Opinion : 第二東名不要論 (2002/9/9)
 

…と、刺激的なタイトルを付けてみたが、実際には「条件付き・第二東名不要論」という方が正解かもしれない。


最近、静岡県知事などが「第二東名の建設凍結反対」といって騒いでいると聞く。この静岡県知事といえば、もうひとつの愚行「静岡空港」でも強引に旗を振っている人物で、以前、私は「静岡空港不要論」なる拙稿を掲載したことがある。

第二東名は、裾野付近で分岐した後、静岡県内のほぼ全区間にわたって東名高速と平行し、より山側の区間を走る。途中、数ヶ所で現行の東名高速と連絡するための横連絡線ができるらしい。
ただ、地図で見る限り、第二東名が走る場所は既存の都市部から外れているから、第二東名から直接、静岡県内各地の都市に乗りつけるというのは難しく、第二東名を降りた後で一般道を走るか、連絡線を使って東名高速に移り、目的地最寄りの IC で降りるか、ということになる。

となると、静岡県内の諸都市を目的地とするクルマは、現在よりも不便を強いられることになる。第二東名ができて得をする (というか、少なくともネガにならない) のは、静岡県内を素通りする通過需要だけだ。

現実問題として、静岡県自体がかなり大きな産業基盤を有していることを考えると、東名高速の需要の少なからぬ部分が静岡県内と他県を結ぶ需要である可能性がある。ところが、前述のような理由により、そうした需要にとっては第二東名は使いづらいものになる。

そんな高速道路の建設に拘泥しているのが、当の静岡県知事であるというあたりからして、すでに変だ。自分の件の産業利益になる道路を造らせるならともかく、通過需要の得にしかならない道路を作るのにこだわるとは奇奇怪怪。


そもそも、静岡県内の東名高速が、全線にわたって平行する新設線を必要とするほど需要逼迫状態になっているかというと、そこがまず疑問だ。
自分も東名高速を数え切れないほど走り込んでいる一人だが、首都高速ならいざ知らず、静岡県内の東名高速は、平素はいたってスムーズに流れていることがほとんどだ。

静岡県内の渋滞ポイントというと、上り線が沼津の先で急な登りにかかるところで自然渋滞が発生するのが最右翼だろうか。以前は日本坂トンネルも渋滞銀座だったが、現在は上り線の増設と下り線の新設・三車線化により、それほど問題になっていないように見受けられる。
それなら、何もわざわざ離れた場所に平行道路を作るのではなく、渋滞ポイントだけをピンポイントで強化すれば済むことだ。現に、日本坂トンネルはそれでうまくいっている。

かような現状で、わざわざ不便な場所に第二東名を新設しても、いったい誰が使うのか、というのが正直なところだ。しかも、第二東名は設計速度 180km/h だとも伝え聞くが、そんなスピードを出してよいなんていおうものなら、静岡県警が黙っているまい。
だいたい、そんなスピードで走るトレーニングを積んでいない日本のドライバーには、180km/h で走れる道路など造っても、無用の長物。かように無駄に高規格な高速道路を造るのは、いわば、フル規格の新幹線を作って、そこに最高速度 110km/h の地下鉄車両を走らせるようなものだろう。

東名高速で、もっとも強化が必要な部分は、静岡県内ではないと断言できる。せいぜい、沼津から御殿場までの上り車線を増強する程度で済むのではないか。現在も、この区間には部分的に登坂車線がついて三車線になっているが、御殿場-沼津間の全区間で車線を増強すれば、年末年始や行楽シーズンの自然渋滞対策には有効になると考えられる。


もっとも、静岡県知事が第二東名にこだわるのは、巷間いわれるように、建設業関係の需要創出という狙いがあると考えられるのも無理がないところだ。

ピンポイントの車線増設よりも、新規路線の建設の方が仕事になるのは間違いないところで、静岡県知事殿が土建関係の支持を受けているのであれば、大きい仕事を持ってきたほうが票になる。そういう意味では、ただの「空港欲しいぞ症候群」の産物と考えられる静岡空港とは事情を異にしており、むしろ第二東名の方がタチが悪い。

鳥取あたりと違い、すでに東名高速がある静岡県では「国土の均衡ある発展」という美辞麗句でオブラートをかぶせるのは難しい。それだけに、建設を求める際の大義名分も支離滅裂なものになりがちだ。
もっとも、静岡空港で「愛県精神で利用してくれるに違いない」などと大法螺を吹いた静岡県知事のことだから、第二東名でも同じことをいう可能性がある。

だが、実際には利用者なんていうのはドライなものだ。自分にとって役に立つなら利用するし、役に立たなければ利用しない。もし、日本中で「愛県精神」を発揮して高速道路や空港を使ってくれるというのなら、とっくに十勝清水-池田間の道東自動車道は黒字になっているハズだ (笑)。

しつこく書くが、十勝清水や帯広あたりにおける国道 38 号の走行速度は首都高速のアベレージをはるかに超えているのであって、そんなところに高速道路を作ったところで、何千円も払うのが馬鹿らしく思えるのは理の当然。あんなところに高速道路を作ったのは、何のためかと問い詰めたい。
ひょっとすると、冷戦時代に、ソ聯軍上陸に備えて「万里の長城」代わりにするつもりだったのだろうか ?

第二東名に限ったことではないが、根本的には、一度決めた建設プランを金科玉条のごとくに振りかざす、国土交通省や地元自治体の硬直化した態度に責任がある。少なくとも、状況の変化に応じて柔軟な見直しができないようなボンクラは、とっとと職を退いたほうがよろしい。

それに、地球温暖化防止、あるいは石油消費削減という観点から見れば、モーダルシフトの流れに逆行する第二東名なんぞの建設は、即刻中止するべきなのだ。それで浮いた予算や人手は、鉄道・航空・海運のためのインフラ整備に回せばよろしい。そして、幹線輸送よりも端末輸送のための道路網を充実させる。
それが、本来目指すべき 21 世紀の運輸インフラ整備というものではないのだろうか ?

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