Opinion : "ムードに流されやすいお国柄" を考える (2003/10/6)
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最近、「米泥棒」が多いようだ。というか、正確には「米泥棒」のニュースがマスコミの話題になることが多い、というべきか。
どうして、こんな回りくどい書き方をするかといえば、マスコミの話題になる頻度と、実際の事件や話題の発生頻度が、必ずしも比例しているとは限らないからだ。それでも、冷夏による米の不作は紛れもない事実だから、「米泥棒」が発生する原因は間違いなく存在している。
先日、2 週続けて、仕事で盛岡に出張した。仕事をたんまり抱えていたので、行き帰りの新幹線の車中でも、ホテルの部屋でも、仕事漬けになっていた。それでも、新聞や TV のニュースぐらいは見るし、東北といえば米どころが多い地域だから、米の不作が何かと話題になっている様子は伺える。
もっとも、作柄の指数だけ見れば、とんでもない大冷夏に見舞われた 1993 年より数字は良いし、関係者がまともな脳味噌を持ち合わせていれば、10 年前の経験を生かして、何か対策を考えていてもおかしくない。
だから、この時点で慌てて「米がなくなる」とパニックを起こすのは時期尚早ではないかと思う。パニックに見舞われて米の買い占めに走る人が増えれば、それに便乗して一儲けを企む輩が必ず出てくるし、報じられている「米泥棒」も、そうした動きを先行実施した一例といえるのだろう。いってみれば銀行の取り付け騒ぎのようなもので、実態はどうあれ、「危ないらしい」という噂が噂を呼んで、本来は危なくなかったはずのものまで危なくしてしまうというわけだ。
1993-1994 年にかけての米不足もそうだが、第一次石油ショックの際にトイレットペーパーなどが店頭から消滅した騒ぎというものもあった。あの頃、自分はまだ小学校低学年だったから、トイレットペーパー騒ぎについてはよく覚えていないが、平素はマイカー通勤していた父親が、このときだけはバスで通勤していたのはよく覚えている。
今にして思えば、このときのトイレットペーパーやガソリンの不足でも、10 年前の米不足騒ぎでも、いったいどこまでが本物の品不足で、どこまでがパニックによって誘発された品不足だったのか、いささか怪しく思えてくる。店頭の棚がカラッポになっている裏で、商品を買い占めておいて高く売り出し、ウハウハな思いをしていた人がいてもおかしくない。
多分、最近になって米泥棒を企んでいる連中も、考えていることはそれだろう。まさか、盗んだ米を北朝鮮に支援米として送っているわけでもあるまい。
いちいち「日本人が」とひとくくりにするのは危険だが、一般論として、この国では自分で判断することよりも、口コミやマスコミなどの情報に踊らされる傾向が強いように思える。古くは関東大震災のときに発生した「朝鮮人暴動騒ぎ」があったし、一連の品不足パニックにしてもしかり。何か、一つのムードに流れ始めると歯止めが効かなくなる傾向が強いのではなかろうか。
始末が悪いことに、2000 年問題の際に実際にあったように、事前にさんざん「大変だ、大変だ」と騒ぎを煽っておいて、いざ年をまたいでみたら何も起こらず、そうなってみたら過去に煽っていた経緯については知らん顔、というニュース番組まである。どこの局とはいわないが、あの煽り番組を真に受けて井戸端会議の話題にした人が、何千人かいてもおかしくなかったはずだ。
今、日本の朝野では「対テロ戦争」を名目にしてドンパチを繰り広げるアメリカや、それを支持するアメリカ国内のムードのことをしたり顔に非難する人が少なくないけれども、はたして日本人が他人のことをいえた義理だろうか。実はアメリカ以上にムードに流されやすいこの国のこと、今のアメリカと同じ立場に立たされたら、もっと激しくムードに流されて好戦的になりはしないだろうか。
しばしば書いていることだけれども、現に太平洋戦争の戦中戦後で、ムードの変化に合わせてコロッと態度を変えている実例がある。開戦直後、戦捷のニュースが相次いでいるときには提灯行列なんかやって喜んでいたくせに、いったん負けが込んできて、国中焼け野原にされて戦争に負けた途端に「戦争は悲惨だから止めましょう」ときた。そんな調子のいい話があるか。
米不足・トイレットペーパー不足・戦争に対する態度と、ネタはいろいろ違うけれども、根底の部分に共通するのは、自分で考えるということをせず、ムードに流されてしまう国民性は変わっていない、というところ。ちょうど米不足がささやかれている時期だからこそ、改めて指摘してみたい。また 10 年前と同じ騒動を繰り返せば、この国の社会が、まるで進歩していないということの証明になってしまう。
ちなみに、10 年前に自分が何をしていたかを思い起こしてみると、確か、オーストラリアだかカリフォルニアだかの輸入米を近所のスーパーで見つけて買い、麺類で食い延ばすことで米の消費を抑えつつ、なんとか乗り切った記憶がある。今回、同じ事態になるかどうかは分からないが、パニック的買いだめ以外の、もうちょっとマシな対応をとるように心がけたいものだと思う。幸い、「米を食わないとパワーが出ない」という訳でもないし、そもそも 10 年前と比べると、大幅に食が細くなっている。
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