Opinion : 海賊問題を知っていますか (2003/8/25)
 

自爆テロや本格的な戦争と違って、滅多なことではニュースにならない重大問題の一つに、「海賊」がある。この種のニュースが日本のマスコミに登場することは極めて稀で、たまに、よほど他にネタがないときに (?) 出てくる程度だ。

だが、日本が国家として生存するために必要な交易の多くを海上輸送に頼っており、特に石油については中東から船で日本に遠路、運ばれてきている以上、その航海路の途上で問題になっている海賊のことを、無視はできないだろう。

先日、どこかの新聞社のサイトで読んだ記事によると、最近、マラッカ海峡北部、インドネシア寄りの海域で海賊が多いという。それも、刀やピストルなんていう生易しい (いや、それだって十分に生易しくないが) 武装ではなく、自動小銃や機関銃、対戦車ロケットまで持って歩いているらしい。ヘタなテロリストより重武装だ。

戦時なら、護送船団を編成して軍艦が商船の護衛に当たることができる。そもそも、古来、海軍の第一の存在理由は海上交通路を確保することだし、過去の大きな戦争でも、護送船団方式はしばしば採用されている。そして、十分なシーパワーを持てなかったために海上交通路の確保に失敗した国が、往々にして戦争にも負けている。確か、ウィンストン・チャーチルも同じような趣旨のことをいっていたと思う。

ところが、却って平時の方が商船の安全確保が難しい。まさか、平素から効率の悪い船団方式を採るわけには行かないし、商船の武装は禁止行為だから実行不可能。しかし、海賊の方は国際法なんて知ったことではないから、当然ながら入手できる限りの武器で武装してくる。

海賊を「洋上の犯罪行為」と定義するなら、平時における洋上の治安確保は海軍というより海上保安庁みたいなコースト・ガード、あるいは警察組織の仕事かもしれないが、海賊の武装が軍隊並みになりつつある昨今、警察では歯が立たない相手になってきているのかもしれない。テロとはいささか違うが、一般市民の生活を脅かすという点では同じことだから、"global war on terrorism"、あるいは "counter drug warfare" と同様、正規軍が乗り出すべき時期に来ているのかもしれないと思う。


破壊行為自体が目的のアルカイダなんかと違って、たいていの海賊は奪い取ったモノを生活の足しにする、いわば "経済行為" としてやっているのだろうから、奪い取ったモノを売りさばくルートがなければ、海賊業は成り立たない。ただ、J.H. コッブの小説みたいに、誰か強力なスポンサーがいて、それが海賊を組織化しているのかどうかについては、議論の余地があると思う。

それでも、冷戦構造崩壊のトバッチリの一つで、テロリストが携帯式 SAM を入手できるという問題があるのと同様、ブラック・マーケットを通じて高性能の武器が海賊の手に渡りやすくなっているのは事実だろうから、何か手を打たなければならないのは確かではないか。

仮に組織化されておらず、自前の小船で海賊業をやっているのだと仮定すると、たいていの海賊は沖合までは出てこず、陸地に近い水域に出没する可能性が高いと思われる。実際、先のマラッカ海峡北方における海賊騒動でも、海賊が根城にしている可能性が高いと考えられている、スマトラ島北部 (例のアチェ自治州がある一帯だ) に近い水域を航行しないように、という呼びかけがされているという。

とはいっても、東南アジアみたいにたくさんの島嶼が錯綜している場所では、まったく陸地に近付かずに航海するのは難しい。厄介なことに、日本経済を支えている重要なシーレーンが、まさにその海域を通ってきている。このことに対して日本が何も手を打たなくていいものだろうか。

海上自衛隊だけでなんとかしろ、とはいい辛い。戦力やインフラだけでなく、政治的な問題としてもいささか微妙だし、いきなり日本がしゃしゃり出ていったら、現地政府の顔を潰す格好になってしまう。ただ、日本の海自や海保も協力する形で、現地の各国も含めた国際共同の海賊対策を進めるという形なら、実現不可能ではないと思う。まず、シンガポール、マレーシア、インドネシア、それとオーストラリアあたりを焚きつけるわけだ。

なにも、イラクに陸自を送り込むだけが国際貢献ではなくて、こういう形だって「あり」だと思うのだが、どうだろう。「フセイン狩り」や「テロリスト狩り」に比べると、「海賊対策」は地味なように見えるが、経済を支えるシーレーンが脅かされれば、日本という国家の存立そのものが危ぶまれかねない点を忘れてはいけない。

また、商船の武装が国際法の絡みで難しいなら、非殺傷性の飛び道具は使えないだろうか。たとえば、米軍が研究している HPM (High Power Microwave)。HPM とは、電磁波を発して敵兵やテロリストの撃退を行うもので、いわば電子レンジ化するものだ。これなら死人は出ない。相手が気持ち悪くなる程度で、もし誤爆しても、後で謝れば済む (かもしれない)。

最後に挙げた HPM はいささか極論だけれども、要は、日本政府としてオフィシャルに、何か海賊対策に対する大々的なプレゼンスがあってもいいんじゃないですか、と問題提起して、この記事を終わりにしたい。

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