Opinion : 交通インフラの目的外利用を糺す (2002/12/16)
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先日、都心の、とある幹線道路を走っていたら、VICS では渋滞を示す赤線が出ていないのに、妙に流れが悪いので不審に思ったことがあった。
もっとも、この VICS からしてアテにならないところがあって、間接的な速度規制効果を狙ってか、渋滞してもいないのに赤線が表示され、さらにカーナビがそれに騙されて妙な側道にクルマを連れ込むという弊害を食らったことがある。
ただし、今回の渋滞の原因は、VICS がウソをついたからではなかった。なんと、車列の前方に、巨大なカップラーメンの張りぼてを載せた宣伝トラックがいて、そいつがノロノロ走っていたのが原因だった。これには呆れてしまった。
モノを運ぶのが目的ではなく、荷台に載せた巨大カップラーメン張りぼて広告看板を沿道の人に見せるのが目的だから、スピードを出すはずがない。道が混んでて渋滞するならともかく、こんなくだらない理由でノロノロ運転を強いられたのでは、MT 車のドライバーならずともアタマに来る。まさにリソースの無駄遣いではないか。
そもそも、道路というのは人やモノを運ぶために造られたものだ。空いている道路を有効利用するために広告自動車を走らせましょう、というならともかく、渋滞が恒常化している都心の幹線道路に、わざわざ意図的にノロノロ運転をする広告トラックを乗り入れるのは、もはや一種の公害といえる。目的外使用も甚だしい。
ただし、バスのように、もともと別の目的で道路を走るモノが広告を載せるのは、問題ないと思う。あくまでバスの本分は乗客を運ぶことで、それがついでに広告を掲載していても、目的外使用とはいえない。ここで問題視したいのは、道路の本来の目的に反するクルマが、公共の迷惑要因になっているということなのだ。
もっとも、よく考えてみると、この手の「目的外使用」は、何も道路に限ったこととはいえない。最近でも、静岡県の石川知事が「のぞみ通行税」構想をぶち上げたそうだが、これなども交通インフラに対する目的外使用の一例といえる。
この石川知事という御仁は、よほど交通インフラの目的外使用がお好きとみえて、第二東名に静岡空港、その静岡空港の真下の新幹線駅、それが JR 東海に無視されたら「のぞみ通行税」と、公共交通を何だと思っているのかと問い詰めたくなるようなことばかりしている。
もちろん、支持基盤の一翼を占めているのであろう、県内の土建業者に対する利益誘導という色彩が濃いのだろうとは、容易に想像がつく。よくある話だ。それにしても、すでに新幹線も高速道路もあって、産業面でもそれなりに恵まれている県の知事ともあろう者が、これだけ大規模公共事業をやりたがるというのは常軌を逸している。
程度の差はあれ、交通インフラの建設が「目的外使用」の色彩を帯びやすいのは認めるが、この人はやり過ぎだ。島根県あたりの知事にいわせれば、贅沢の極みに違いない。
しかも、最後の最後に出てきたのが「通行税」という、なんとも江戸時代的な古臭い発想なのだから呆れる。この調子では、そのうち東名高速に「関所」を造って、通行税を取ると言い出すのではないか、と思ってしまう。
交通機関を、輸送の道具として見るのではなく、票や利権を生む「打ち出の小槌」だと勘違いすると、こういう頓珍漢なことを言い出す政治家が出る。もっとも、よその県でも新幹線や高速道路を造るだけで地域が活性化するという幻想にしがみつく首長はいるわけで、その点では大同小異といえなくもないのだが、それにしても石川知事の粘着ぶりは異様だ。
こんな知事が大きな顔をしているのは、静岡県にとっての不幸だ。
道路でも鉄道でも空港でも、それはあくまで人やモノを運ぶための物であって、それ以上の物でも、それ以下の物でもない。もし、たとえば広告媒体としての価値や、あるいは集票マシンとしての価値があるとしても、それはあくまで副次的なもの。そういった副次的価値自体を目的化してしまうのは、感覚がずれている。
たとえば、日中は運行間隔が空く線路のダイヤの余裕を活かして、広告専用電車を間合で走らせろなどと主張する人はいない。鉄道の線路は、鉄道事業者以外は勝手に使えないから当然といえる。
空港だって同じことで、佐賀空港がいくら暇だからといって、使っていない時間帯に、滑走路に広告看板を立てろなどという奴はいない。もっとも、空港というのはえてして辺鄙なところにあるから、やっても効果があるとは思えないが。
ところが、不幸にも道路の場合は誰でも乗り入れることができてしまうから、使う側にも先の広告トラックの例のように目的外使用を企む輩がいるし、造る側でも存在をアピールしやすいのに便乗して集票の道具に使う輩がいる。そういう意味では、各種の交通インフラの中で、道路というのはもっとも政治性・不透明性を帯びた存在といえるのかもしれない。
誰でも利用できるがゆえに、本来の目的外のトラフィックで帯域が占有されるという点では、インターネットにおける spam メール問題と通じるところがなくもない、かもしれない。
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また、道路の場合の不幸は、「道路特定財源」の存在だといえる。
この制度、利用者が費用を負担する「受益者負担」ということで、一見、理に適っているように見える。しかし、それは需要と供給がマッチしていて、正しく予算が使われている場合の話。必要なところに予算が回らなかったり、予算需要以上の財源が存在することが原因で不必要な道路まで造らせようとする輩が出れば、むしろ特定財源化は無駄遣いの原因と利権の温床になる。今の日本に、そんな無駄遣いを許す余裕はないハズだ。
もう一度、交通インフラの整備に際して、「そもそも輸送機関なのである」という原点に立ち返った発想が必要ではないのだろうか。本来の目的と違うところで予算やリソースを無駄遣いするべきではない。
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