Opinion : IT 革命も人間にはかなわない ? (2003/4/14)
 

すでに「イラク攻撃特報」に載せたネタなので御存知の方も多いと思うが、アメリカのチェイニー副大統領が、湾岸戦争と今回の対イラク戦争の相違点として、情報伝達の速さを挙げている。

実際、JDW など見ていても、RMA 化を進める米軍の課題として頻繁に出てくる言葉は、"sensor-to-shooter" のタイムラグ短縮となっている。ここでいうセンサーとは目標情報を収集する UAV や偵察機、偵察衛星などのことで、シューターとは実際に爆弾やミサイルを撃ち込む戦闘機や爆撃機を指す。

対潜哨戒機のようにセンサーとシューターが一体化されている事例もあるが、これはどちらかというと例外で、特に陸軍・海軍・空軍が共同して統合作戦を展開する際には、どうしてもセンサーとシューターが別々の存在になる場合が出てくる (例 : 地上軍に対する近接航空支援や弾道ミサイル防衛)。
となると、両者の間で情報を正確、かつ迅速に伝達する必要があるし、それが作戦の死命を制することにもなる。

湾岸戦争のときには、サウジアラビアに設置された航空作戦センターの情報システムが米海軍のシステムと相互接続できず、情報をいちいち人手で運んでいたというが、これでは迅速な攻撃はおぼつかない。また、許容されるリアクション・タイムが短い弾道ミサイル防衛では、情報伝達の速さは死命を制する。


どこかで似たような話を聞いたことがあると思ったら、なんのことはない。コンビニの POS システムや、トヨタの「かんばん方式」と、一脈通じるものがある話だ。

たとえば、「フセイン大統領がどこそこの建物にいる」という情報が得られたら、その座標と攻撃に使用する兵装の情報を "かんばん" に書いてシューター (爆撃機) に回すと、ただちに建物の緯度と経度が書き込まれた JDAM が GPS 誘導で "配達" されるというわけだ。とんでもない時代になったもので、やられる方はたまらない。

米海軍が掲げる "Network Centric Warfare" という言葉にあるように、センサーや戦闘指揮装置、兵装の投下を管制する装置など、各種のシステムを全部ネットワーク化して互いにデータの交換を可能にする。そうなると、センサーが得たデータは迅速にシューターに送り込まれ、目標の座標を算出して JDAM などの兵装にその場で設定し、後は上空まで行って投下すればよい。
すると今度は、目標上空まで進出するための所要時間すら問題になってくるが、イラク上空に常に B-1B が飛んでいるという話で分かるように、航空機や巡航ミサイルを目標地域の上空でロイターさせるのが、今後の標準的な手法になるのだろう。

有人航空機だけでなく、トマホークも最新型ではデータリンク機能が追加されていて、発射後の目標情報変更が可能になっている。だから、とりあえずミサイルを撃ち込んでおいて、臨機目標が現れたらただちにその座標を送り込んで攻撃させる。これなら、攻撃までに要するタイムラグは最低限で収まる。特に、突発的に出たり消えたりする可能性が高い、移動式のミサイル発射器に対して有効な手法といえる。

実際、米軍で構想が持ち上がっている「モーフィング主翼 (形状変化式の主翼)」は、高速巡航で目標地域に迅速に到達し、もしロイターする必要が生じたら、できるだけ経済的に長時間のロイター時間を確保する、という相反する課題を両立させるための手法だ。面白いものを考えるものだと思うが、果たしてモノになるのかどうか。

今までだと、センサーとシューターの間の情報交換は人手を介していたから、その過程で時間がかかってしまうし、余計なチョッカイ、あるいは情報の伝達ミスが入り込む可能性がある。信頼性の高い高速通信網とプロトコルの統一によって、センサーが得た情報をそのままシューターに直送できれば、情報伝達の「中抜き」が可能になる。

RMA を「戦場の IT 革命」と定義付けると、この「情報伝達の中抜きと迅速化」こそが、いわゆる IT 革命の本質ではないかと思う。多分、軍事における RMA だけではなく、民間のビジネスにおける IT 活用にも似たところがあるだろう。
たとえば、これまでは情報や商品流通の「仲介」を行うことで利益を得る立場が存在していたものが、商品や情報の供給元と受け手の間を直結することで「中抜き」が発生し、仲介業が失職する。現在でも、旅行業のように、こうした事態が生じつつある分野がある。


…と、ここまで書いた話の内容だけ見ると、なにやらお目出度い話に見える。実際、流通の世界で中抜きが発生すれば、その分だけコストが低減できる可能性が出てくるし、DELL Computer みたいな PC 直販メーカーが、それを実践してくれている。

だが、戦場でもビジネスでも、常に狐と狸の化かし合いというのはある訳で、情報伝達が中抜きで迅速化され、皆がそれに依存するようになれば、今度はそのシステムに贋情報を掴ませようとする人が出てくるのは間違いない。そこでまんまとひっかかって情報評価を間違えると、爆撃なら誤爆の元、ビジネスなら失敗の元ということになってしまう。
また、センサーに贋情報を掴ませる代わりに、センサーとシューターの間の通信を妨害することを考える人も出るだろう。もっとも、米軍では衛星通信を多用しているので、これを効果的に妨害するのは難しいかもしれないが。

そんなわけで、どんなにテクノロジーが発達しても、最後にモノをいうのは人手による情報評価と判断能力ということになってしまう。なにしろ、コンピュータは勘を働かせてくれないし、「なんとなく怪しい」なんていう答えも返してくれない。

そこで面白いと思うのは、最近、米軍が各種の無人戦闘システムの中に、"man-in-the-loop" を取り入れようとしていることだ。以前は autonomous、つまり無人機やロボット兵器、巡航ミサイルなどが、勝手に目標を見つけるなり、あるいは他から目標情報を受け取るなりして自動的に攻撃を仕掛ける世界を目指していたようだが、それを少し軌道修正することになるのかもしれない。

なんでそんなことになるかといえば、やはり、人間が介入して攻撃の是非を判断できるようにしておかないと、贋情報にコロッとひっかかったり、ロボット兵器が勝手に戦争を始めたりしてしまうような事態が懸念されるからだろう。IT 革命だ RMA だといってみたところで、最後は人間が介入しないといけないというところに、万物の霊長の存在価値を感じる (笑)。

IT 業界でも最近、autonomous computing という言葉が流行っているが、そのうち軌道修正する羽目になるかどうか、興味深くウォッチしてみたいものだ。

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