Opinion : B 級を侮るなかれ (2002/6/24)
 

「A 級」「B 級」という言葉は、自動車レースのライセンスでは昔からあったような気がするが、一般的にこの言葉が使われるようになったのは「A 級グルメ」あたりからだったろうか。

一般的に、「A 級」というと「成功の象徴」あるいは「高くてゴージャスで立派」、それに対する「B 級」は「A 級」の対義語、という使われ方をすることが多いようだが、メカニックの世界で「B 級」というと、ちょっと意味が違う。

個人的独断と偏見で断じてしまえば、メカニックの世界における「B 級」とは、成功しようとして必死になっていろいろなアイデアをつぎ込んだものの、アイデア倒れに終わってしまった、クスリと笑えるような失敗作 (あるいは、失敗とまでは行かなくても、成功もしなかった作品) のことではないか。

でも、「失敗は成功の母」という通りで、失敗作があるから、その遺灰の上に成功作を生み出す素地ができるのも事実。だから、失敗作だからといって侮ってはいけないと思う。


たとえば、F-111B という戦闘機がある。いうまでもなく TFX 計画の F-111 のことで、重すぎて艦載機としてはモノにならなかった、あれだ。

F-111B は誰もが認める失敗作だが、F-111B 用に開発されたエンジン (TF30)、レーダー (AN/AWG-9)、ミサイル (AIM-54) は、いずれも F-14 に使い回されたのだから、決して無駄になったとはいえない。(AIM-54 の評価は分かれるだろうけど…)

それに、F-111 と TF30 で苦労したからこそ、後でアメリカは戦闘機用ターボファンを開花させることができたわけで、そういう意味では、F-111 というのはあながち、無駄な存在だったとはいえない。それに、後で熟成が進んでからは強力な阻止攻撃機になった。まさに、最初の失敗だけで物事を判断できないという好例。

また、AIM-7 スパロー III と AIM-120 AMRAAM の間にも、似たような関係が成立すると思う。AIM-7 でさんざん苦労したから、AIM-120 に対する厳しい要求が生まれたし、メーカーもそれに応えて「必殺野郎」を生み出したのだから凄い。

他にも、アイデアが時代に先駆けすぎて失敗に終わったものの、後から時代が追いついてきて成功した、あるいは成功しそうな感じがしてきた、というものもある。弾道ミサイル迎撃 (MD) 技術がいい例で、他にも巡航ミサイルなんかが挙げられる。

有翼巡航ミサイルという発想は、フィーゼラー Fi103 (いわゆる V1 号) 以来のものだが、1950 年代のアメリカの巡航ミサイルときたら「なんだそれ」という感じのものが多かった。やっていた当事者は必死だったのだから、あまり悪口をいうと罰が当たるが、SM-62A スナークなど、「本気でこいつをソ聯まで飛ばすつもりだったんかいな」と、ついつい首をひねってしまう。

だが、後で小型のターボファンや核弾頭、精度の高い誘導システムが開発されたおかげで、ALCM やトマホークができた。これらにケチを付ける人はいないし、ちゃんと実績も挙げている。

もっとも、中には本物のアイデア倒れ、単なる「失敗作」で終わってしまったモノもある。たとえば、XFY-1 ポゴや XFV-1 みたいな「テールシッター」がいい例で、いまだに実用例がない。スカンクワークスのベン・リッチは「着陸の際にパイロットが空を向いているのが欠点だ」というのだが、そんなもん、最初から分かっていただろうに (笑)

ちなみに、モノにならないどころの騒ぎではなく、ただの「お笑い」で終わってしまったものについては、「B 級兵器」ではなくて「馬鹿兵器」という。
たとえば、第二次大戦中のドイツでいうと、ルールスタール X-4 やバッサーファールは「時代に先駆けすぎた B 級兵器」で、風砲・音波砲・竜巻砲・太陽砲は「馬鹿兵器」といえば、違いがつかめるだろうか ?

兵器開発でもこんな調子だから、レーシングカーになると、もっと凄い。特に、チームごとに別々のマシンを開発する F1 など、B 級マシンの宝庫だ。
もちろん、歴代のチャンピオン・マシンも、それはそれで高い価値があるが、アイデア倒れに終わった B 級マシンの方が、メカニック的には魅力を感じる場合も多い。

もともと、レーシングカーの開発というのは、極端にいうとレギュレーションの抜け穴探しというところがある。兵器開発が軍縮条約の抜け穴探しになるのと同じだ。
だから、「ウィングを付けてはいけない」という制限がない穴場を探して小さなウィングを増設してみたり、エンジンを横倒しにしてみたり、タイヤの数を増やしてみたり、etc、etc。それで勝てば褒められるが、この手の「アイデア先行型」というのは、往々にして勝てない。趣味的には、そこがまた魅力だ。


というわけで、「成功作」よりも「失敗作」や「アイデア倒れ」、「A 級」よりも「B 級」の方が面白いという話なのだが、失敗があるからこそ成功があるというのも、また真理。むしろ、失敗したことがないという方が褒められない。

過去に何度も書いているように、失敗したときに原因を真摯に究明すれば、何がいけなかったのか分かる。そうすれば、次には同じ轍を踏まないようにすることで成功する可能性が上がる。しかし、失敗したことがなければ、どこまで行ったら崖から転げ落ちるのかが分からない。
すると、本当に失敗が許されない、肝心かなめのところで大失敗、なんていうことにもなりかねない。それは往々にして致命的な結果を招くものだ。

逆に、後で画期的なブレークスルーを産むことになった技術やアイデアの萌芽が、往々にして「失敗作」と目されていた B 級製品から生まれることもあるわけで、そう考えると「B 級を侮るなかれ」というタイトルの意味が理解いただけると思う。

それに、グルメでもテクノロジーでも、「A 級」しか知らないよりも「A 級」と「B 級」の両方を知っている方が世界が広がるから、そこから視野が広がって、将来の成功を生み出すことができるかもしれない。だから、今は失敗こいているからといって、「B 級」を侮ってはいけないのだ。

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