Opinion : 続・迷惑メール問題を考える (2002/4/15)
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まったく、経済産業省も馬鹿なことを考えたものだ。
と書けば、ピンと来た方も少なくないはず。例の「! 広告 !」のことだ。
例の省令以来、件名に「! 広告 !」と書いたメールが激増したのは、皆さんも御存知の通りだ。
この件については、経済産業省と総務省の縄張り争いも見るに耐えないものがある。だが、それよりもなによりも、何事も自分に都合のいいように考えるスパム業者や MLM 関係者が、「件名に『! 広告 !』と入れれば、なんぼでもスパム送信をしてもいい」と、極めて都合のいい解釈をするという事態を想像できなかったのだろうか。
おかげで、御丁寧にも「この DM は特定商取引法に関する省令に基づいて作成しています」などという能書きを垂れる手合いも少なくない。ただでさえ腹立たしいスパム・メールが、この一文のおかげで余計に腹立たしいものになってしまった。
さらにフザけているのは、「! 連絡方法無 !」という奴だ。広告メールを送り付けてもいい代わりに、連絡方法を明記しなければならないというなら、まだ分かる。にもかかわらず、わざわざ「連絡方法を書かなくてもいい」という抜け穴を作るのは、アホの極みだ。
繰り返すが、スパム送信者は、なんでも自分に都合がいいように考えるものだ。だから、「! 連絡方法無 !」という書き方も許容されるとなれば、マトモな連絡方法など書くはずがない。連中としては、メールの取り消し要請などしてもらいたくはないのだから。
はっきりいってしまえば、これは史上まれに見るザル法、いや、枠法である。
注 :
どこまで人口に膾炙した言い方かどうか知らないが、酒飲みを意味する「ザル」という表現のさらに上を行くものとして「枠」という言葉がある。ザルすらも存在せず、事実上スルー状態という意味。
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さらにいわせてもらえば、スパム送信者の多くは自分の身元を伏せて送信する。特にエロサイトの宣伝や、エロサイトを使った不正自動架電目的のサイトはそうだが、そんな連中を相手にするなら、(実効性の有無は別として) せめて法律の条文だけでも「連絡先明記の義務」を書くべきであった。そんなことも理解できないのだから、世界に冠たる優秀な経済産業省のお役人は、スパム被害の実態など、とんと御存じないに違いない。
そもそも、この「迷惑メール問題」という奴は、以前から PC を使ってインターネットを利用している人の間では有名だったのに、ずっと放置していたものだ。その挙句、携帯電話宛のスパムが問題化、それも官房長官のところに出会い系サイトの宣伝が殺到したので激怒したという一件であわてて火がついたというところからして、度し難いものがある。
(官房長官と総務省にどやされるまで放置していた NTT ドコモもどうかと思うが、スパムのパケ代も立派な収益源だから、仕方ないのだろうか ?)
もちろん、メール受信ごとにパケ代を払わなければいけない携帯電話の方が、定額制が定着しつつある PC よりも深刻だという事情があるのは知っている。だが、所詮スパムはスパム。スパムに貴賎はない。どんなスパムも悪である。携帯電話ばかりを話題にするのはおかしい。
そもそも、経産省が、あの、人を極めて小馬鹿にしたような「! 広告 !」という文言を入れさせようと考えたのは「自動振り分けによる排除」を意図していたためだったハズだ。
ところがチグハグなことに、「迷惑メール問題の主戦場」と認識されている (ここでは、その認識が間違っているという点は措いておく) 携帯電話では、今のところは件名を使った自動振り分け機能はない。どうして、こうも支離滅裂なことになってしまったのか。
こんな調子だから、いざ法規制に乗り出すとなっても、オプトインではなくオプトアウトに拘ったのもむべなるかな。はっりいってしまえば、「オプトアウト」とは「少なくとも最初の一回分については無差別スパム送信が許される」という意味だから、これでは迷惑メール対策にはならないと断言する。
むしろ、対策どころか、これはスパムを増やす原因にもなりかねない。オプトアウト OK となると、「一回限り」の広告メールならナンボでも出していいという、はなはだ都合のいい解釈ができるからだ。
それなら話は簡単だ。1 回スパムを送信するごとに、いちいち送信者のアドレスや名義を変えて送信すればいいのだ。どうせ今だって正しい情報を名乗って送信されているスパムは少ないのだから、オプトアウトにお墨付きを与えたのは、その傾向を助長するだけだと断言する。
今に、「このメール送信は今回限りですので、送信取り消しはできません」とかなんとか麗々しく書きたてたスパムがネットにあふれるだろう。そして、差出人の名前だけを変えた同内容のスパムが、大量に届くのだ。
そうなっても、私は知らない。スパマーの視点に立って物を考えずに、あんなザル法ばかり考えて、スパマーにお墨付きを与える方が悪い。
どうも、霞ヶ関のお役人や永田町の政治家が考えるスパム対策というのは、内容が極めてトンチンカンだったり、あるいは腰が引けていたりするものが少なくない。メール広告を生業とする業者からの圧力もあるのかもしれないが、そんな調子でスパムがなくなるわけがない。
まず、スパム対策では徹底して「性悪説」に立脚して、抜け穴が生じないように考えること。そして、メール送信行為だけでなく、スパム行為を生む温床 (不正自動架電、マルチ商法、メールアドレス一覧販売などのことだ) にも一緒に網をかけて、まとめて潰すこと。
すでに、アメリカ大統領の元にマルチ商法の勧誘メールを (日本語で) 送ったり、海外の真面目なメーリングリストに (日本語、しかも広告バナー満載の HTML メールで) 宣伝メールを送った手合がいるのだ。児童ポルノに続いて、今度は日本が「スパム天国」として有名になれば、まさに国辱モノである。
そういう危機感が経済産業省や総務省、そして政治家諸氏にあるのかどうか、一週間ぐらい問い詰めたい。役所同士で縄張り争いなんぞやっている場合ではない。
もし、現行の手法でスパムがなくなると自信を持っているのなら、霞ヶ関と永田町の関係者全員、半年ぐらい Web 上で自分の PC 用と携帯電話用のメールアドレスを公開してみればいい。それでスパムが全然来なければ、我々の対策は正しいのです、と体を張って実証したことになる。そこまでやれば、私も認める。
もし、スパムが来ないどころかメールボックスがスパムであふれかえれば、彼等が掲げた「対策」は無意味だったということだ。そうなれば、少しは真剣に対策を考えるだろう。
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