Opinion : 軍の広報・受難の時代 (2002/9/2)
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8 月の初めに、米海軍横須賀基地の一般公開だというので行ってみた。この御時世に公開するなんて凄いと思ったものの、艦艇の一般公開は (予想通り) なかったし、公開エリアは局限されてるし、メインゲートでもなく三笠ゲートでもなく、裏口中の裏口・三笠公園ゲートなんてところから入れられるしで、たいした収穫はなかった。
もっとも、警戒レベルを上げまくっている時に、入口で金属探知機付きとはいえ公開しただけでも、立派なもの。現に、NAF 厚木は一般公開を止めてしまった。
多分、遠くからでも姿を拝める軍艦と違い、飛行機の場合は近くまで人を入れないと公開が成り立たないから、そこでテロを心配して「そんなら公開中止」ということになったのだと思う。
正直な話、米ソ冷戦の時代よりも今の方が、一般公開は難しいといえる。正規軍同士がドンパチするなら、相手が一般市民なら OK という判断もできる (もっとも、民間人の格好をした業界関係者や、文民の関係者、というのはあり得るけど…) ものの、テロ攻撃に対して警戒するとなると、相手が一般市民の中に紛れ込んでいるわけだから、善良なる一般市民もまとめて締め出すしかない。
善良なる一般市民 (?) としては残念な話だが、山羊と羊を見分けるのが難しい以上、仕方のない措置ではある。
もともと、日本やアメリカというのは、軍施設の公開が比較的進んでいた方だったと思う。国によっては、軍施設どころか鉄道まで「機密施設」扱いで撮影禁止、なんてところもあるわけだから、飛行場のランウェイ・エンドでカメラを振り回していても何もいわれない日本というのは、そういう意味では天国だ。
もう 10 年以上前の話になるが、NAF 厚木の一般公開で「F/A-18 のコックピットに納まってポラロイド写真を 2 枚撮ってもらって \1,000-」というのを VFA-195 かどこかがやっていて、まんまとひっかかったことがある。延々と行列してホーネットのコックピットに収まり、間抜け面を晒したポラロイド写真が、今も自宅のどこかにあるはずだ。
よく考えたら、アメリカ市民の税金で買った戦闘機を使って商売をする方もどうかと思うが、広報の見地からいえば効果は絶大。今では考えられない話だ。
ただ、これからの時代、「天国」などといっていられないような気がする。少なくとも、「対テロ戦争」に目処がついたと判断されない限りは、基地公開があっても規模は縮小され、飛行機や軍艦には触れないというケースが主流になるのではなかろうか。
余談だが、F/A-18 のコックピットは狭かった。当時は、今より少し体重が多かったが、それでも相当に痩せていた私が「ホーネットのコックピットは狭いなぁ」と思ったのだから、大柄な人にとっては、さぞかし大変だろう。(もっとも、AV-8B はホーネットより狭苦しそうだったが)
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それにしても。
数年前にイージス駆逐艦カーティス・ウィルバーが公開されたとき、CIC 内部の写真を撮りまくって「そろそろ止めんかい」といって追い出された前科者 (笑) としては、「早いうちに写真を撮っておいて良かった」と思うことしきりだ。当面、イージス艦の CIC を一般公開するなんてことは、天地がひっくり返ってもありそうにないのだから。
その一方で、特に先進国の軍隊ほど、広報活動が必要なのも事実だ。それは、人員の徴募だけでなく、国家予算を割り当ててもらうという見地からも重要なことで、やっている活動の内容や成果をアピールしていかないと、納税者や為政者にそっぽを向かれてしまう。それは具合が悪い。
だから、自衛隊にしろ米軍にしろその他の国にしろ、広報担当者が頭の痛い日々を過ごしているというのは、ありそうな話。
最近、自衛隊や米軍関連の TV 取材が増えている (ような気がする) のも、「一般公開でアピールしづらい分、メディアを使って」ということなのかもしれない。なにしろ、奥尻のレーダーサイトに TV カメラが入って、要撃管制の模様を録画・放送している御時世なのだから。(番組の内容も、*TBS にしては* 好意的な論調だと感じた)
もちろん、「見せろ」「見せない」でメディアと当局がもめることもあろうし、「情報操作だ」とかいう類の批判が出ることもあると思う。ただ、見せても差し支えないものと見せては具合が悪いものを峻別して、前者についてはできるだけ公開してアピールしていく、という姿勢を見せていかないと、組織の存在に対する支持や予算獲得という面から見ても、具合が悪いはずだ。
もちろん、個人的には「これを公開したら任務に差し支える」というものまで見せろとはいわないし、(本当は知りたいのだが) 性能データなどの詳細を出せない場合があるのも理解できる。ただ、だからといって便乗なし崩し的に「あれも見せない、これも見せない」となってしまっては、むしろ広報上のマイナスの方が大きいはず。
また、「抑止力」という観点からいえば、「いかにも強そうな軍事力」をアピールする映像が TV で流れるのは、それなりの効果がある。仮想敵がそういう映像を見て「あいつらに手出しするのはヤバそうだ」ということで攻撃を思いとどまってくれれば、こんなに安上がりなことはない。
もっとも、特に共産圏諸国の「演習映像」とか「公表写真」の類は、いかにも「つくってます」という感じの過剰演出が感じられて、むしろ逆効果だったりもするのだが。
ついつい、「安全第一・前例踏襲」のお役人としては、易きに流れて「全部非公開」ということにしたくなるかもしれないが、それでは予算をもらえないし、納税者にも見放されてしまう。それは自爆行為というものだ。
"Force Protection" と "Public Affair" の板挟みになって大変だとは思うが、そこでなんとか折り合いをつけて、極端な秘密主義に陥らない広報活動をやってもらいたいものだと思う。
もし施設の一般公開が難しければ、メディアの取材協力を強化するとか、映画や TV ドラマに協力するとか、プロモーションビデオを作って Web で配信するとか (笑)、工夫すればいろいろと、安上がりに効果が見込める方法はあるはずだ。現に、米陸軍ときたら、訓練の模様を再現したゲームソフトまで作っているではないか。
軍のサイトではないが、ロッキード・マーティンが Web サイトで自社製品の静止画や動画を配信しているのは、なかなか参考になる。F-35 の MPEG2 動画の中には、そのままプロモーション・ビデオとして電気屋の街頭 TV で流したいものもあるくらいだ (笑)。
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