Opinion : 高速道路に「地域別プール制」の導入を (2002/8/5)
|
高速道路の新規建設問題や、道路公団の民営化問題に関連して、「プール制」が話題になっている。早い話が、「路線単位で収支を計算するのではなく、儲かっている路線の収益で不採算路線の赤字を補填する」という仕掛けだが、個人的には、現行のプール制は改めるべきだと思う。
これは、「自分たちが支払った通行料が地方の不採算路線のために使われて、一方で目の前の渋滞対策が講じられない」という都市部における感情論だけでなく、「収支のことを気にせずに不採算路線を建設し続けるという、赤字垂れ流し構造に歯止めがかからない」という理由にもよる。
「内部相互補助 (クロスサブ : cross subsidiary) という言葉がある。企業において、採算が取れている部門の黒字を使い、不採算部門の赤字を埋め合わせる仕組みのことだ。
何も道路に限らず、鉄道や航空といった運輸業界、通信業界、電力、ガスといった各種の公益事業は、程度の差はあれ「ユニバーサル・サービス」を提供する宿命を負っている。つまり、採算とは関係なく、「あまねく」サービスを提供しなければならないということだが、そうなれば、当然ながら「採算部門」と「不採算部門」ができてくる。
したがって、企業体の存続ということを考えると、内部相互補助という考え方を完全に否定してしまうことはできないと思う。不採算部門ばかり押し付けられた方が潰れてしまうからだ。
そういう意味では、採算が取りやすい長距離部門を召し上げられ、「アクセス回線」として接続量値下げ圧力に晒される部分を事業の中核にしている東西 NTT 地域会社や、JR 三島会社は辛い立場だと思う。内部相互補助をしようにも、その原資を提供してくれる「黒字の源」を用意するのが大変だからだ。
だから、JR グループに限らず民鉄各社も、鉄道だけで黒字を出せなければということで、各種の関連事業が花盛りになっている。当然の結末だろう。
ただ、これも度が過ぎると、赤字部門には甘えが出るし、黒字部門には不満が出るから、そこのさじ加減が重要になる。
極端な話、道路公団の「プール制」を廃止して路線別に独立採算を義務付けたら、一部の幹線区間を除いて、それ以外の高速道路は全部消えてしまう。いくら、不採算路線をこれ以上造るのに反対といっても、モノには限度というものがある。
では、現行のプール制を維持するのはどうかというと、これも具合が悪い。
もともと「採算」という意識が薄い、お役所体質の日本道路公団のこと。黒字路線の収益をアテにできるとなれば、タコが自分の足を食うようにして新規路線建設を続けて、収拾がつかなくなるところまで進んでしまうのではないか。また、それを後押ししている道路族の政治家諸氏が、その傾向を加速する。
いつぞやの TV 番組で、自民党の某氏が「もともと政府の予想なんてアテにならないんだから、そんなものとは関係なく、とにかく道路は造らなければいけないんだ」と吹いていたが、思わず「この人、アホか」と思ってしまった。高速道路の建設計画を出すときには、根拠として「需要予測」を持ち出すくせに、一旦決まった建設計画を維持するときには「予測なんてアテにならない」とは、なんたる言い草か。
もともと「プール制」を導入した際の事情については詳しく知らないが、こういう人が野放図に新規建設をプッシュしている現状では、プール制というのは、新規建設に心理的な大義名分を与えるための「お墨付き」の役にしか立たないだろう。
では、路線ごと独立採算も駄目、現行プール制も駄目となったら、どうすればいいのだろうか。
そこで考えたのが、「地域別プール制」という発想だ。既存・建設中・計画中の全路線網を地域ごとに分割し、その地域ごとにプール制を機能させるという仕組みで、分割の単位としては、今の電力会社程度に分けるがよいと思う。
つまり、北海道、東北、北陸、関東甲信越、東海、近畿、中国、四国、九州、沖縄というエリアに分割し、それぞれのエリアの範囲内で「プール制」を敷く。
エリア全体でトータルとして採算が取れている限りは、新規建設でも何でも好きにしてよい。でも、トータルで赤字を出すのはまかりならぬ、というわけだ。
ちょうど、考え方としては JR グループの地域分割に近いと思う。こうして、地域別に「自分たちが持っているリソースをどう配分するかは自由にしていいから、あとはなんとかしなさい」という考え方を持ち込むことで、他所の地域の収益をアテにした野放図な新規建設に対し、物理的な歯止めをかけるというわけだ。
これを全国ネットでやると、スケールが大きくなり過ぎて歯止めが効きにくい。また、数値目標による歯止めは一度決めると金科玉条化し、将来的に硬直化して逆効果になる可能性があるので、自然に何かしらの歯止めがかかるような仕組みの方が賢明だと思う。地域別プール制なら、それぞれの地域のトラフィック (= 通行料収入) が、その「自然な歯止め」の役割を果たしてくれる。
鉄道の世界では、「整備新幹線」に対して「平行在来線廃止」という、いわば「アメとムチ」の政策が取られている。どうしても平行在来線を維持したければ、地元で三セクを作って引き受けるというのが基本パターンになっているから、その負担を覚悟しなければ新幹線を呼べないという、ある程度の経済的・心理的歯止めができている。
ところが、道路の場合は「平行在来線廃止」というのは不可能だから、別の方法でブレーキが自然にかかるようにするしかない。それなら、「地域別プール制」の導入で、地域ごとのリソースが制約条件となって、自然にブレーキがかかるようにするのがよいと思う。
で、どうしても路線を増やしたいというのであれば、関連事業を盛大にやって、内部相互補助でなんとかするという考え方を取るのも自由。あるいは、需要に合わせて路線の規格を落とし、浮いた予算で路線を増やすという考え方を取るのも自由。それは地域ごとに好きにして、とにかく「地域ごとに赤字を出さない」という枠だけを、きっちり嵌める。
この考えを推し進めると、JR グループと同じように、道路公団を地域ごとに分割民営化するという発想も、あながち非現実的ではないと思う。通行料はエンド・エンド料金で計算して、地域をまたぐトラフィックについては距離に応じて配分すればよい。JR より料金体系が単純な高速道路で、そんな計算ができないということはないだろう。まして、(まかり間違って) ETC が普及すれば、なおさらだ。
例によって例のごとく、道路を巡る議論でも極端に走りがちな声が目立つようだが、現実的に両者の間を取った「地域別プール制」と「道路公団の地域別分割民営化」というアイデア。どんなものだろう ?
|