Opinion : ネットと選挙運動の関わりを考える (2003/10/20)
 

最初は、道路公団の総裁解任問題について書こうかと思っていたのだが、考え直して、別のネタを書くことにした。

衆議院が解散して総選挙がスタートし、各党の候補者が「お願い」を連呼して回る、毎度恒例の意味不明な風景が見られるようになってきた。正直な話、選挙カーというやつは無意味だから、禁止しても大した害はないと思うのだが、どんなものだろう。

それはそれとして、今回の選挙ではしきりに「マニフェスト」という言葉が出てきている。「政権公約」とかいう意味らしいが、じゃあ今までの「公約」は何だったのか、と突っ込んでみたい。民主党は「マニフェストは従来の公約より "重い" のだ」などといっているが、これは今まで公約を軽んじていたと認めるようなもので、かなり問題がある発言ではなかろうか。

ただ、今回取り上げたいのは、その「マニフェスト」自体の話ではなくて、「マニフェスト」をネットで配布できるようにしようとしてボツになった決定の話だ。


拙著「通信・ネットワーク用語事典」の「e-ジャパン」の項には、こんな記述がある。

2000 年 9 月の臨時国会で、森総理 (当時) が所信表明演説の中で打ち出した IT 国家戦略に冠せられた名称。5 年以内に光ファイバーを用いた高速インターネット網を整備して米国を超える超高速インターネット大国を築き、光ファイバーを用いた超高速インターネット網への集中投資、電子商取引の実現を阻む規制の撤廃と知的財産権などに関する新しいルールの整備、電子政府の推進、人材の育成といった政策を通じて、すべての国民がデジタル情報をネットワーク経由で自由にやり取りできることを目指している。

しばらく前は「韓国は ADSL の普及率が高いのに、日本は駄目だ」といっていたのが、最近では拙宅も含めて ADSL、CATV、FTTH の普及も進んでいるので、「日本は世界一の IT 国家になった」などと発言している人もいるらしい。しかし、その「自称・世界一の IT 国家」で、IT 革命の象徴といっても過言ではないインターネットを利用したマニフェストの配布ひとつもできないと聞くと、なんか、チグハグな感じがしてならない。

私は、何でもネットを使うのは正しくて、それ以外は古臭いと思い込んでいる「ネット原理主義者」ではないから、なにも、選挙運動を全面的にネットに移行しろ、などというつもりはない。ネットを使えない、あるいは使わない人もいるのだから、そちらにも配慮するのは当然の話だ。また、誹謗中傷や spam 的電子メール宣伝を展開する候補者が出現するのでないかといった懸念も理解できる。

ただ、だからといってマニフェストの配布ひとつできないというのも、何か違ってないだろうか。
選挙におけるネットの利用法としては、「政党や候補者が、自身の政策を有権者に対して訴える際のチャネルを増やす」という位置付けが妥当ではないかと思う。マニフェストの配布もそうだし、政策でも党の基本方針でも、無味乾燥な文字だけの内容にとどまらず、Web で Flash でも何でも使ってビジュアルで見せられれば、政治、あるいは選挙に対する理解や関心を高めるのに、少しは効果があるだろう。

もっとも、根本的な問題は「自分ひとりが投票権を行使したところで、どうせ何も変わりっこない」と有権者が無力感に囚われているところにあると思うのだが、それについて書き始めると収拾がつかなくなるので、今回は取り上げないことにする。

だから、「選挙におけるネットの利用」といっても、電子メールを利用した宣伝を認める必要はないし、そもそも今回の衆院選では小選挙区と比例区の組み合わせだから、電子メールを使った大量宣伝など、どだい成り立たない。spam 業者からアドレス一覧を買って宣伝メールをばら撒いたところで、大多数が自分の選挙区以外のところに届くのがオチだ。
また、誹謗中傷の問題にしても、いまどき衆院選を戦うようなメジャーな政党なら、みんな自前の Web サーバとドメインぐらい持っているのだから、「候補者はそれぞれ、自分の政策を訴える Web サイトを、自分の党のサーバに置く」とする方法もある。これなら ISP の借り物サーバと違って出自が明白だから、そうそういい加減なことは書けなくなる。

もちろん、制約を課しても抜け穴を考える輩が出てこないとも限らないが、どんな道具でも、要は使い方の問題なのだから、問題の少なそうなところからネット利用を解禁してもバチは当たらないのではないか。その点で、マニフェストの配布というのは絶好のテストケースになり得ると思ったのだが、それが実現しなかったのは残念なことだ。


そもそも、住民基本台帳のネットワーク化や電子政府の推進はオーケーなのに、選挙でネットを活用するのは禁止というのでは、いったいどこが「世界有数の IT 大国」なのかといいたくなる。IT 大国とは、ブロードバンド・サービスが多くのユーザーを得ている国のことをいうのではない。行政、ビジネス、日常生活などさまざまな局面で、IT を上手に利用するのが本来の IT 大国ではないか。
何かと話題の「電子政府」にしても、政府の業務を電子化・ネットワーク化するのが目的ではない。それはあくまで手段であって、最終的なゴールは、電子化によって高い品質の行政サービスを効率的に提供し、コストの引き下げと国民の利便性向上を両立させることではないのか。

そういう基本的なコンセプトを置き去りにして、ブロードバンド・サービスの普及率なんぞで「IT 大国度」を図るのは、とどのつまり「ハコモノ行政」的思想が形を変えただけに過ぎない。「高速道路」ではウケが悪いから「ブロードバンド」に看板を架け替えただけ、というのが、目下のところの「e-ジャパン」の実態ではないかと思える。本来重視されるべき「アプリケーション」の部分を置き去りにしている意識が、今回の「マニフェスト配布」をめぐるやり取りに表れているといったら、いい過ぎだろうか。

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