Opinion : 丸の内シャトルに見た未来 (2003/10/27)
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先日、所用で外出したついでに、有楽町から丸ビル前まで、「丸の内シャトル」に乗った。周辺地域の企業がおカネを出して無料巡回シャトルバスを運行するというだけでも珍しいが、もっと興味深いのは、使われているバス。「電気バス」ともいわれるが、正確にはマイクロガスタービンで発電した電気をバッテリーに溜め込んでおいて、それを使ってモーターで走るのだそうだ。
まだ値段の問題もあるだろうから、この種の車両がそうそう簡単に普及するかというと疑問符もつくが、この「丸の内シャトル」に乗ってみたら、なんとなく「未来」を見た気がした。
ガスタービンは、艦艇、特に静粛性を要求される対潜艦艇で多用されていることでわかるように、(ディーゼルと比較すれば) 静粛性に優れるとされる。それに、「丸の内シャトル」の方式ではガスタービンで直接タイヤを回すわけではないから、発電機は常に、最適な効率を発揮する一定の回転で回していればよい。一般に、動力源と実際の駆動装置の間に介在する要素が増えれば効率が低下するが、考え方によっては、意外と「ガスタービン + EV」という構成は効率がいいのではないか、という気もする。具体的な数字データを見てみたいところだ。
この種の構成をどこかで聞いたことがあると思ったら、なんのことはない、この種の仕掛けはすでに、海の上では大流行している。クルーズ客船がディーゼル・エレクトリック推進からアジポッドのようなポッド推進に発展しただけでなく、軍艦の世界でも統合電気推進が脚光を浴びている。つまり、今までは主機と発電機が分かれていたのをやめて、ディーゼル、あるいはガスタービンの発電機だけを複数設置し、そこで起こした電力を推進用とその他の用途に一緒くたに提供するわけだ。
もっとも、客船では経済性の追及、艦艇では増大する一方の電力消費に対する対応策、と主たる動機は違うが、長い推進軸を必要としない、主機の配置場所が自由になることによるスペース効率の良さ、といったメリットは共通するし、電力消費が増えているのは軍艦でも客船でも同じこと。これから、この方式が軍民ともに主流になるのではないかと思わせるものがある。
よく考えたら、電力消費の比率が増えている (電気製品が増えている) という点では、自動車も似たり寄ったりだ。空調もそうだし、テレマティクスだカーナビだと IT 化が進めば、これまた電気製品の数が増える。バスの話で始めたからバスを引き合いに出すと、バスのエアコンでは駆動用エンジンと別にコンプレッサー駆動用のサブエンジンを搭載する例がある。十分な電力を供給できるのであれば、走行動力源だけでなく、エアコンも電動化してしまえ、という考え方だって成り立つかもしれない。バス版の統合電気推進だ。
鉄道の世界でも、JR 北海道が開発を表明した「ハイブリッド気動車」がある。これは艦艇式のいいかたをすれば統合電気推進そのもので、ディーゼル・エンジンで発電して駆動用のモーターを回すそうだ。昔は電気式ディーゼル機関車 (例 : DF50) や電気式気動車 (例 : キハ 44000/44100/44200) というと効率が悪いものの代表例みたいにいわれていたが、パワーエレクトロニクスの発達などで雲行きが変わってきた。すでに機関車では JR 貨物の DF200 で電気式が復活している。
あと、船には難しく鉄道や自動車には可能な芸当に、電力回生ブレーキがある。駆動用モーターを発電機代わりに使えるので、減速時に回生電力をバッテリに充電すれば、発電機を補う役に立つ。こうなると、意外と電気推進のメリットは馬鹿にできない。
最近、ディーゼル車に対する風当たりが強いが、その最大の要因は黒煙問題だ。もちろん、使用している軽油の品質も絡んでくるので「ディーゼル = 黒煙」と断言するのは早計だが、それにしても、バスでもトラックでも気動車でも、みんな煙で煤けているのは勘弁してほしいと思う。
よく、高速道路などで黒煙を濛々と撒き散らして走っているトラックや RV 車を見かけるが、観察してみると、常に黒煙を吐いているわけでもないようだ。ギヤを変えたり加速したりと、エンジンの回転に変動が生じた際に、一気に「モワッ」と黒煙を吐いているケースが少なくない。
「丸の内シャトル」みたいにガスタービンを使えば、静粛性の面でも燃焼制御の面でも有利だが、ひょっとすると電気推進の発電機にディーゼルを使っても、この黒煙問題の解消に役立つのではなかろうか。先に書いたように、電気駆動なら発電用の主機は常に一定の回転数で回っておればよいので、回転の変動そのものが発生しないからだ。
実のところ、バスに乗っていてもっとも不満を感じるのがディーゼル・エンジンの騒音で、あれが少なくなれば、もっと快適な交通機関になると思っている。自分が夜行バスを苦手としている (という割には、何回も乗っていたりするが…) 主たる原因はエンジンの騒音と振動だが、これは市街地を走る路線バスでも同じこと。その点、「丸の内シャトル」は素晴らしかった。
つまり、理想をいえばガスタービンを使った統合電気推進なのだろうが、暫定的なソリューションとしては、ディーゼルで発電する電気推進というのも「アリ」ではなかろうか。少なくとも、ディーゼルを発電専用にしてしまえば、加減速の度にエンジンが唸ることはないのだから。
ついつい、自動車の世界で省エネルギーとか環境対策とかいったことを考えると「燃料電池」に話が飛ぶが、これが実用的な価格でモノになるには、まだ時間がかかるはず。その点、もっと手近な暫定的ソリューションとして、「丸の内シャトル」でやっているような統合電気推進的な手法が使えるのではないか、と考えている。特に路線バスでは、スピードも大して求められないだろうから。
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