Opinion : 今後の対・北朝鮮政策を考える (2002/9/23)
 

正直な話、日朝首脳会談の成り行きは予想外だった。
「拉致」もそうだが、核開発やミサイル開発の一件も含めて、北朝鮮の辞書に「譲歩」という言葉があったのか、という驚きだ。

もっとも、目下の日本の朝野は「核」や「ミサイル」の話はそっちのけで、拉致事件の話に終始しているのが実情で、それも妙に感情論を煽ってばかり、という印象が拭えない。

今、考えるべきは、この譲歩を最大限に利用して、いかに東アジア情勢を安定化させるのか、という点ではないのだろうか。


そもそも、どうして北朝鮮が東アジアの安全保障における不安定要因とみなされるのかというと、以下のような理由に収斂されると思う。

  1. 体制が独裁的であり、国民が自国の置かれている状況や周辺の情勢に関する正しい情報を得ていない可能性が高い
  2. 軍事力が、国力と比較して異常に強大である
  3. また、核やミサイルといった兵器開発を、外交のための脅しカードに使う傾向が強い
  4. おまけに、国家レベルで「非正規戦」が大好きである

今回、「国家レベルの非正規戦」に分類される拉致や不審船の一件を認めたこと、そして、核とミサイルについても譲歩姿勢を示したこと、これらは、北朝鮮の現政権にとっては、極めて大きな譲歩であったのは間違いない。
いいかえれば、そこまでしなければならないほどに危機感を感じている、ということなのだろう。

では、今回の譲歩を、日本はどう利用するのがよいのだろうか。


確実にいえることは、今回の譲歩姿勢をテコにして、日朝間の国交正常化は進めるべきだ、ということだろう。

どうも、拉致問題に関してヒステリー状態になっているマスコミなどの論調を見ていると、「国交正常化なんてとんでもない」という感じにも見えるが、それとこれとは話が別。もちろん、被害者家族の皆さんには日朝ともに精一杯のフォローを行なうべきだが、外交レベルの問題は感情レベルの問題と切り離して考えるべき。
北朝鮮側が「拉致」を認めざるを得ない状況になって、手持ちのカードを出し尽くした現在だからこそ、それを逆用して、「過去の謝罪」を云々させずに国交正常化に持ち込むことも不可能ではないのでは ?

今の北朝鮮の政権が「結構なもの」といえないのは事実にしても、現政権がハードランディングする方が、もっとよろしくない筋書きになる可能性が高い。それを考えれば、とりあえず現政権の延命に手を貸しつつ、段階的にソフトランディングを図る方が、東アジア情勢の安定化につながる。

その代わり、ある程度の食糧援助や資金援助が必要になる可能性は高いと思うが、なに、戦争になるより安上がりというものだ。それに、長期的に見て北朝鮮を民主化に持ち込むことができれば、将来の長期的な国益にもかなう。
そして、それがテロリストの支援基盤や第三世界に対する武器輸出の抑制につながれば、東アジアのみならず、世界的な安定化要因になる可能性だってある。

もし、現政権がいきなりクーデターで倒れて「強硬派軍事政権」ができるようなことにでもなれば、それは現在以上の不安定要因になってしまう。これは「軍事的不安定要因」ということになるが、経済的にも不安定要因の元になるだろう。

逆に、金王朝が崩壊して、なし崩し的に韓国との一本化、なんてことになれば、韓国経済が北朝鮮を支えきれずに共倒れ、ということになりかねない。こちらは「経済的不安定要因」ということになる。それだけでなく、緩衝地帯を失う中国も面白くないだろうから、ヘタをすると軍事的・政治的不安定要因まで誘発しかねない。

どっちにしても、ありがたい話とはいいがたい。

北朝鮮が譲歩姿勢を示している現在なら、食糧援助や資金援助を行うに際して、こちらも強く出やすいし、援助の使い道にも口を出しやすいハズだ。それを最大限に活用して、「日本からの援助」を一般市民のレベルで印象付けることができれば、将来的な民主化体制構築へのソフトランディングに役立つのではないか。数十年がかりの大事業になる可能性が高そうだが…


今回の一件に限らず、我々は往々にして「何かひとつのイベントをきっかけにして、一挙に問題解決」というインスタントな成り行きを期待してしまうものだが、実際の国際政治は、各国の思惑が絡み合って魑魅魍魎がうごめく世界だけに、もっと息の長い、粘り強い長期戦略が必要になるはず。

そんな中で日本が生き残っていこうと思ったら、使えるカードは徹底的に使い、長期的な安定を引き出すという戦略が要るはず。それには、北朝鮮が示した一連の譲歩が役立つはずだ。

細かい話はともかく、最大の課題が「未だにプチ冷戦構造が続く東アジアから、政治的・軍事的な不安定要因を取り除くこと」である以上、そのために使えるカードを感情論でパーにしないことが重要だ。そういう視点が、今の日本の朝野には欠けていないだろうか ?

過去の日本の歴史をひも解いてみても、妙ちきりんな感情論で国益を台無しにしてしまった例は少なくない。いい例がロンドン軍縮会議をめぐる「統帥権干犯騒動」だが、他にもいろいろありそうだ。
外交の世界では、そうそう「勝者の総取り」というのはないのだから、ベストな解決とはいわないまでも、ベターな解決を図るのが当然の責務ではないか ?

今回の一件で、同じ轍を踏むべきではないと思うのだが、不安だ。

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