだろう。ただ、単にスピードということだけ考えれば、民間の船舶、とりわけフェリーの分野で長足の進歩が見られるから、これはなかなか、使いようによっては面白いのではないかと思う。
残念ながら運行休止になってしまったが、東日本フェリーの超高速フェリー <ゆにこん> に、4 年ほど前に乗ったことがある。当日の津軽海峡はちょっと荒れ模様だったが、そこを 35kt で爆走する <ゆにこん> は、なかなかエキサイティングな乗り物だった。
<ゆにこん> は従来型のモノハル船型で、ディーゼル主機とウォータージェット推進を組み合わせてマックス 42kt を出せた。オーストラリアのインキャットなどが製造している双胴型ウェーブピアサーは、もっと速い。
仮にコンスタントに 40kt で走れると考えると、魚雷攻撃に対する逃げ足という点で、かなり有利なように思える。爆撃機を戦闘機が要撃する際に「1.5 倍の優速が必要」という法則があるそうだが、これを当てはめると、40kt で走るフネに追いつくには 60kt の魚雷が要る。
こんなスピードが出るのは、Mk.48 ADCAP やスピアフィッシュなど、ごく僅か。リットラル作戦で相手にしなければならないディーゼル潜水艦が発射できる魚雷は、もっと遅いものが大半だから、対艦ミサイルでもぶっ放されない限り、助かる可能性が高まる。
しかも、ジェットフォイルと違って、フェリーだから車両を載せられる広大なスペースがある。これがポイントだ。
車両を載せられるだけの空間を船体内に確保できるということは、そのまま高速輸送艦としての応用が利くし、実際、米海兵隊や米陸軍は、ウェーブピアサーの高速フェリーをリースして試用しているのは御存知の通り。
また、車両甲板のスペースを転用すれば、米海軍が研究しているように UAV や UCAV の母艦としても使える。もちろん、兵器搭載用のスペースとしても使える。
あと、双胴船のいいところは甲板の面積を無理なく広く取れることだと思う。単胴船だと、甲板の面積を広げるには船体の幅を広げるか、米空母のように左右に張り出しを作るしかないが、双胴船なら最初から幅が広い。
ステルス性の見地から考えると、主として考えなければならないのは横方向だから、上から見た面積が多少広くても、影響は比較的軽微なはず。これで、比較的小型ながら十分な船体内容積を確保できれば、結構「使える」と思う。
ただ、問題があるとすると、燃費と騒音だろうか。高速フェリーの多くはウォータージェット推進だが、みるからに喧しそうだ。<ゆにこん> のようにディーゼル主機ならともかく、ガスタービン主機だと燃費も馬鹿にならないだろうし、運用コストを考えると、これはネガティブ要因になる。
あと、現在使われているウェーブピアサーには、それほど大型のものがない。コスト高要因をいろいろ抱えているせいなのか、技術的な理由があるのか不明だが、何か事情があって大きく造れないのだとすると、用途に限りが出てくる。
そうした事情を考えると、この手のフネというのはおそらく対潜護衛艦には向かなくて、高速輸送艦、軽空母、火力支援艦といったあたりが主な用途になると思う。
もっとも、米海軍が掲げる「リットラル作戦」なら、用途は大体こんなあたりだろうし、NPS (Naval Postgraduate School) の構想でも、はなからリットラル作戦しか考えていないようだ。
あるいは、対地・対艦用の兵装と MH-60S のような多用途艦載ヘリを載せて、対不審船用にも使えそうだ。「そんなの従来型の駆逐艦やフリゲートでもいいじゃん」といわれそうだが、スピードが違う。
もし、現在のものより大型のウェーブピアサーと F-35 の STOVL 型がモノになれば (個人的には、未だに「大丈夫かいな」と思っている部分がある)、F-35 を載せた軽空母だって実現するかもしれない。でも、シーホークかコマンチぐらいにしておく方が現実的だろうか ?
いろいろ景気のいいことばかり書いてきたが、これを実際にやるとなったら、解決しなければならない課題がワサワサと出てくるような気がする。
とはいえ、従来型の手法にだけこだわっていても限界があるのは確かだから、既成の概念をいったんは全部御破算にして、いろいろ違ったことを考えてみるのも、ブレークスルーを生むには必要なことだと思う。
本業の合間にウェーブピアサーのことをもうちょっと研究してみて、何か形になるものを考えてみるのも、また一興。暇ができたら、ウェーブピアサーの軽空母なんぞ、考えてみようと思う。
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