Opinion : 新幹線がもたらす、国土の不均衡な発展 ? (2002/12/9)
 

東北新幹線が八戸まで延長された。喜ばしいイベントという受け止め方が多いようだが、個人的には、どうも釈然としない。

過去にも書いたことがあるが、新幹線にしろ高速道路にしろ、建設を要求する側はたいていの場合、「国土の均衡ある発展」というお題目を掲げて、国に建設を迫る。道路公団の民営化論議に際して、今後の建設を可能にするように暗躍している道路族議員とて同じだ。

では、実際に整備新幹線や高速道路ができた場所において、本当に「均衡ある発展」が実現したか、だれか検証してみてはどうだろう。
どうも、現状を見ていると、「出来たもん勝ち」「造り逃げ」という気がしてならないのだ。


個人的な持論としては、単に新幹線や高速道路と要ったインフラを作るだけでは、「均衡ある発展」は望めないと考える。インフラはあくまでインフラであって、そのインフラを使って、どのような産業を呼び込むのか、地域の特色をどのように出していくのか、都市部に流出しがちな若年層をどう引き留めるか、といった戦略が伴わなければ意味がない。
そうした戦略が伴わず、単に「インフラを作れば、後は勝手に何とかなる」と思っているような頭脳レベルでは、均衡ある発展どころか、むしろ都市部への人口流出を加速する可能性の方が高いだろう。

もっとも、若年層が都市部に流出したがるのは、メディアの責任もある。これはそれぞれの地域だけが頑張ってみてもどうにもならないことだが、それにしても、地方自治体の側に、自分の地元を魅力的にするのだ、という考え方がどれだけあるのか、少々疑問だ。新幹線や高速道路ができれば、若者が地元から出て行かない、とでも思っているのだろうか ?

また、東名阪のような「都市部」とそれ以外の地域の対比だけでなく、ことに整備新幹線の場合、新幹線の沿線における地域間格差の問題も無視できない。早い話が、新幹線の駅ができれば天国、できなければ地獄、ということだ。

現在、整備新幹線の建設に際しては、「並行在来線廃止」がワンセットになっている。JR 貨物にとっては傍迷惑な話だが、現実問題として両方を維持するのは不可能だから、JR が新幹線を押し付けられると引き換えに、在来線を手放したくなるのは理解できる。そして、長野・岩手・青森のいずれも、毎度恒例の第三セクター設立ということになった。

先行する長野だけでなく、東北本線を引き受けた三セクにしても、経営が苦しいのは理の当然。もともと存在した地域間需要は新幹線に持って行かれ、ローカルな輸送需要しか確保できないのだから、少々の値上げでカバーできるはずがない。
東北本線の場合、北海道行きの夜行列車と貨物の分は JR から利用料が入るだろうが、はっきりいえばタカが知れている。まして、長野の場合は夜行列車も貨物もない。全面的にローカル需要依存で、それが消えたら、しなの鉄道も沈没だ。

しかも、新幹線とワンセットで高速道路を造られた日には、新幹線の駅まで車で移動する人が増えても不思議はない。鉄道より自動車交通の方が面的広がりがあるから、これは当然といえば当然の話。(高速道路がなくても、「国土の均衡ある発展のために」一般道路の整備を要求するから同じことだ)
そうなると、ますます並行在来線の利用者は減る。クルマを使えない人は、地元から出ていくか、地元に雪隠詰めになるしかない。

となると、新幹線の駅ができなかった場所では、下手をすると三セクが経営破綻してしまい、将来的には「レールのない町」になってしまう可能性があるわけだ。「国土の均衡ある発展」というお題目を掲げて新幹線を建設させたら、結果として足元の並行在来線が消滅の危機にさらされ、新幹線のある場所とない場所との間で地域間格差を助長するという事態が、果たして「国土の均衡ある発展」といえるかどうか、はなはだ疑問だ。

もっとも、こうした事態に対し、青森県や岩手県あたりでは「並行在来線廃止」という方針に異を唱え、新幹線も在来線も JR にやらせようという意見が出ているらしい。だが、もともと需要の少ない場所に強引に新幹線を造らせておいて、それはないだろう、と思う。何事も、言い出した者には相応の責任が伴うということを忘れてはいないか。


こうした状況を見る限り、今後に新幹線の開業が見込まれる、鹿児島本線や北陸本線、東北本線の八戸以遠でも、同様の事態が生起するのは間違いないと思う。いずれもローカル需要より都市間需要でレールがもっているのは同じだし、その都市間需要を新幹線に持って行かれれば、在来線の維持は極めて困難だ。
まして、少子化が進めば、ローカル需要に少なからぬ比率を占めている、高校生の通学需要が減ってしまう。これは意外と無視できないファクターだ。

そう考えると、フル規格新幹線に固執せず、新在直通によって実を取った山形や秋田は、なかなか上手だったと思う。建設費は安上がりだし、フル規格に比べれば落ちるとはいえ、それなりのスピードアップも勝ち取った。しかも在来線を三セクで引き受けるリスクも負わずに済んだ。なかなか頭がいいやり方だし、実情にも合っている。

ただ、新在直通に際して改軌が必要という点が、特に貨物輸送の存在する場所ではボトルネックになる。それを考えると、フリーゲージトレインの実用化による新在直通というのが、もっとも現実的でリスクの少ないソリューションではないかと思う。

もっとも、これは技術的・経営的には正しい判断でも、政治的には正しい判断ではない。政治的には、新幹線の立派な高架橋と駅を造ってみせないことには、「成功」とは評価されないだろう。
こういうそもそもの土壌と、「国から多くの金を引き出した首長ほど評価される」という日本の地方自治の貧困な風土とが、「地域の不均衡な発展 (または崩壊)」を加速しているわけで、ある意味、自業自得といえなくもない。

そろそろ、「新幹線や高速道路を造るだけで地域が発展する」という幻想から、誰もが目覚める必要があるのではないか ?

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