Opinion : イラク問題を考える 〜 サダムは死ななきゃ治らない (2002/11/11)
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本来、「フセイン」というのは一般的な個人の名前なので、たとえばヨルダンの「フセイン国王」みたいな例もあるのだが、ここでは特に断りがない限り、「フセイン」といえばイラクのサダム・フセイン大統領を指すものとしたい。のっけからの「お断り」だが、勘違いして欲しくないので、念のため。
といったところで本題。
イラクの大量破壊兵器をめぐる査察問題が、相変わらず賑々しい。一部マスコミや「平和団体」あたりにいわせると、好戦的なブッシュ政権が明日にもイラクにトマホークをぶち込みかねないようないい草のようだが、発表される米軍の予備役動員状況を見る限り、すぐに戦争かというと、ちょっと疑問に思える。
ただ、事情はどうあれ、イラクが厄介者であるという事実に変わりはない。いや、「イラク」というと語弊があって、正確には「サダム・フセイン率いるイラク」というべきか。
話の都合上、「イスラム国家の連帯」みたいな話を前面に押し出して攻撃回避に躍起になっているフセイン大統領だが、北朝鮮が共産主義国家のようでいて共産主義国家ではない (あれは「金主義国家というべきだ」) のと同じで、現在のイラクも、イスラム国家というよりは「フセイン主義国家」というべきだろう。
ぶっちゃけた話、フセイン大統領にとっては自分が神で、アラーは二の次なのではないかと思える。あの手の独裁指導者には、よくある話だ。そもそも、フセイン大統領が今の地位に就くまでに、あるいは地位に就いた後で、どれだけの死体の山を作ってきたかを考えてみれば、フセイン大統領が自分の立場を守るために手段を選ばない人物なのは、すでに明白なのだ。
そのサダム・フセインが何を目指しているかといえば、おそらくは、イラクを世界に冠たる大国に仕立てて、少なくともアラブ社会の盟主に据えることではないかと考えられる。(もし「世界の盟主に」と考えているのなら、身の程知らずもいいところだ)
そのための「ハク付け」として、強力な軍隊や各種のミサイル兵器、そして NBC 兵器があるのではないか。だからこそ、その NBC 兵器を査察によって暴かれ、取り上げられるのは、フセイン大統領にとっては生命線を絶たれるに等しい状況であるわけだ。
もっとも、私が常々いっているように、国家が保有する兵器というのは、あくまで国家の戦略目的を達成するための道具に過ぎない。もちろん、裏でテロリストとの繋がりがあっても不思議ではないイラクが NBC 兵器を保有していれば、それはとんでもない脅威だ。しかし、そもそもは、そうした各種の兵器を通じて実現を図っている「世界に冠たるイラク」主義こそが、問題の根源ではないのだろうか。
つまり、どんな兵器を保有していようが、兵器の保有量が少なかろうが、フセイン大統領が「世界に冠たるイラク」という目標を力任せに実現しようとしている限り、イラクは国際社会の脅威といえる。特に「911」以降、兵器でないはずのモノが兵器になってしまうという収拾のつかない状況が現出している以上、兵器のことだけ気にしていても、抜本的対策にならない。
ここまで書けば、すでに結論は見えている。大量破壊兵器の査察というのは目的ではなくてひとつの手段で、根本的には、サダム・フセインとその一派が、イラクで権勢を振るっている状況を潰さなければ、状況は変わらないハズだ。それには、フセインの一党を権力の座から引きずり下ろすだけではなく、人的・資金的なバックボーンも潰す必要がある。
実際、フセイン大統領を第三国に亡命させるという話が出たことがあるが、少なくともそこまでやらなければ、脅威を取り除いたとはいえない。
ただ、「フセイン後」のイラクが、また別の暴力的独裁指導者の手に委ねられたのでは同じことだから、イラクの国民自身が自覚を持って、もっとまともな政権を生み出す必要がある。多分、それには数十年の時間がかかるのではないか。
すでに 20 年以上に渡って続いているフセイン体制の下では、「フセイン思想」で洗脳されて育った世代が主流を占めているはずだから、いきなり「民主的な政権を」とかいってみても、簡単に実現するかどうか怪しい。独裁体制や共産主義体制が瓦解した国の多くが、いまだに「民主化」で苦労しているのを見れば、そのことは明白だ。
理想的なのは、まずは武力行使も含めていろいろな国際的圧力をかけ、それによってフセイン政権が自発的に (あるいは渋々と) 政権の座を下りて第三国に亡命かなにかをして、そこに国連管理の下で「民主化教育」を施すことだと思うが、どんなものだろう。
もっとも、露骨に「フセイン辞めろ」コールをするのも内政干渉になってしまうので、そこが難しいところではある。いわなきゃ分からない、死ななきゃ治らない相手に「察してくれ」というのは無理があり過ぎる。
ただ、イラクが単純に弱体化すると、今度はクルド人問題や、あるいは隣国イランの勢力伸長といった問題が露見する可能性が高いので、北朝鮮と同じで「ハードランディング」はまずいかもしれない。特にクルド人問題は、イラクだけでなくイランやトルコも絡んでいるから、非常に厄介だ。
もし、いきなりの体制瓦解でイラクの国内は大混乱、なんてことになれば、こうした周辺状況への波及は必至だし、ヘタをすれば、中東情勢の流動化から、国際的な石油相場などにも響きかねない。
というわけで、簡単に「答え」が出てこないのがイラク問題の厄介なところだが、「とにかく戦争は嫌です」という類の声こそ聞こえてくるものの、その先のこと、あるいは根本原因であるフセイン大統領の「お人柄」まで考えてイラク問題を論じている人が、果たしてどれだけいるのだろうか。ちょっと不安だ。
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