Opinion : さよなら <グランドひかり> (2002/11/25)
 

23 日に、JR 西日本の <グランドひかり> こと 10 系 V 編成が引退した。
100 系にはずいぶんたくさん乗ったが、もっとも回数が多かったのが、実は V 編成だったかもしれない。統計を取っていたわけではないが。

といっても、その理由はいい加減なもの。浜松に止まる <ひかり> に、たまたま V 編成を使った夕方の最終博多行きが含まれていたので、そいつを利用する機会が多かったというだけの話。だから、V 編成らしい機能を味わったことは、実はほとんどなかった。たいてい、禁煙自由席の 1 号車に 2 時間ほど乗っていただけだ。


ともあれ、100 系 V 編成こそ、「ゆとりと楽しみ」を前面に押し出した究極の姿だったと思う。ダブルデッカーの数だけなら JR 東日本の E1 系や E4 系もあるが、あれは通勤用に椅子の数を増やすのが主目的だから、「華」がない。
その点、V 編成は山陽新幹線の需給構造の関係でグリーン個室こそなかったものの、ダブルデッカー階下の普通車は余裕たっぷりだったし、食堂車の存在だけでなく、その内装も X 編成よりゴージャスな雰囲気があった。

もっとも、最高速度の引き上げで飛行機と張り合おうとすると、車内の空間にゆとりを持たせるのは難しいし、スピードアップで所要時間が削減されれば、食堂車だって入れにくい。現実問題、東京から九州まで 5 時間未満で移動できるとなると、途中で寝てしまったりした日には、食堂車に立つ気は起こらない。実質的な営業時間が 3 時間かそこらでは、食堂車の経営が成り立つまい。

だから、一部の論者がいうように「<のぞみ> にも、ゆとりのスペースや食堂車を ! 」というのは、無理があると思う。特に東海道新幹線みたいにビジネス需要が強い場合は、キャパシティの確保が優先されるのもむべなるかな。
交通機関の本質は人を輸送することにあるのだから、ゆとりのスペースがあっても乗れない列車より、キャパシティがあって、必要なときに乗れる列車の方が価値があるという見方もできる。多少キュークツであっても。

JR 西日本もそれが分かっているからこそ、自社線内専用の < ひかりレールスター> には、(需要の少なさを逆手にとって) 4 列シートの指定席や個室を設置して、車内設備の多様性で勝負に出たのだと思うし、実際、それが受けているのだから正解だったわけだ。こんなところに V 編成の DNA がちゃんと受け継がれているのだから、V 編成が一時の徒花だったということはあり得ない。

だいたい、ゆとりのスペースを欠いているのは鉄道界だけの話ではなくて、飛行機だって同じこと。限られたスペースや重量の中で経済効率を追求すると、どうしても詰め込みの傾向は出てくるものらしい。まして、デフレの時代にはゆとりより安さの方が重要視されるから、当然の傾向といえなくもない。
もっとも、自動車業界のように、使いもしないガランドウのスペースを持ち歩く無駄が増えている、奇妙な例外もあるが。


軍艦は長い寿命の間にどんな使われ方をされるか分からないから、軍艦設計者は占星術に長じていなければならない、と Jane's Fighting Ships に書いてあるらしいが、鉄道車両だって 20 年やそこらは使われるのだから、事情は似ている。
変化が激しく、しかもひとつのモノを長く使わなければならない時代だからこそ、軍艦でも鉄道車両でも、最初に想定した使われ方のままで一生を終える可能性は低い。

少なくとも、食堂車を潰して普通車に改造されるような目にも遭わず、バブルの時代の「ゴージャス」を引きずった姿のままで引退できた V 編成のダブルデッカーは、ある意味、幸せだったといえるかもしれない。
なぜなら、当初の姿と異なる用途に改造された車両の多くは、元の設計を引きずった姿のまま、最小の改造コストで転用されることが多いから、往々にして不自然な姿を見せる。経営事情を考えれば仕方ないとはいえ、なんかわびしいのだ。

多少、皮肉を効かせた見方をすると、V 編成が中間にダブルデッカーの付随車を 4 両集めたのは、ゆとりのスペースを産むためというより、平屋を全部電動車にすることで将来の短編成化をやりやすくするためだった、という考えもできる。実際、JR 西日本の懐事情を考えると、使えるものは徹底的に使うのが常だから、現在進行中の転配のように V 編成を短編成化して 0 系の代替に使う構想は、最初から織り込み済みだったのだろう。
むしろ、その副産物として、付随車を全部ダブルデッカーにして、後から付加価値としての「ゆとり」を押し出した可能性がある。だからといって、V 編成の価値が下がるというものではないし、モノを無駄にしない、賢いやり方だといえる。

ともあれ、新幹線の (というより日本の鉄道業界全体に) 新時代の接客設備の水準を持ち込んだ 100 系、なかでも V 編成に、感謝。

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