Opinion : "情報家電" に未来はあるのか (2003/8/11)
 

なんだかんだといいつつも、PC 業界ではアメリカの企業が覇権を握っている。そこで、別の分野で日本企業による世界制覇を目論んだのか、経済産業省は「情報家電」なるものに御執心のようだ。ただ、その「情報家電」も、OS をアメリカ製にしたのでは「日の丸製品による世界制覇」の妨げになるので、「情報家電は TRON か Linux にして欲しい」とミエミエの介入をやっているのは既報の通り。

ただ、素朴な疑問なのだが、「情報家電」って流行るんだろうか。


何年か前、どこかの電機メーカーが「インターネット冷蔵庫」なるものを試作したことがあったが、これは冷蔵庫にネット接続機能を追加し、扉に取り付けられた液晶画面で Web アクセスが可能になったものだったと記憶している。他に「インターネット電子レンジ」という試作品もあったかと思うが、これも形態は似たり寄ったりだ。
しかし、電子レンジにしろ冷蔵庫にしろ、試作品が出たのはずいぶんと前の話であったにもかかわらず、未だに商品化される気配がない。

だいたい、「インターネットに接続してレシピを見ることができる」とかいったところで、誰がそんな面倒なことをするだろうか。横に料理の本を 1 冊置けば済む話で、わざわざそれを電子化してネットワーク経由で表示させるなんて、面倒くさくてやる気がしない。

他にも、「エアコンをインターネットに接続して、外から遠隔操作できるようにする」なんていう話が語られたこともあったが、正直な話、そこまでする必要があるかと思う。家に帰る時間が分かっていればタイマーを設定すれば済む話だし、そうでなくても、たかだか 5 分か 10 分も我慢すれば、すぐに部屋は涼しくなる。それをわざわざ、エアコンにネット接続機能を付け加えて遠隔操作できるようにしたところで、コストばかりかかってしまい、費用対効果が悪すぎる。

電話機も「情報家電」の仲間に分類する向きがあるが、その電話機を使って電子メールや HTML コンテンツにアクセスできる「L モード」がどういう事態になっているかは、もはや説明の必要もない。「i モード」は携帯電話をプラットフォームにしているから「出先でのコミュニケーション/暇つぶし/情報収集ツール」としての利用価値があるが、家にいないと利用できず、しかも時間制従量課金の L モードが i モードと同じ成功を収める目は、はなから存在しなかった。

さらに付け加えるならば、「たいていの人は Web とメールぐらいしか利用しないのだから」という口実で、用途を限定したインターネット接続端末、いわゆる「インターネット・アプライアンス」がいろいろと売り出された時期があったが、結局は壊滅状態に終わった。「ゆくゆくは家庭内の情報端末に」とかなんとかいわれていたはずのプレステ 2 や Xbox といったゲーム機も、未だにゲーム機としての使われ方がメインで、「家庭内の情報端末」として使われているとはいいがたい。
嘘だと思ったら考えてみて欲しい。このコラムを御覧になっている読者の皆さん、あるいは皆さんの身辺で、PC を放逐して、ゲーム機で Web やメールを利用している人が、いったい何人いるだろうか ?

これがビデオデッキや HDD レコーダー、DVD レコーダーといった面子だったら、まだ話は分かる。インターネット上で電子化された番組表の情報が提供されていれば、それを利用して番組の予約をイージーにできるから、これは存在価値がある。
だが、ネットワーク化することで明確な利点が得られて、かつ費用対効果の面でも不満が出ないモノは、そうそう多くない。むしろ、TV 録画のように明確な利点が得られる商品の方が、全体から見ると少数派ではないだろうか。

あと、ネットワーク化することで明確な利点がある分野というと、カーナビぐらいだろうか。もっとも、車載機器の情報化・ネットワーク化には移動体通信技術が必須だから、通信コストがリーズナブルな範囲に納まるかどうかが、カーエレクトロニクス製品のネットワーク化が成功するかどうかの分岐点になるハズだ。

話は脱線するが、個人的に実現して欲しいと思っているのは、PC で動作するソフトを使ってプランニングを行い、そのデータをメモリカードに書き込み、それをカーナビにセットすると、即座にクルマがどこへ行くかを理解する、という仕掛け。
カーナビ単独で目的地や経路の指定をするのは、なんか使いにくく感じられる。そこでルートの計画機能を PC に切り出せれば、操作性の面でも、インターネットなどを使った情報収集の面でも利点がある。こうすれば、地図情報やタウン情報を自宅の (相対的に) 高速な回線で入手できるから、最新情報の入手や通信コストの面でも有利だ。
実はこれ、最近の戦闘機が使っている MSS (Mission Support System) と同じ発想。飛行ルートなどの情報を PC でプランニングして DTC (Data Transfer Cartridge) にコピーし、それを戦闘機のコックピットにセットするのと同じことをカーナビでやれたらいいな、と常々思っているのだが、誰か商品化してくれないだろうか。


こうしてみると、経済産業省がフィーチャーしている「情報家電」とは、いったい何なんだろうと思う。さまざまな家電製品のうち、ネット接続機能を付け加えて従来にない新しい世界が拓けて、しかもそれがユーザーに受け入れられそうな製品カテゴリーが、この世の中に、いったい幾つあるだろう。
「PC で世界制覇に失敗した」→「他の分野で挽回したい」→「きっと PC の時代は終わりを告げて、"情報家電" の時代になる」という発想から、しきりに「情報家電」という言葉をフィーチャーしていると思われるのだが、この筋書きが実現するかどうか、これまでの動きを見る限りでは疑問だ。(いや、ひょっとすると、家電製品のネットワーク化を通じて究極の監視社会を作るのが本来の狙いかもしれないが :-)

そもそも、家電製品は費用対効果が重視される分野だから、消費者は無意味な機能になかなかカネを払わない。そういう意味では、趣味性がある PC よりもずっとシビアだ。そんな厳しい消費者が、どれだけ役に立つか意味不明な「ネット家電」なんぞに、カネを払うとは思えない。先に書いたように、ネットワーク化して明快なメリットがある商品分野は限られているのが現実だ。
嘘だと思ったら、ヨドバシカメラの Web にある「家電」の商品カテゴリ一覧 を眺めてみて、情報化・ネットワーク化することで画期的に便利になって嬉しい商品がどれだけあるか、考えてみて欲しい。

そんなわけで、「情報家電」で世界制覇を目論む経済産業省の野望は、かなり高い確率で沈没するのではないかと思うのだが、さて、どうなるだろう。

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