Opinion : "ミニ空母" で四苦八苦してみて感じたこと (2003/7/14)
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先週の JDW 誌に、オーストラリアの Incat 社が、同社のウェーブピアサーをベースにした航空機搭載艦を提案したという記事が出ていた。といっても、アドバルーンを上げただけで、実際にどこかの海軍が採用したという話ではない。
ただ、吃水が浅いから沿岸水域での作戦にも向くし、なんか面白そうな企画だと思った。そこで自分なりにいろいろと、この種の "ミニ空母" の内容について考えてみた。
ベースになった Incat 社のウェーブピアサーには全長の違いによって複数のモデルがあるが、おそらく最大サイズの 112m 型と思われる。これはもともとフェリーとして使われているもので、JDW の記事によると、車両甲板の後ろ 2/3 ぐらいをを 2 層ぶち抜きの格納庫にして、前方に居住区などを設けているらしい。
そこで、Incat の Web をあたってみたら、JDW に載っていたものとは異なる、112m 型ウェーブピアサーをベースにした軍用バージョンの提案が載っていたので、JPEG 画像になっていた図面をダウンロードして印刷した。(問題の画像はこちらにある)
ダウンロードした図面はヘリを運用する強襲揚陸型 (?) だったので、後部をヘリ甲板にして前部には上部構造があり、そこに CIC や人員収容スペースを設けている。しかし、STOVL 型 F-35 を運用する "ミニ空母" となると、完全に "flat top" にしないと具合が悪い。JDW に載っていた記事でもそうなっていて、さらに艦首には、お約束のスキージャンプがあった。これは動かせない。
JDW の記事では、F-35×4 機、X-47 と思われる UCAV×2 機、そしてヘリを 2 機搭載していた。ただ、現時点で UCAV がどれくらい "使える" かどうか分からないので、とりあえず UCAV のことは考えないことにして、F-35 とヘリ (MH-60S あたりか) を 4 機ずつ載せる、と考えた。
全体のレイアウトは Incat のものと揃えて、"flat top" 化した上甲板の右側に小さなアイランドを設置し、ここにセンサーや自衛兵装を載せる。上甲板の中央から左舷にかけてと後部は飛行甲板に明け渡す。自衛兵装は、対水上射撃ができるファランクス・ブロック 1B と RAM を 1 基ずつ、というのがいいところか。
本当は 76mm 砲や長射程の SSM も欲しいけれど、それは多分、スペースと重量を考えると難しい。
ただ、冷静に考えると、F-35 を 4 機搭載しているといっても、常に 4 機が全力出撃できるとは思えない。整備も必要だし、戦闘で損傷する機体も出る。そう考えると、常に出撃できるのは 1-2 機がいいところ。これでいったい何ができる ? と、いきなりスタート点で躓いてしまった (爆笑)。
しかも、サイズを考えると自衛兵装が貧弱にならざるを得ないから、自分の身を護ることも考えなければならない。ヘタをすると、防空に全部の艦載機を食われて、ストライク・ミッション用の機体が残らない、なんてことになりかねない。
Incat では、「大型空母なら 1 隻にすべての航空機を載せるが、うちの構想なら複数の艦に航空機を分散できる」といっているそうなので、つまりは「ひとつのバスケットにすべての卵を入れない」という発想なのだと思う。1 隻で単独行動するのではなくて、複数の航空機搭載ウェーブピアサーがチームを組んで行動するわけだ。
仮に 4 隻集まれば、半個飛行隊に相当する 6-8 機程度の出撃は常時可能になると考えられる。とはいえ、これでできることは限られているような気がする。
ヘリの方は、対潜哨戒や対艦攻撃、特殊部隊の潜入/回収など、いろいろ使い方が考えられるけれども、意外と F-35 の方が使い道に困る。まとまった数があれば、制空や対地攻撃の役にも立つだろうが、たかだか 6-8 機の F-35 で国をひとつ潰すわけにもいくまい。アフガニスタンに対する爆撃でも、もっと多くの航空資産を使っている。
といっても、"from the sea" なことを考えるからこういう袋小路に入るので、日本みたいに専守防衛海軍で母港も近いケースを考えれば、また状況は変わるかもしれない。もっとも、それはそれで、わざわざ空母を用意しなくても、不沈空母たる陸上基地から飛行機を飛ばせばいい、という話になってしまうが…
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あと、整備補給の問題がある。格納庫スペースが限られているから、米海軍のスーパー・キャリアーでやっているような本格的な整備は難しい。"ミニ空母" では、少なくとも機体をばらさなければならないような整備は不可能で、列線レベルの整備しかできない可能性が高い。これでは長期間の戦闘行動はできない。
もっと頭痛がするのが補給の問題。艦が小さければ、搭載できる弾薬や燃料も限られるからだ。
特に燃料の問題は深刻で、1 機が 1 回の出撃で 4t の燃料を消費するとした場合、1 日に 2 回の出撃を 2 機で行うと、毎日 16t、一週間で 112t の燃料を食う。弾薬は 1 回の出撃で 2.5t ずつ (2,000lb 爆弾と AMRAAM を 2 発ずつ、さらに少し上乗せした概算) と考えると、両者を合わせた一週間分の補給品は 182t となる。糧食やスペアパーツなどを追加すると、必要な補給品はもっと増える。
仮にこれだけの搭載が可能としても、一週間作戦したら後方に引き返して補給しなければならない。補給拠点までの往復と補給作業に一週間かけた場合、常に一週間単位でオン・ステーションさせるとすると、オン・ステーションさせる数の 2 倍の艦が必要になる。つまり、4 隻で 1 チームなら、実際には 8 隻の艦が要る。これは大変だ。
こんな感じでいろいろ思案した結果、この種の小型艦は、大型空母のように単独ですべてを完結させる訳には行かないのではないかと考えた。
つまり、潜水艦に「潜水母艦」があるように、艦載機のメンテナンスや燃料・武器・弾薬・糧食・スペアパーツなどの補給を担当する "ミニ空母母艦" (そもそも "空母" という単語が "航空母艦" の略だから、"航空母艦母艦" となる。なんだこりゃ) を随伴させ、戦闘地域の後方で常に待機させておくわけだ。
そして、定期的に母艦と会同して、整備が必要な艦載機と入れ替わりに整備済みの機体を受け取るようにしたり、補給品を受け取ったり、乗組員が休養を取ったりする。多分、この "ミニ空母母艦" の方は本格的な軍艦並みの構造にする必要はなくて、商船規格で、大型の貨物船やタンカーをベースにすればよいと思う。
ひょっとすると、ミサイル原潜みたいに乗組員を 2 組用意する必要があるだろうか ?
というわけで、ちょっとした脳内妄想を楽しんでいるところなのだが、いろいろ思案してみてつくづく実感したのは、軍艦や航空機といった "飛び道具" を揃えるだけでは戦争はできないということだ。その "飛び道具" をしかるべく機能させるための仕掛けの方が、よほど手間がかかるし、考えなければならないことも多い。
しかも、先の算数で分かるように、小型艦だから経済的なんてことは全然なくて、発進できる航空機の数の割にはカネがかかることにもなりかねない。
小型で重武装の航空機搭載艦が、敵地に単独で乗り込んで暴れまわるというシナリオは、架空戦記のネタとしては面白い。だが、実際にそれを実現しようとすると、先に書いたようにボトルネックがいっぱいできてしまう。
われわれ軍ヲタは、ついつい戦車や戦闘機、ミサイルなどの正面装備の (仕様上の) 優劣だけで軍事力を考えてしまうが、やはり後方能力や運用上の問題は無視できないぞということを、一連の脳内妄想を通じて再認識した次第なのであった。「夢がないなあ」といわれそうだが、現実はえてしてそんなものらしい。
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