Opinion : 見た目の激安に惑わされない (2003/10/13)
 

日本経済を指して「デフレ」という言葉が使われるようになって、かなり時間が経った。確かに、モノの値段が下がったケースは少なくないし、それと歩調を合わせるように (?)、給与が減少傾向にあるという話も耳にする。

で、経済ニュースなんかでは「デフレスパイラル」だの「デフレ対策が必要」だのという言葉が踊っているが、一方で夕方の主婦向けニュース番組などでは「激安特集」が幅を利かせているのだから、妙なものだ。根本的には、激安特集はデフレスパイラルを煽っていることになるはずだが。

もちろん、これまでは不当に高い価格がつけられていたものが、何らかの事情によって安価になったのであれば、それは歓迎されるべき部分もある。特に日本では、不動産をはじめとして、今までは高すぎたとしかいいようがないものが、いろいろある。
しかし、工業製品でもサービスでも、もともと競争が激しく、できるだけ価格を切り詰めようと努力を続けてきていたものが、突発的に「激安商品」が参入してきたとなると、そうそう手放しでは喜べない部分もあるのではなかろうか。


資本主義経済の基本原理としては、モノやサービスの値段は「原価 + 適正利潤」で決まる。ということは、ライバルを蹴散らすような激安商品を出現させようと思ったら、利益を削るか、原価を削るしかない。単品あたりの利益を削った場合、数を売らないとトータルの利益が減ってしまうから、価格低下によってどれだけ需要を喚起できるかどうかが鍵になる。
その点で不毛だったのが、コンマ 1 円単位の単価引き下げ競争を展開した「マイライン」争奪戦だろう。分あたりの通話料がコンマ 1 円下がったからといって、トータルでどれだけ得になっただろうか。挙句、IP 電話の登場で業界全体が地殻変動を起こしかけており、「マイライン」競争は意味不明の空騒ぎになってしまった。

それに対し、原価を削る方はいろいろと可能性が考えられる。安価な入手ルートを確保して原材料費を削る、機械化や製造地の移転によって人件費を削る、といったあたりが王道だが、場合によっては材料や製造過程で手抜きをするケースだってあるだろう。

オープンソース ソフトウェアのように、もともと儲けを目的とせずに開発されたものなら、原価がかかっていないのだから、その分だけコストダウンできるのは当たり前の話だが、それはあくまで何某かの還元が開発者にもたらされてこそ成り立つバランスで、某製品のように「オープンソースにタダ乗りしておいて何の還元もしない」のでは、このバランスが破綻しかねない。
それに、オープンソースが成り立つのは、優秀な開発者が本業とメシの種を別に持っていて、ソフトウェア開発を商売っ気抜きでできるからだ。つまり、見方を変えれば、その開発者の本業の方で、誰かが開発経費を間接的に負担している、ということもいえる。

この関係は、民放の TV やラジオをタダで視聴できるのと似ている。見かけの上では CM と引き換えにタダで視聴しているとしか見えないが、番組制作経費や放送局のオペレーション コストは広告費で賄われるのだから、結果的にはスポンサーの広告費、つまり商品の価格に間接的に転嫁されている。それを消費者が負担することでバランスが成り立っている。

そんなわけで、安価、あるいはタダで提供されていると思われるものでも、誰かがどこかで何らかのコストを負担していることに変わりはない。そこのところを忘れて、表面的な値付けだけを見て「激安だ」といって喜ぶのは、いささかお目出度い考えではないか。


ただし、こういう分かりやすい図式が当てはまらないケースもある。ホテルや旅館、鉄道、飛行機、路線バスといった、「利用者があってもなくても一定の経費がかかってしまう」商売がそれだ。空席、あるいは空室で放置しておくぐらいなら、叩き売ってでも空きを埋める方が正しいという考えが、(原則論としては) これらの業界には当てはまる。

スカイマークやエア・ドゥが参入したときに、既存の大手エアラインが、これら新興会社の便の前後にだけディスカウントした価格をぶつけて新顔潰しを目論んだことがあったが、こういう例外については措いておこう。
そういえば、一度、調布から柿生に向かう小田急バスを、160 円の均一運賃で 2 時間ばかり貸し切った (他に誰も乗客がいなかった) という経験をしたことがあるが、これではバス会社としても商売にならない。案の定、しばらく経ってみたら、この路線は無くなってしまった。

その観点からいうと、JR グループについては、まだ物足りないものを感じる。閑散期運賃と繁忙期運賃の差額は僅かなものだし、早朝や深夜の、ガラガラで走るのが明白な新幹線でも値段は基本的に同じだ。もし規制が原因なら規制緩和して、もっと弾力性を持たせてもいいと思う。どうせ乗客が少ないなら叩き売って新規需要を掘り起こす方が、結果的に利益になるのだから。その点では飛行機やホテル業界の方が進んでいる。

ただ、これもあくまで閑散期、あるいは閑散時間帯があるから成り立つ話で、盆や正月に激安運賃が出現することはあり得ない。需要が多ければ値段が上がるのは当然の市場原理だ。自分が、正月は仕方ないが盆休みにはできるだけ動かないようにしている理由は、この「わざわざ高い時期に動くこたあない」という考えによる。


話が散らかってしまったが、最終的に何をいいたいのかというと、表面的な「激安」にだけ舞い上がっていていいの ? という問題提起をしたいのだ。
かつてのソ聯みたいな計画経済社会ならいざ知らず、需要と供給と原価と利潤で値付けが動く自由主義経済の下では、安いのには安いなりの理由があるのだから、その理由を見極めないと、カスを掴まされる可能性だってある。それを「安物買いの銭失い」という。

たとえば、イニシャルコストをかけたおかげで手間を省けたから、その分の人件費を考えると結果的に得をするケース、というのも考えられる。反対に、安価な商品に乗り換えたために余分なコストがかかって、トータルで損をする場合だってあり得る。安い商品でも、ケチってはいけないところをケチった商品は「買ってはいけない」が、正しく無駄を省いた商品ならお買い得になるかもしれない。
そういった見極めを正しく行なうことが、消費者の側にも求められるのではなかろうか。単に安い商品だからといって飛びつくのは、決して賢い行動とは限らない。要は、カネをかけるべきところとそうでないところのメリハリを付ける、ということだろう。

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