Opinion : 世界をだまくらかした大芝居 ? (2003/4/20)
 

結局、「泥沼のベトナム化」とか「バグダッドで市街戦になって米兵 3,000 名死亡」なんていう、反戦運動家が喜びそうなシナリオは実現せず、フセイン政権は開戦から 1 ヶ月も経たないで瓦解してしまった。独裁政権の末路はどこでも哀れなものだが、特にフセイン政権の場合、口先の発言が御立派だっただけに、その後の崩壊ぶりは痛々しい。

もっとも、高圧的政権と、複数のグループに分割されている (それは、政権側が意図的に行ったであろうものも含めて) イラクの国民が、うまく纏まってくれるかどうかというのは別の問題で、これをドジると、また厄介な事態になる可能性があるが、その話は本題ではないので措いておく。

今回取り上げたいのは、3 月下旬の「米軍補給線脆弱騒動」と、その後でワシントンがやらかした、制服組と文民の間の責任なすりあい騒動のことだ。


一般常識で考えれば、確かに、第 V 軍団の進撃速度は常識外れのものだった。500km ほどの道程を 10 日足らずで進めば、後方補給が問題になるのは理の当然、と誰もが考える。そこに「補給隊が襲われた」というニュースが入り、さらに「第一線部隊の食糧配給が減らされた」なんて話が伝われば、ネタを探しているプレスの格好の話題になるのは間違いない。

確かに、燃料だけ考えても、湾岸戦争のときの第 VII 軍団のデータを元にすると 1 個師団が 1 日に 3,000t 以上使うわけで、さらに食料・水・武器弾薬・スペアパーツ類まで運ぶのだから、補給が大変だろうというのは誰でも感じる。(もっとも、補給のことなんて関心がない、という人の方が、絶対数でははるかに多いに違いない)
特に、もともと「戦争反対 → 戦争を仕掛けた側である米軍の失態を取り上げたい」というスタンスを取りがちな日本の (いや、欧米も似たりよったりか) マスコミは、この種の話を嬉々として (?) 取り上げるであろうことは明白。実際、その通りになった。

第 V 軍団の補給が本当に危機的状況になっていたかどうかの真相は、当事者でなければ分からないし、真相が世に出てくるには何年かかかるハズだ。それまで真相は藪の中だが、報道されている (= 公開しても構わないと判断された) 情報を見る限り、カルバラからバグダッドに向けて進撃を再開した後、補給をめぐる話がピタリと出てこなくなったのは事実。こうなると、「補給が足りない」という状況がどこまで本当だったのか、非常に怪しい。

実際、すでに「ワシントンがバグダッドを騙すため、わざと補給に困難をきたしているという贋情報を流した」という見解を出している人もいる。
先に書いたように、欧米諸国のメディアでも「米軍苦戦」という類の話に飛びつきやすい傾向があるし、ましてや「アルジャジーラ」のようなアラブ系メディアは言わずもがな。そこに贋情報、あるいは誇張された内容でもって「米軍苦戦」のネタを流せば、盛大に書き立ててくれるのは、ほぼ確実。

しかも、相手とするイラクは、現代では稀有の独裁政権だ。国内のメディア統制は行き渡っていて、政権側に都合のいい話しか流さない。当然、政権に対する批判的な意見は封じられるし、政府首脳の間でもサダム・フセインに楯突くような意見はなかなか出ない。それをやれば、あっという間にクビが飛ぶ。
おまけに、すべての権力がフセイン大統領周辺に集中しているから、部下の自由裁量とか権限の委譲なんて言葉は、あの国には存在しない。

平素からそういう暮らしをしていると、国家指導者には耳当たりのいい情報しか入ってこないだろうし、たまに政権側に不利な情報が指導者のもとまで届いても、「見たいものしか見ようとしない」というよくある心理が働いて、正しい状況判断を行う目を曇らせても不思議はない。戦史のみならず、企業経営でもよくある話だ。

そうした状況を見越した上で、わざとオーバーに「補給の危機」を喧伝すれば、イラク側がそれを真に受けて「今こそ苦境にある米軍を殲滅せよ」などと調子のいい命令を出し、虎の子の精鋭機甲師団 (といっても、米軍のレベルと比べればタカが知れていそうだが) をすり潰してくれるのではないか、とワシントンが期待しても、そう不思議はないだろう。

だから、今にして思えば、制服組と文民が責任のなすり合いをやり、JDW 誌も含めてさまざまな媒体に対して相互にコメントを出しまくって批判合戦をやれば、「補給困難」に始まる情報操作が迫真性を増してくるし、イラク側がそれを信じる可能性も上がる。実は、あの責任なすりあいも世界を騙すための大芝居だったのではないか、と思えてきているところだ。

3 月下旬に制服組が「だから戦力が足りないといったじゃないか」といって 10 万人増派の命令を出し、さらに「当初計画の戦力を国防長官が削ったんだ」などと騒ぎを煽れば、これはもう、大変にリアルな "米軍苦戦" の内紛劇に見える。ところが、4 月に入ってみたら、その「足りない」ハズの戦力しか持たず、補給の困難にあえいでいたハズの第 3 歩兵師団が、いきなりバグダッドの市内まで突入してしまった。なんだ、これは。


以前にも書いたように、どこの国でも戦況発表のすべてが真実であるはずがなく、都合のいい話だけ流す場合もあれば、わざと相手を騙すために贋情報を流す場合もある。当然、これから実施する作戦の内容を事前に正しく発表などするはずがない。

12 年前の湾岸戦争でも、いかにも海側からクウェートに向けて強襲上陸をするのではないかとばかりに海兵隊が揚陸演習をやる映像が流されたものだが、本当に重要な攻撃は、フレッド・フランクスの第 VII 軍団によって西側から、べらぼうな数の M1A1 戦車とともにやってきた。えてしてそんなものだ。
だから、3/24 付の当コラム「戦況発表の法則」でも書いたように、表に出てくる情報がすべて真実だと思ってはいけないのだ。

こうなってくると、TV でしきりにいわれていた「米軍は市街戦を避けたがっている」という話だって、マユツバものではないかと思えてこなくもない。モガディシュでの悲劇から、もう 10 年経っている。まともな脳味噌の持ち主なら、そろそろ何らかの対抗策を出してきてもいい時期だ。

だいたい、正常な感覚を持った作戦計画者なら、期待値どおりにコトが運んだ場合だけでなく、期待が外れて最悪の事態になった場合に備えた計画も一緒に用意しておくもの。よしんば、当初にいろいろとムシのいい期待をしていたとしても、それが崩れたから、即・戦争の泥沼化と考えるのは、それこそお調子者のすることではなかろうか。どんな戦場にでも、クラウゼウィッツがいうところの "摩擦" はあるものだ。
だが、実際にはそういう調子のいい考えをする人が少なくないわけで、それを計算に入れた上で世界を相手に迫真の大芝居を打ち、イラク首脳部を根こそぎ騙したのだとすると、アメリカ恐るべし。

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