Opinion : "丈夫で長持ち" が引き起こしかねない大問題 (2002/8/26)
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最近、JDW 誌を読んでいると、「ぶったまげた」としかいいようのないニュースが、いろいろ登場している。
最新のネタでは、ボーイングの「反重力研究」があるが、そもそも米空軍の ABL や米陸軍の THEL といったレーザー兵器、さらには、そのレーザー兵器を中継する、米空軍の「反射衛星砲」(注 : これは井上の勝手な命名) 構想。
ぶっちゃけた話、私は自分の目の玉が黒いうちに「レーザー兵器」なんてモノが登場するとは思っていなかった。ABL の試射は 2004 年以降に予定されているそうだから、そのうち、自分の Web サイトで ABL に関する詳報を書くことになるかもしれない。
かと思えば、意外なほど「古強者」が幅を利かせているのも、面白いところ。だいたい、自分の世代が子供の頃には、21 世紀というと SF 小説さながらの様相が語られていたものだが、現実はずいぶんと違ったものになっている。
特に銃器や AFV の世界では、「古強者」が大きな顔をしている傾向があると思う。いつだったか、旧ユーゴの紛争地域 (確かクロアチアだったと思う) の写真を見たら T-34/85 戦車が映っていて思わずのけぞったが、いまでも国によっては T-34 は現役で使われていそうだし、ひょっとすると M4 シャーマンだって可能性がある。
もっとも、古い戦車というのは、たいていの場合はカネがなくて仕方なく使われているケースが多いようだが、銃器の場合は事情が違う。米軍からして、いまだに M2 機関銃がゴロゴロしている。海上自衛隊の護衛艦だって、"カミカゼ・キラー" のボフォース 40mm 機関砲を積んだ <ちくご> 型が、小数ながら現役だ。
M2 にしろボフォース 40mm にしろ、第二次世界大戦より前に開発された代物だ。まさかこれらを設計した人も、21 世紀までバリバリの現役を務めるとは予想していなかったに違いない。それも、レーザー兵器や巡航ミサイル、UCAV の傍らで。
M2 が「西の横綱」なら、「東の横綱」は AK-47 だろうか。もちろん、精度や仕上げには批判の余地もあるにしろ、丈夫で手荒な扱いに耐え、未熟な兵隊でも「とりあえず撃てる」AK-47 は、こういっては何だが「地域紛争や非対象戦の時代」には、まことに都合の良いライフルで、そんなものが大量に出回ってしまったのは困り者。
現に、アフガニスタンでも、あちこちの洞窟から (タリバンやアルカイダが溜め込んでいた) AK、あるいは AK の弾薬が発見されているというではないか。
そういえば、オウム真理教が密造を企てたのも AK だった。いくらオウムでも、さすがに M16 や 64 式の密造を企てる根性はなかったらしい (笑)
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最近は、兵器開発の長期化と費用の高騰、その一方で国防予算の制約が厳しくなっているという事情があるから、「使えるものは徹底的に使い倒す」という傾向が強まっているのは間違いない。民間でも、「使い捨て」や「安易な買い替え」が戒められる傾向にあるから、これからは「丈夫で長持ち」が重宝されることになるのだろうか。
たとえば、軍艦の寿命。潜水艦は別だが、水上艦なら以前は 30 年程度の使用が普通と考えられていたように思うが、これからは 50 年ぐらいは当たり前に使うことになりそうだ。すでに米海軍のニミッツ級はそうなっているし、40 年選手のエンタープライズですら、引退の話は俎上にのぼらない。(もっと古い、キティのようなフネが現役なのだから当然か)
また、英海軍の新型空母・CVF は、計画時点から 50 年間の運用を見込んでいる。
また、1960-1970 年代に製造された戦闘機のアップグレード市場も大賑わいだ。MiG-21/23、F-5A/B/E/F、そして F-4。あちこちの国で、この手の機体の改修をやっている。もうちょっとすると、今度は F-15 や F-16 の更新が加速しそうだ。
ただ、その一方で、進歩の早いエレクトロニクス製品は定期的な更新を要求される可能性が高い。特に、RMA 化に伴って兵器の IT 化が進むと、IT 関連の技術進歩が兵器に対する装備更新のトリガーになる傾向が強まるハズだ。
そうなると、21 世紀のウェポン・システムは、従来以上にモジュール化を取り入れて、定期的に必要な部分をコンポーネント単位で更新するという使い方になるハズだ (なんのことはない、スプルーアンス級の考え方だ)。
だから、これからのウェポン・システムでは、「古強者」と「新参者」が肩を並べて使われるという傾向も、ますます強まるに違いない。
よく考えたら、自作 PC というのはまさにこれ。手元のマシンを見ても、コンポーネント単位で更新が進められて、いつのまにか別物になっているという経緯をたどっているのと似ている。
「使えるものは徹底的に使う」というのは、資源保護や無駄を省くという観点から考えると、非常に好ましい傾向といえる。ただ、そうなってくると、違った問題が生起する可能性が高い。
それは何かというと、軍艦や航空機、戦車といったウェポン・システムを開発・製造する産業基盤の維持という問題だ。
一度作った飛行機や軍艦、AFV が「丈夫で長持ち」ということになると、サブシステムを開発しているメーカーばかりが潤い、仕事がなくなった本体メーカーは開発・製造のノウハウを維持できなくなって、イザというときに後継装備の開発に難渋するという問題が、そう遠くないうちに深刻化するのではないだろうか。
すでにアメリカでは、空母と潜水艦の建造所が 1 ヶ所ずつしかないという状況になっているし、航空機メーカーも再編が進み、片手の指の数でも足りるんじゃないかという状況になっている。ましてや、ヨーロッパにおいては何をかいわんや。1 国 1 社どころか、欧州統合の流れもあって、国を超えた大再編が進んでいる。
そうやって、スケール・メリットを発揮して企業体力をつけている欧米勢に対し、日本のメーカーが、防衛分野でも民間分野でも、どうやって対抗していくのだろうかと心配になる。
特に、今の防衛産業分野は銀行と同じで、一種の「護送船団体制」になっているから、限られたパイを各社で分け合うことで共倒れを防いでいる。ところが、護送船団になっていなかった自動車業界のように、何かの拍子に経営が難しくなったメーカーが外資に買収されるなんていう事態が起きないと、いったい誰が保証できようか。
まあ、産業のグローバル化は世界的な流れだから、昔のような「外資乗っ取り論」を振り回して産業の純血主義を振りかざす方こそナンセンスだと思うが、たとえば防衛装備メーカーが外資の傘下に入った結果として、武器輸出三原則の形骸化なんていう問題が起きる可能性だってある。
もともと、何事にも枝葉末節の議論ばかりしていて「どういう国になるのか」というような戦略レベルの議論が欠如している日本のこと。もし、防衛関連メーカーが外資の傘下に入ってしまい、いつのまにか外国製兵器の製造・販売ネットワークに組み込まれるなんていう事態になったとき、朝野を挙げてパニックを起こす姿が目に浮かぶのだが、これは私の考え過ぎだろうか。
「古いものを大事にする」という美辞麗句は立派だが、それに付随する問題にも少しは考えを及ぼしておかないと、後で大騒ぎになっても知らないよ、と申し上げておきたい。
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