Opinion : 交通機関の "IT 化" を考える (2002/4/22)
 

森政権で「IT、IT」と連呼したのがたたり、いろいろな業界で「IT 化」の神輿を担ぐ動きがある。中には、なんだか笑ってしまいたくなるような「IT 化」もあるが、それについては目くじらを立てないことにしよう。
個人的には、役所が予算獲りの名目としてぶち上げる「IT 化」でもなければ、特に文句をいう筋合いではないと思う。

といったところで、今回のお題は「交通機関の IT 化」だ。


JR 東日本の「AC train」や、小田急ロマンスカーでやっている BlueTooth を使った車内無線 LAN 実験など、この業界でも IT 業界とのクロスオーバーが進んでいる。
もともと、線路敷設権の関係があるから、特に鉄道や道路が関わる業界は通信分野と関連があったといえるのだが、それは利用者とは関係のない話。だが、最近の「IT 化」は、利用者にも関わってくる話だから放っておけない。

ただ、現実問題として、移動中の列車の中でまでノート PC や PDA を使って「常時」外部と通信するニーズが、どれだけあるものだろうか。個人的には、意外とその部分で疑問を持っている。

「圏外孤独」に耐えられないような、常に誰かと通信できないと心細くなってしまうような人は、すでに i モードなんかの携帯電話を持ち歩いているだろう。それについては、交通機関の側で何かインフラを用意しなければならないというものではない。だから、これは「交通機関の IT 化」とはあまり関係がない。

となると、ノート PC を持ち歩いて仕事に使っているビジネスマンあたりが、「交通機関の IT 化」の主なターゲットということになるのではないか。実際、新幹線なんかに乗っていても、車内でノート PC を広げている風景は、昨今ではすっかり珍しいものではなくなった。というか、私もやっている。

となると、そのノート PC を使って Web にアクセスする、あるいはメールを読む、といったニーズが発生するのは分かる。また、移動中の車内でもノート PC を使えるような道具立てが必要になるのも分かる。
そこで、まずは、前者の「通信」需要について考えてみたい。


「通信」需要について、何よりも問題になるのは、「移動中の常時通信」が必要なのかどうかという点だ。ところが、これは交通機関にとっては最大のボトルネックになってしまう。列車や高速バスならトンネルを通るし、飛行機の場合はそもそも移動中の通信なんて不可能に近い。

正直な話、移動中でも常時通信できるという需要は、無視してもいいのではないかと思っている。
こういうと「ユビキタス・ネットワーク」中毒の人に反論されそうだが、乗車前や途中の乗り換えのタイミングに合わせて、ネットに接続して Web の利用やメールのダウンロードができれば、それでたいていの需要は満たせるのではないか。

もちろん、本当の常時接続が必要な需要もあるかもしれないが、それを実現するためにかかるコスト (それは結局、利用者に転嫁されるものだ) と、それによって得られるメリットのバランスを考えると、現状では費用対効果が悪過ぎると思う。

「3G 携帯電話を利用すれば、移動中でも高速通信ができる」という反論がありそうだが、一人のユーザーが占有するならともかく、移動中の列車や高速バスの中から複数のユーザーが同時に利用すれば、実用的なスピードは出ないだろう、それに、もともと高コスト体質の 3G 携帯電話では、通信コストも高くつき過ぎる。
それなら、そういう通信需要がある限られた人だけは、自腹でやってもらう方が合理的だ。

結論としては、駅、あるいは空港といった、交通機関の利用に必要な施設の中に、誰でも自由に利用できるホットスポットを用意するのが、現実的な解ではないかと思う。極端な話、専用の場所すら用意しなくてもいいハズだ。
空港なら、搭乗券を持っている人だけが入れる出発ターミナルに、鉄道なら改札内のコンコースか待合室のあたりに、無線 LAN のアクセス・ポイントを置いておけばいい。IEEE802.11b なら、直線距離で数十 m はカバーできるから、それで結構な範囲をホットスポットにできる。

そうすれば、出発待ち、あるいは乗り換え待ちの間に、ちょっとネットにつないで必要な情報を取り込み、その後で目的地に向けて出発するという使い方ができる。もっとも、交通機関の利用者だけが無線 LAN を利用できるようにする、ということを考えると、設置場所には気を使う必要がありそうだ。

ともあれ、そこそこのスピードを持つインターネット接続回線と無線 LAN のアクセス・ポイントを設置するだけなら、月々の運用コストは 1 ヶ所当たり数千円程度で済む。その程度なら、わざわざ課金システムを構築して利用者と個別に契約するという面倒な手順を踏まなくても、交通機関の魅力を増して利用増につなげるためのコストとして容認できるのではないか。


次に、移動中の車内、あるいは機内でノート PC を使えるようにするということを考えてみたい。

といっても、小型のノート PC が普及している日本の場合、ノート PC を載せられる程度のサイズを持った、安定したテーブルがあれば用が足りる。もちろん、電源があればその方がいいが、バッテリ寿命の長いノート PC や PDA では電源は必須ではないし、ノート PC は無停電電源を内蔵したようなものだから、電源の瞬断に気を使わなくてもいい。

となると、もっとも有利なのが鉄道なのは間違いない。飛行機はスペース的に苦しいものがあるし、日本の国内線程度では利用できる時間にも限りがある。バスはさらにスペースのハンデがあるし、車内で移動できないという構造上の問題があるから、ノート PC をパカパカやっている乗客がいると近所迷惑にもなりかねない。

ただ、列車の場合は「揺れ」が意外と気になる。特に新幹線ぐらいのスピードになると無視できない問題で、とりわけトンネル内を走っているときは揺れが大きい。
個人的な経験だと、東海道新幹線における 300 系の 220km/h 走行なら余裕綽綽だ。これが 270km/h 走行になると、かなり怪しくなってくる。山陽新幹線の場合、500 系や 700 系が全速で走っていても明かり区間ならどうということはないが、トンネルに入ると横揺れが激しくなるので、ちょっと辛い。

そうなると、テーブルの上にノート PC を載せていると揺れの影響をモロに食らうので、膝の上にノート PC を載せる方が使いやすい。それでも、横揺れが激しいと PC を使うのを止めてしまうこともある。

飛行機の場合、乱気流にでもならなければ、こんな悩みはない。最悪なのが高速バスで、路面が悪いと PC を使う気にもならないかもしれない。


ともあれ、通信機能についてはターミナルで利用できればそれでよし、と割り切ることで、比較的安価に、しかも大半の需要を満たせるのではないかと思う。「移動中の列車の中でもインターネット」なんていうと、掛け声としては面白いが、そのためにコストがかかり過ぎたり、パフォーマンスが出なかったりしたのでは魅力が失せる。派手さはなくても、そこそこの目的を達することができれば、それでいいのだ。

あと、どんな交通機関でも、移動中は外部の情報から隔絶された状態になりがちだから、PC やブラウザフォンを持っている人だけでなく、すべての利用者に対してニュースや天気などの情報をリアルタイムで提供できる体制を整えることも重要だと思う。どうせ「IT 化」のために技術やコストをつぎ込むなら、そっちの方も無視してはいけない。

特に、ダイヤが乱れたときの列車内における「情報途絶」ぶりは、まだまだ改善の余地があると思う。どうせ移動中の列車と外部のデータ通信インフラを整えるなら、むしろ、そういうところに使ってみてはどうだろう。

もちろん、最新の情報を適切に供給するというソフト面の工夫も重要だ。高速道路のハイウェイラジオや VICS のように、事故などのアクシデントに代表される "都合の悪い" 情報をギリギリまで提供しないような「大本営発表型の情報提供システム」では意味がない。迅速に適切な情報を提供してこそ、信頼も生まれるというものだ。

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