Opinion : 客観的報道なんてあり得ない (2003/3/31)
 

今回の対イラク攻撃に限ったことではないが、戦争の際に新聞・テレビに登場する定型句で、どうにも気になって仕方がないものがある。
たとえば、「真実を伝える報道」とか「客観的な報道」とかいう類の言葉がそれで、どうも、米軍の公式発表を鵜呑みにしてそのまま流すのは「客観的な報道」ではないことになっているらしい。


戦争というのは、2 つの国家 (ないしはそれに準ずる勢力) の対立が、もっとも激しい形で具現化したものだから、双方の陣営の言い分が食い違うのは当たり前だし、どちらも自分に都合がいい方向に物事を運ぼうとして「マスコミ操作」に出るのは、当然の話といわなければならない。

以前にも書いたことだが、作戦の進行状況から何から、全部ガラス張りにして記者会見で流してしまったのでは、敵側は情報部門なんて要らなくなってしまう。CNN を見ていれば仕事が済んでしまうからだ。どこの国も、そんな馬鹿なことをするわけがないので、「真実を発表しない」あるいは「都合のいいことしか発表しない」といってごねた挙句、「米軍の発表をそのまま流すのが客観的な報道だろうか」などとぼやくのは、そもそもナンセンスというものだ。

とはいっても、米軍の報道発表をそのまま流すのが「客観的ではない」というのであれば、イラク側の言い分、あるいはアルジャジーラの放送内容をそのまま流すのが「客観的」ということになるのだろうか。まさか。
情報操作ということなら、アメリカよりイラクの方が統制が進んでいるのは周知の事実で、現に、「誤爆」を主張するイラク側が、記者を呼ぶ前に破片を片付けさせたなんていう話もある。イラクがレーダー誘導無しで適当に撃ったミサイルが着弾したというのがペンタゴンの言い分だが、そんなイラク側の話を聞くと、あながちアメリカ側の宣伝とも断言しきれないと思う。

もっとも、マスコミというのは往々にして「戦争を煽っている」と非難されるのを恐れて、戦争当事者 (特にアメリカが当事者の場合) に対する非難は大々的にやり、勝ち戦の話なんかは後回しにする傾向がなくもない。米軍の兵士が 10 人死亡すれば大騒ぎして、イラクの兵士が 100 人死亡しても何も騒がないくせに、「人命が大切だから戦争反対」とか「公正で客観的な報道」とかいわれても、それは違うだろう、と思う。

それに、戦争で人命が失われているのは、何もイラクだけの話ではない。コートジボワールで内戦があって、フランスや周辺諸国が平和維持部隊を送り込んで事態の収拾に躍起になっているなんて話、どこの新聞やテレビが取り上げただろうか ? 南アフリカがコンゴやルワンダに平和維持部隊を送り込んでいる話を、何人の日本人が知っているだろうか ? ネパールやスリランカの内戦の話はどうだろう ?
結局、「戦争反対」とか「客観的戦争報道」とかいったところで、それは世間の話題になる大事件に限られた話でしかない。

戦争と関係ないところでも、ありもしない「安全神話」をいい立てておいて、墜落事故が起きると「安全神話の崩壊」といって騒ぐ、典型的なマッチポンプ構造を持っているのがマスコミの姿なので、別に相手が戦争に限らなくても、もともと「客観的」とか「公正・中立」なんていう言葉は、報道の世界に存在しないと思った方がいいのではないか。

もっとも、新聞でもテレビでも、民間企業としてやっている以上は、利益を出さないと始まらないし、国営マスコミなら国のご機嫌を取り結ばないと存在が怪しくなってしまう。そういう事情を考えれば、そもそも「完全に公正中立な報道」「純粋に客観的な報道」なんてものはあり得ないし、そのことを非難するのも筋違いだと思う。

つまり、常々いっているように、報道といえども何らかのバイアスがかかっていることを前提にして受け取るべきで、どこの社がどのようなバイアスをかける傾向があるかを知り、さまざまな情報を突き合わせて比較することこそが、"真実" に少しでも近付くための、唯一の手段ではないかと思う。私が常々いっている「情報リテラシー」というやつだ。


自分が「イラク攻撃特報」をやっているのは、なにも「イラク攻撃の真実」を伝えようなんていう、大それた狙いからではない。ペンタゴンが発表した内容のすべてが新聞やテレビに載るわけではないから、大手のマスコミは無視してしまうような些細な情報を拾って載せることで、状況判断の材料を一つでも多く提供できればいいと思って、あれをやっている。
昔だったら、一個人がこういうことをするのは難しかったが、インターネットと Web の普及のおかげで、こういうことが簡単に (?) できる。

だから、「書いてある内容が公正でない」とか「アメリカ側の言い分ばかり載せて、中立性を欠いている」なんていう批判は受け付けない。(ただし、「翻訳が間違ってる」とか「文章がおかしい」という突っ込みは、正確性維持の観点から大歓迎 :-)
だいたい、あの記事のどこにも「この記事は公正です」とか「中立です」とか「ここに書いてあることが真実です」なんてことは書いていない。ペンタゴンのバイアスと書き手の個人的バイアスが、二重にかかっている。そう思って読んで欲しい。

それに、「戦争反対」とか「戦争の残虐性」といったネタで書き立てている新聞・雑誌・Web サイトは、世間に掃いて捨てるほどある。それなら、たまには毛色の違ったことを書く人がいたところで、バチは当たるまい。どの情報をどう受け取るかは読み手の問題なのだから、それなら、判断材料がいろいろある方がいい。


似たような例は、戦争報道以外でも多数存在する。

たとえば、特定の新聞や雑誌が、特定の企業や個人などを長期にわたり、執拗に攻撃していることがある。某宗教団体傘下の出版社が、あの手この手で特定の個人や週刊誌を攻撃し続けているのは典型例だが、他にも似たような事例はいろいろある。
それが、果たして真の正義感から行われているものなのか、それとも企業としての思惑から、"営業上" の背景があってメディアを使った攻撃に出ているのか。それはすべて同一の背景によるものとはいえず、個別に判断しなければならないだろう。

だから、さまざまな情報源からネタを集めて突き合わせてみなければ、判断の基準点がずれて、結果として誤判断をすることになってしまう。それを、「新聞・雑誌・テレビが書いたりいったりすることは、すべて真実である」という前提で受け取るから、逆に、マスコミを使った情報操作にコロッとひっかかる。さまざまな情報を突き合わせて評価する「情報リテラシー」が欠如しているから、そういうことになる。

いま一度、報道の読み方について、考え直してみてもいいのではなかろうか。それが、ありもしない「客観性」や「中立性」を信じさせようとしているマスコミの傲慢に対する、唯一の対抗手段だと思うから。

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