Opinion : 人身事故防止 "柵" を ! (2003/9/22)
 

山手線を利用していると、E231 系 500 番台に当たる確率が高くなってきた。もうそろそろ全体の半数を超えるはずで、2 年後には全部入れ替わっている予定だから早いものだ。
先週「冷めた幕の内弁当」などと書いたぐらいで、E231 系そのものに対する個人的な絶対評価は高くないのだが、そんな中で高く評価できるのが、出入口の上に設置された液晶 TV。これのおかげで、リアルタイムの運行情報や、次の停車駅の階段位置が分かるのは助かる。

だいたい、日本の鉄道というと「運行時間の正確さ」が身上だったはずなのに、最近、いろいろな理由でダイヤが乱れる事例が増えているように思える。だからこそ、Web や携帯電話、車内情報表示装置でリアルタイムの運行情報を知りたいと思ってしまうわけだが、ダイヤ乱れの中でも目立つ原因が「人身事故」というやつだ。


「人身事故」というと、ホームにいる乗客に電車が接触したとか、乗客がうっかりして線路に転落して轢かれたとか、そんな状況を想定するが、実際には「飛び込み自殺」だって少なくないだろう。正直、今際の際ぐらいは社会に迷惑をかけないようにしてくれないかと思わなくもないが、それはまた別の次元の問題だから、今回は措いておきたい。

本物の「事故」にも、バリエーションがいろいろある。極端な話では、駆け込み乗車した女性客のショルダーバッグだけが車外に取り残されて (肩紐が長くて細いから、意外とありそうな話だ)、それが通過駅のホームに立っていた乗客をヒットした、なんていう冗談みたいな話を、かなり以前に聞いたことがある。
これはいささか極端な事例としても、うっかり転落事故ぐらいは発生してもおかしくない。特に通勤ラッシュの時間帯には、狭いホームに大量の人があふれることを思えば、よく事故が起きないものだと感心するぐらいだ。

人が線路に転落して轢かれるととんでもない事態になりそうな新幹線では、以前から、通過列車が通るホームに安全柵と自動ドアを設置している。最近では、東海道新幹線東京駅のように、通過列車がなくても柵を設置している場合もあって、これなら転落事故の可能性は大幅に減ぜられる。新幹線以外でも、営団南北線系統のように、ワンマン運転化に合わせてホームドアを設置している事例がある。

転落すると危ないという点では、目の前に 600-750V の電気が流れている第三軌条式の地下鉄など最たるものだと思うが、どういうわけか、この手の地下鉄でホームに柵やドアが設置されている事例は (路線の新旧に関係なく) ほとんど聞かない。妙なものだ。

山手線の新大久保駅で事故があったときに、南北線のようなホームドア設置ができないかという意見が出て、その際に JR 側は確か「既存のホームに追設するのは、ホーム自体の強度の問題があって云々」と回答していたと記憶する。だが、東急目黒線や東海道新幹線東京駅を見る限り、既存のホームに柵を追設した事例もあるわけで、"人身事故" の多い昨今、なんとかならないものかと思う。

といっても、まさか新幹線や南北線のように、列車と連動して開閉するドアをホーム側に設置するのは大変だ。また、編成が多種多様な路線ではドアの位置もバラバラだから、柵の設置位置に困ってしまう。ホーム自体の構造物強度だけでなく、こういう問題もあるわけだ。

だから、いきなり「全駅に転落防止のために柵の設置を義務付ける」というのが現実的でないのは承知しているけれども、ドアの位置が揃っていて設置が容易であるとか、線増や立体化で駅を造り直すとか、そういう都合のいい事情があるところだけでも、ホームに転落防止柵を設置させるようにできないものかと思うわけだ。
最近、いろいろ事情があるのだろうが、ホームに駅員が立っていない駅が多い。ということは、もし何か転落事故などのまずい事態が発生しても発見や対処が遅れる可能性があるわけで、それならむしろ、事前防止の観点から柵を設置する、という考え方もできるわけだ。もちろんコストはかかるが、転落事故の発生に伴って発生する各種の損害を思えば安い。

もっとも、ホーム側にドアがなければ、車両のドア位置に対応する部分だけは「柵無し」にせざるを得ないから、完璧な対策にはならないにしても、何もしないよりはマシ。それに、ある程度の「飛び込み防止」にもなる。まさか、新大久保事故のように「勇敢な乗客に頼る」というわけにも行かないのだから、事後対策より予防の方が大事だ。


これまで、鉄道のホームに柵をいちいち設置しなかったのは、「わざわざそんなことをしなくても、乗客が落ちないように注意していれば」という考え方があったのかもしれない。確かに、しつけのよい乗客だけが利用するのなら、そういう考え方もあるかもしれないが、良くも悪しくも社会の均質性が崩れて多様化の方向に向かっている日本の現状で、その考え方はどうだろう。

それに、「しばしば人身事故で電車が止まる」ということになれば、鉄道そのものが輸送システムとしての信頼性を失うことにもなりかねない。実は個人的にも、(以前はそんなことはしなかったのだが) 最近では外出前に必ず、Web で運行情報を確認する習慣がついてしまった。哀しいことだが、一種の不信の現れというわけだ。これでは先が思いやられる。

「踏切事故をなくす最良の方法は、踏切をなくすことである」という鉄建公団か誰かの人の発言を紹介していたのは、確か、故・宮脇俊三氏だった。そのデンでいけば、転落事故や人身事故を防ぐには、転落しないように物理的な対策を講じるしかない。物理法則を持ち出すまでもなく、生身の人間が数百トンの物体と喧嘩して、勝てるはずがないのだから。

いきなり全部とはいわないにしても、できるところだけでも駅のホームに転落防止柵の設置を進めてもらいたいものだと、最近、切に願っている。

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