Opinion : 関西の通勤電車が優れていること (2003/9/15)
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クルマの世界ではうるさくいわれるのに、その他の交通機関ではあまり話題にならない分野として、「内装の質感」がある。アルテッツァが出た当初、この点で相当に叩かれたのは、古くからのオーナーなら御存知の話。
ところが、どういうわけか飛行機や鉄道、船舶で「内装の質感」を云々する記事には、滅多にお目にかからない。不思議なものだ。
だが、モノによって質感の差が感じられるようなことがないのかというと、そんなことは絶対にない。その点でトップを行っていると思うのは、やはり京阪神地区、中でも阪急電鉄と JR 西日本だろう。阪急の場合、戦前から今と同じスタイルを通しているという「普遍性の魅力」があり、それが結果として古い車両を古く見せないという効果を生んでいるが、最近では JR 西日本も猛烈にレベルを上げてきている。
それを痛感するのが、大阪を訪れて 207 系や 223 系に乗ったとき。人によって好き嫌いがかなり分かれるようだが、新幹線の 500 系や 700 系 7000 番台 (いわゆるレールスター)、在来線の 681 系みたいなノーブルな内装にも、質感の豊かさと品位を感じる。これらは日本最高水準といってもいいのではないだろうか。
おまけに、線路容量の余裕がなせる業で、特別料金不要の快速電車が最高速度 130km/h で爆走し、下手な特急電車をしのぐ韋駄天ぶりを発揮しているのだからたまらない。こんな魅力的な世界は、そうそうない。
それに引き換え、我が地元の JR 東日本、中でも首都圏の通勤電車は、この点では点が辛い。もちろん、押し寄せる需要をさばくために、安価にまとまった数を作る方が優先されても仕方ない環境ではあるのだが、それにしても、山手線で急速に数を増している E231 系なんかを見ていると、内装も外装も、なんか愛想がない、冷たい感じがしてならないのだ。たとえていえば、「冷めた幕の内弁当」というのだろうか。綺麗だが、なんかヒンヤリしている。
コストの要求が厳しいという点では乗用車の内装だって同じことで、それでも、三菱コルトみたいに厳しいコストの中で質感の高い内装を見せてくれる例もある。JR 東日本の場合、いくら毎年何百両も製造しなければならない事情があるとはいえ、そこで「もうひと頑張り」が欲しいと思ってしまうのだ。大阪を訪れて 207 系や 223 系に乗ってしまうと特に。
必死になって需要を創出しなければならない立場がそうさせるのか、JR 西日本に限らず、JR 北海道や JR 九州も、デザイン部門がなかなか頑張っている。JR 九州の超アバンギャルド路線は、ときには「ついて行けない」と思うこともあるが、JR 北海道ではデンマーク国鉄譲り (?) の、シンプルでセンスのいい内装を見せてくれるのが嬉しい。(初期型 721 系の "すずらん模様" 仕切り壁だけは、派手過ぎてパスしたかったが…)
昔は、デザイン部門が頑張っているというと営団地下鉄だったが、ここも最近、なんかパッとしないような気がする。銀座線の 01 系みたいに「切れ味」が感じられるデザインが、最近は少ないのではないか。どうしちゃったのだろう。
なお、お隣の都営地下鉄は論外。浅草線の 5300 系や三田線の 6300 系なんかを見ていると、どうにかしてくれと思う。
趣味人の見地からいうと、「乗りたくなるような電車」という概念を当てはめた通勤電車は、さしづめオール転換クロスシートということになりそうだが、首都圏でそんな贅沢はいわない。混雑率を下げることだって、立派な快適性だ。ある程度の長距離なら、近鉄の L/C カーみたいにロング/クロス転換式にしてくれると嬉しいのは事実だが、かなりコストがかかるのは確かだから、それは我慢する。
そこまでの無茶はいわないにしても、せめて、なにがしかの「豊かさ」を感じさせるような内装のセンスを見せて欲しいというのが本音だ。その点、最近の首都圏各社の新製車両は、いささか寂しい感が拭えない。もちろん、不景気でコストを掛けられないのは承知しているけれども、そんなときこそ「魅力的な交通機関作り」を地道にやっておかないと、長期的な公共交通機関離れの原因にならないとも限らない。
多分、首都圏の電車しか御存じない方は「通勤電車とはこんなもんだ」という固定観念が染み付いていることと思うが、一度、大阪に出かけてみると世界が変わると思う。派手というより、しっとり落ち着いた雰囲気が関西風味とでもいうのだろうか (もちろん例外もあるが)。個人的には、こちらの方が高い質感を感じるし、好感を持てる。
そんな「関西式の豊かさ」を感じさせる通勤電車が、少しでも首都圏に増えて欲しいと切に願う。それが実現すれば、各社共通設計になって、似たような電車ばかりになっても許すから。
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