Opinion : 新幹線の対中輸出は不要 (2003/8/4)
 

国土交通省が、中国に対する新幹線技術の輸出に御執心らしい。韓国ではフランスの TGV に負けているが、台湾では日本の案が採用されたので「一勝一敗」となり、中国で新幹線が採用されれば「勝ち越し」ということになるのだが、個人的には中国に新幹線を輸出するという話、あまり乗り気になれない。

W 杯サッカーでも TRON でも何でも、「日本製品が世界に版図を広げる」という話は一般受けしやすいし、「プロジェクト X」のネタにもなりやすい。手っ取り早く安直な「にわかナショナリズム」を煽るには具合のいいネタなのだが、長期的に見て得策な話かというと、こと相手が中国の場合、疑問に思えてならないのだ。


そもそも、中国の製造業というのは、往々にして海外製品のパチモン製造に走る傾向がある。残念なことだが、事実だ。現に、さまざまな日本製品のブランド名をパクったニセモノが製造されている件に関する騒動は後を絶たない。しかも、それらはたいていの場合、オリジナルとは似ても似つかない粗悪品であったりするわけだ。

たまたま、個人的興味から中国の兵器産業がらみのニュースを目にする機会が多いが、この業界ときたら、まさにパチモン量産大会の様相を呈している。もともと中国製の兵器には旧ソ聯製の兵器を独自に改良した製品が多いのだが、最近では輸入した欧米の製品をベースにして、あるいはまったく新規に外見だけ真似たパチモンを作るケースもあるようだ。

たとえば、オランダ製のゴールキーパー CIWS にそっくりの CIWS (レーダーや機関砲の外見や配置が、まるでそっくりなのだ) を開発中というニュースが、しばらく前の JDW 誌に載っていたのを見て唖然としたことがある。
また、「ステルス戦闘機を開発中」というニュースも出たことがある。掲載されていた写真に映っていた風洞実験用の模型は、なるほど、外見こそ F-22 や F-35 風に前縁後退角を揃えて全体を平滑化し、側面に傾斜角をつけた格好をしている。しかし、本当に F-22 並みのステルス性を備えているかどうかは、実際に電波を当てて見なければ分からない。

大物では、水上戦闘艦の世界でも事情は似たりよったりといえる。以前、中国がタイに安価に軍艦を輸出したら使い物にならず、増備分ではドンガラだけ中国で作らせて、ウェポン・システムは欧米製のものを輸入したというエピソードがあるが、そんな実績しかない中国が、いつのまにやらフェーズド・アレイ・レーダーを装備した防空駆逐艦や、フラットで傾斜した上構を備えた "ステルス" フリゲートを建造している。なるほど、外見は御立派だが、中身の方はコンバット・プルーブンではないから、知らない。
他にも、M16A1 ライフルのデッドコピー・CQ M311 など、似たような例は枚挙にいとまがない。

もっと始末が悪いのは、フェーズド・アレイ・レーダーを備えているというだけで「中国のイージス艦」と勘違いしてしまう人が後を絶たないこと。「イージス艦 = フェーズド・アレイ・レーダー」ではないのだが、外見だけで判断してしまうという点では、実は日本人もいい勝負なのかもしれない。巷間いわれる「ミニ・イージス」という言葉にいたっては、もはや意味不明である。


というわけで、話が新幹線から脱線 (苦笑) してしまったが、何をいいたいのかというと、兵器やその他の世界で盛大にパチモンを製造している国に新幹線を輸出した結果が「中国による新幹線のパチモン製造」につながるのではないかという懸念を、個人的にはどうしても払拭できないということだ。

新幹線は、車両と線路と駅をこしらえれば完成する、という単純な物ではないハズだ。高速列車の高頻度運転を正確に、それも災害が決して少なくない国土で 40 年近くに渡って実行して、その間に事故で乗客を死なせた経験が皆無という実績がある。これは、ハードウェアだけでなく、それを運用するノウハウや組織作り、要員の教育など、さまざまな構成要素を「システム」として機能させている点に、大きく依存しているハズだ。これらは、外見だけ真似しても手に入らない。

その「システム」の習得をあやふやにしたままで、外見だけ新幹線そっくりのパチモンを作ったところで、新幹線並みの輝かしい実績を挙げられるとは考えられない。それでいて、もし何かの不具合、最悪の場合は事故が発生するようなことになれば、「だから新幹線は云々」と文句をいわれるのは目に見えている。これを「仏造って魂入れず」という。
挙句、そのパチモンを自国内だけで使うならともかく、滅茶苦茶なディスカウント価格で他国に輸出した挙句に不具合頻発、なんてことになれば、新幹線というブランドそのものに、修復不可能な傷がついてしまう。とんだトバッチリだ。

JR 東海の葛西社長が、新幹線の対中輸出に関与しない姿勢を打ち出したのは、こういう見地から考えると、実に賢明だったといえる。国家の基本的な体質というものは一朝一夕には変わらないし、ある業界で示された中国のパチモン製造体質が、別の分野に持ち込まれないと断言するのは難しい。

そう考えると、新幹線の対中輸出が「プロジェクト X 的見栄」以上のものを日本に何一つもたらさないのは明白だから、わざわざ大臣クラスが頭を下げに行ってまで、中国に新幹線を売り込む必要性などない。何事につけ、見境なく国を挙げて売り込むのが大得意なフランスあたりに中国の高速鉄道をやらせてみて、我々はそれを横合いから野次馬になって見物している方が、よほど賢いやり方ではないだろうか。

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