Opinion : MD 構想をめぐる雑感 (2002/12/23)
 

アメリカのブッシュ大統領が、弾道ミサイル要撃システムを 2004 年から配備するといいだしたことと、日本の石破防衛庁長官が MD システム開発への関与に関する発言を行ったことが、いろいろと物議を醸しているらしい。

実際、「2004 年に配備開始」と聞いたときには「2014 年の間違いじゃないか」と思ったものだが、国防総省のニュースリリースを見ても、確かに 2004 年と書いてある。
いまだに発射実験で「当たった、当たらない」とやっているものが、ほんの 1-2 年先に配備されるというのは悪い冗談としか思えないのだが、いったいどういうマジックを使うのかと、野次馬的興味がある。


この弾道ミサイル要撃システム配備に関し、当然ながら、中国や北朝鮮は猛反発している。いまやアメリカのお仲間になってしまったも同然のロシアは別として、中国も北朝鮮も、国際社会における発言力維持の道具として弾道ミサイル戦力の存在が不可欠だから、そいつが無力化される可能性がある弾道ミサイル要撃システム配備に反発するのは当然といえる。

特に北朝鮮の場合、手持ちの弾道ミサイルが使い物にならなくなれば、誰も北朝鮮のことを恐れなくなってしまい、お得意の「瀬戸際外交」ができなくなる。中国のように、市場を開放してマーケットの巨大さで売るというのも不可能な相談だから (人口が少ない上に、カネがないのでは話にならない)、事実上、国際社会における発言力がなくなり、誰も北朝鮮のことを気にしなくなってしまう。

もっとも、ミサイル要撃システムが能書き通りに機能するかどうかというと、これはこれで疑問がある。比較的スピードが遅い巡航ミサイルならまだしも、宇宙空間から落下してくる弾道ミサイルを叩き落とすのは、そんな簡単な仕事ではない。

だから、個人的にはブースト段階の要撃、特に ABL (Airborne Laser) に期待している。ブースト段階なら比較的スピードも出ていないし標的も大きいから、終末段階の要撃よりは難易度が低いのではないかと思える。
もっとも、これはこれで、発射を探知してから要撃するまでの許容リアクション・タイムの小ささや、発射基地に近付かないと要撃できないという困難があるのだが。(ABL の射程は、確か 300km かそこらだ)

ただ、なにかと攻撃的な態度が目立つ最近のアメリカのこと、ヘタをすると、弾道ミサイル要撃システムの配備と並行して、発射基地に対する先制攻撃として B-2A で誘導爆弾を叩き込むといいだしかねないような気がする。第二次大戦中の V2 号でも同じだったが、究極の弾道ミサイル対策は "発射させない" ことだから、これはこれで理に適っているが、戦争行為に直結してしまうところが困る。


このミサイル要撃に関しては、「そもそも、そんなもんが実現できるのか」という技術面からの疑問の声や、いわゆる「プロ市民」による「とにかく反対」論などが騒々しい。ただ、技術的・情緒的な側面はひとまず措いておき、政治的側面から考えると、違った意味合いが見えてくるのではないか。

ICBM や SLBM が、その破壊力の大きさゆえに、おいそれと使えない「政治的兵器」になってしまったのはよく知られているとおり。それに比べると、実際に発射される危険性が高いという点で、北朝鮮のような国の弾道ミサイルは始末が悪い。とはいえ、実質的に国際政治における交渉カードとしての機能しか果たしていないことを考えると、政治的兵器という位置付けは同じだろう。

純粋に軍事的側面から考えれば、通常弾頭装備のノドンやテポドンが数発落下したからといって、日本が焼け野原になるなんてことはない。BC 兵器の場合はもっと被害が大きくなるが、それにしてもミサイル数発で国土が壊滅するなんてことはない。核弾頭でも同じことだし、第一、まともな核実験を一度もやっていない北朝鮮の核兵器が能書き通りにハゼると、誰が保証できようか。

にもかかわらず、北朝鮮の弾道ミサイルがほんの数十発で騒ぎの種になっているのは、「それが自分の頭上に降ってきたら」という疑心暗鬼のなせるワザ。マクロ的に見ればたいした被害を及ぼさなくても、自分の頭上に降ってくると思えば他人事ではない。それだからこそ、脅しの道具としての存在価値が成立するし、政治的カードとしても使える。

ということは、それを阻止するための弾道ミサイル要撃システムも、また、政治的兵器といえるハズだ。実際に使って威力があるかどうかということは別にして、それが存在するかどうか、威力を発揮する可能性が僅かでも存在するかどうかが問題になるという点では、どちらも同じだ。

実際、レーガン政権が SDI 構想をぶち上げたことで、対抗策を講じようとしてソ聯が自壊したという歴史もある。
以前にもどこかで似たようなことを書いた記憶があるが、弾道ミサイル要撃システムにしても、とにかく「配備する」と宣言し、実際に試射を行って、ときには命中を記録して見せた上で、それを 10 基でも 20 基でも、とにかく実際に配備してみせる。そうなると、弾道ミサイルを保有する国家に対してプレッシャーをかけ、対抗策を講じようとして自壊させる効果が見込める。それで片付くなら、こんな安上がりな話はない。

実際問題として、実験でミサイルを撃ち落とすのもさることながら、ミサイル要撃システムを「配備してみせる」ということの政治的成果が大きいのは間違いない。だから、日本も便乗して「要撃システムを配備する」とコミットしてみせることで、北朝鮮に対して政治的プレッシャーをかける… そんな側面から物事を考えてみる人はいないのだろうか。
(実際にやるかどうかは別問題。ただ、日本の場合はイージス艦というプラットフォームを有している点が、大きなアドバンテージといえる)

もちろん、それと並行して朝鮮半島情勢のソフトランディングのために政治工作を行うのが大前提だが、少なくとも「ミサイル要撃システム配備」と口にしただけで叩かれるようなヒステリー状況では、どういう状況であれ、冷静な対処は難しいと思う。
この辺で、軍事面も考慮に入れながら対北外交戦略を再考してみても、バチは当たらないのではないか ?

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