Opinion : 軍事情勢から世界が見える (2003/5/6)
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ひとつの手法だけですべてが見える、というのはおこがましいが、国際社会のパワーゲームでは政治・経済・軍事が相互に密接な関係を持っているから、軍事情勢に関するニュースを見聞きしていると、いろいろと興味深い話が見えてくる。そんな観点から、「今週の JDW 誌より」みたいなニュース記事を眺めてみると、また面白いかもしれない。
分かりやすい例では、「武器輸出」がある。「武器輸出」というと、たちまち「死の商人だ」とかなんとかいって文句をいう人が多いし、実際、人殺しの道具であるのは事実。ただ、どこの国がどこに国に何を輸出しているかで、国と国との関係を推し量ることができる、比較的分かりやすい指標でもある。
たとえば、アメリカが CEC (Co-operative Engagement Capability) というものを開発している。早期警戒機や艦船のセンサー情報を統合し、個別の艦艇がバラバラに戦闘するのではなくて、ネットワーク化されて一緒に戦闘行動をとるもので、たとえば複数のイージス艦が連係プレイできる。弾道ミサイル迎撃に効果が期待されている新兵器で、いわば "Network Centric Warfare" のはしりみたいなものだ。
この CEC は、アメリカ以外では唯一、イギリスにしか輸出されていない。正確には輸出が決まった段階だが、どっちにしても、虎の子の CEC を、そうホイホイと、どこにでも輸出するつもりはないらしい。
イギリスにしか輸出されていない兵器というと、他にもポラリス SLBM やトライデント SLBM、トマホーク巡航ミサイルなどがある。JSF でレベル 1 パートナーになっているのも (ハリアーの後継機が要るという事情はあるにせよ) イギリスだけだ。これだけ見ても、政治面だけでなく軍事面でも、アメリカがイギリスを相当に重視していることが分かる。
それと比べると、AIM-120 AMRAAM 空対空ミサイルや F-16 戦闘機なんかは、かなり広範に輸出されている。それでも、AMRAAM の購入を希望した一部の東南アジア諸国のように、戦時までミサイルはアメリカ国内に留め置く、なんて条件を出されたケースもあるわけで、こうした付帯条件の有無で、アメリカが当地の軍事情勢をどう考えているかが読める。微妙なバランスを保ちたいときに、高性能の AMRAAM を売り込んでバランスを崩すようなことはしたくないわけだ。
F-16 にも、当初、エンジンを F100 から低性能の J79 に替えたモデル (F-16/79) が輸出用に用意されたものの、結局、誰も買わなくて「幻のモデル」と化してしまった過去がある。
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台湾に対して、イージス艦を売るの売らないのとやっているのも、同じ一例。艦対艦レベルで考えたら、ソブレメンヌイ級に対してバランスがいいのは、やはりキッド級で、アーレイ・バーク級ではない。弾道ミサイル迎撃を考えればイージス艦しかないのは自明の理だが。
また、完成品を輸出するか、ライセンス生産を認めるか、それとも一部の部品の生産に参画させるか、どの程度まで技術移転を行うか、といった点も、輸出側が、非輸出側の国をどの程度重要と位置付けているかを知る、いい指標になる。そういう意味では、F-15 のライセンス生産を認められている日本など、比較的、優遇されている部類といえるだろう。(もっとも、中国のように、無許可で M16 ライフルのデッドコピーを作る国もあるが)
新品だけではない。最近、新品の装備が高いのと「丈夫で長持ち」する製品が増えていることから、過去に購入した装備をアップグレード改修して食い延ばすのが、陸海空の全分野で流行っている。そんな中で、れっきとしたイスラム国家であるトルコの F-4 ファントムや M60 戦車を近代化改修しているのがどこの国の会社かというと、なんとイスラエルだ。
宗教的な面だけ見れば、トルコとイスラエルは「敵同士」になってもおかしくないのだが、実際には妙に仲がいい。多分、間にシリアという「共通の敵」を挟んでいるせいもあろうが、面白いものだ。
そのトルコは、イスラエルの仇敵であった (もうフセインが失脚したので過去形で書く) イラクとは、クルド人を独立させたくないという点で利害が一致しているのだから、ますますややこしい。
また、中古の戦闘機や戦車、艦艇を輸出する際にも、やはり輸出先は選ばれる。アメリカは中古のノックス級フリゲートやペリー級ミサイル・フリゲート、アダムス級ミサイル駆逐艦をあちこちの国に輸出したりリースしたりしているが、エーゲ海を挟んでトロイア戦争以来の怨念を引きずる (?) トルコとギリシアの両方に艦艇を引き渡しているあたり、なかなか気を使っている。ちなみに、この両国とも F-16 カスタマーだ。
他にも、2 つの国が軍事協力合意を結んだとか、どこかの国の軍人が別の国で訓練を受けているとか、そういう類の話も、国家間の関係を知る指標になる。こうした情勢を調べるだけで、どの国がどの国を重視しているとか、どの地域に関心を持っているか、とかいうことが分かってくる。
そういう観点から、平素から軍事関連のニュースを丹念に読んでいると、知らず知らずのうちに眼力が養われて、国際情勢を読み誤ったり、「イラク軍が勝つ」と発言してボケをかましたりする事態を避けられると思う。見識というのは、一朝一夕には身に付かないものだ。自戒を込めて。
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