Opinion : 少子化問題を考える (2002/7/22)
 

今週は、平素とはいささか毛色の違った問題を考えてみたい。といっても、実は国家安全保障や運輸の分野に関わる問題でもある。

お題は、タイトルにあるように「少子化問題」だ。何年か前に、合計特殊出生率が最低記録の「1.37」だかをマークしたといって大騒ぎになったことがあったが、最近では「1.35」だか「1.34」あたりまで落ち込んだらしい。


自分が独身だから他人のことをいえた義理ではないが、実際、身辺にも 30 台の独身女性は何人もいるし、子供が 1 人しかいない家庭、あるいは DINKS も結構いる。子供がいない家庭はいうに及ばず、夫婦 2 人で子供が 1 人でも人口が減少傾向になるのは誰でも分かる。簡単な算数だ。

子供の頃は、「地理」の授業なんかで「人口の多い国」に日本がランクされないのを見て残念に思ったものだが (単純だな)、食糧問題のことなんかを考えると、最近では人口が多いのも考えモノだなと思う。

とはいえ、人口がどんどん減っていくと、働き手が減り、結果として国の経済力や国家の財政、そして年金制度など、現状を基盤にして成り立っている各種の制度が、次々に瓦解する可能性が出てくる。
かといって、国の経済規模がシュリンクしたのに合わせて制度を再構築する力が今の政治・行政にあるかというと、それは不可能そうだ。「財政中立」にこだわる財務省が典型例だが、彼らは「現状維持」と「問題の先送り」で、自分が責任を引っかぶらないようにすることしか考えていない。

安全第一、失敗しないことを最優先にする試験秀才ばかりを集めるから、こういうことになるのだ。英陸軍の SAS みたいに「危険を冒すものが勝利する」という人を揃えれば、少しは違うだろうに。

そういうわけで、「少子化」というのは国家の基盤を揺るがす大問題だ、と懸念する声が出るのは分かる。だが、それに対する対策が、あまりにも的外れ過ぎるではないかと思うのだ。

たとえば、「児童手当の増額」という意見が出たことがある。確かに、子供を 1 人育てるのにかかる費用というのは馬鹿にならないものがある。しかし、こう書いてはナンだが、これは児童手当を増額した程度で賄えるものではない。だから、児童手当を増額したからといって根本的な少子化対策になるとは思えず、「地域振興券」と同じ「バラマキ行政的発想」というしかないだろう。


ぶっちゃけた話、どうして「少子化」になるかといえば、子供を産み育てる人が減っているからで、その根本原因は、今の日本の社会に子供を送り出すのを躊躇させるような要因が多過ぎることにあるのではないか ?

たとえば、「荒れる学校」のニュースもそうだ。このニュースだけでも子育ての意欲を多少はスポイルしそうなものだし、それを避けようとして私立の学校に子供をやろうとすると、学費に加えて「お受験」でカネがかかる。だが、世の中はデフレ時代で可処分所得の伸びは見込めないから、1 人当たりにかける資金が増えれば、人数を減らさざるを得ない。

よしんば学校が荒れていなくても、今の日本の社会が「産まれて来る次の世代を安心して送り出せる環境」だと思わなければ、それだけで、子供を産み育てる意欲が減殺されるというものだろう。個人的には、これは無視できないファクターだと思う。

政府・与党が、「将来に対する不安」を和らげるような政策を打ち出すどころか、むしろその足を引っ張るような「現状維持への固執」ぶりを発揮している以上、「日本の将来が不安」というムードは払拭できない。
もちろん、「先」は見えないのが当たり前だが、その不安を政府が先頭に立って加速してどうする。

不良債権の問題にしても構造改革の問題にしても、どうしても既得権の声の方が強くて断固たる措置を講ずることができず、「潰れるものはみんな潰して、新しい枠組みを一から作り直す」という方向に話が進まない現状。そして、「努力したものが報われる」というよりも「成功したものが妬まれ、足を引っ張られる」という社会や行政の現状。これをどうにかしないことには、根本的解決は見込めないのではないか ?

もし、ウルトラ C でアメリカのように移民を受け入れるとしても、移民が希望を持ってやって来てくれるような国にならなければ、結果は同じこと。現状のままで「移民開放」を打ち出したところで、結果は変わるまい。

移民、あるいは亡命に際してアメリカを目指す人が多いのは、「あの国で頑張れば、何か大きなリターンが見込めるのではないか」という希望が持てるからで、同じことを今の日本に期待するのは不可能だ。だいたい、日本人同士でさえ新規参入者の足を引っ張るのが常態なのに、まして相手が外国からの移民だったら、どうなることやら。


もし、このまま人口の減少傾向が続くと、どういうことが起きるか。

まず、先にも書いたように「働き手の現象」が起きるが、これは必然的に、国の財政収入減少と、年金制度や健康保険制度の危機を引き起こす。
さらに、防衛分野では自衛隊員のなり手が減る。
また、現在の人口規模による経済活動を前提にして成り立っている道路・鉄道・航空・海運のインフラが、人口減による経済活動のシュリンクの結果として、過剰設備になるという可能性も出てくる。

ついでに付け加えるならば、もし、日本政府がこのまま「成功者の足を引っ張る」「新規参入の足を引っ張る」「既得権ばかりを大事にする」政策を続けるなら、意欲ある人材がどんどん海外に流出してしまう可能性がある。すると、ストレートな人口減以上のインパクトが発生する可能性だってある。

こうした指摘は「言いがかりである」と永田町や霞ヶ関の方から反論が出るかもしれないが、二言目には「財政中立」という念仏を唱えている財務省、抵抗勢力に押し切られて「構造改革」が掛け声倒れに終わりかけている小泉内閣、そして日本という国の将来ビジョンを明確に示すことができない官僚と政治家の姿を見る限り、「言いがかりである」という反論が成り立つとは考えにくい。

だいたい、安心して子供を送り出せる社会、安心して子供を育てることができる社会、誰もが希望を持つことができる社会、そうしたものを実現せずに、表面的な小手先の対策 (になっていない対策) で少子化問題を解決しようとするあたりからして、日本の政府・行政には根本的欠陥がある。最近の私の口癖は「亡国官僚」だが、それは何も財政当局に限らず、全般にいえることではないかと思えるのだ。

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