Opinion : 自衛隊の海外派遣で忘れられていること (2003/11/17)
 

イラクに自衛隊を出す、出さないという議論が、ここ半年ぐらい続いている。正直な話、出すにしろ出さないにしろ、こんなに意思決定が遅いのでは話にならないと思う。
そもそも、自衛隊を出すかどうかというのはイラクの再建に日本がどうコミットするかという話の一端に過ぎないのに、そういう大局的見地からの議論はすっぽりと忘れ去られていて、自衛隊派遣論議が単なる政争の具にされているのは情けない。

それはそれとして、PKO でも何でも、自衛隊を海外に出す際に欠けていると思う話がひとつあるので、今回はそれについて取り上げたい。


ちょうど今、アメリカのラムズフェルド国防長官がアジアを歴訪している。もちろん、日本や韓国の首脳と話をするのが本題なのだが、国防総省のプレスリリースを見ていると、忙しい日程の合間を縫って、沖縄の米軍基地や、第 7 艦隊の旗艦、USS Blue Ridge を訪問したらしい。
この件に限らず、アメリカの大統領や国防長官、統合参謀本部議長あたりが海外に出かけると、現地の米軍部隊を訪問することが非常に多い。湾岸戦争の前には、ブッシュ大統領がサウジアラビアの米軍部隊を訪れて、兵士と一緒に紙の皿で七面鳥を食べていたのを覚えている方も少なくないはずだ。

先週の JDW 誌には、新生イラク軍の兵士が訓練を受けている様子を、ポール・ウォルフォウィッツ国防副長官が視察している様子が写真になって載っていた。現場の兵士と話をしたり飯を食ったりする、というのとは少し違うが、自分で現場に出て行くやり方は高く買いたい。

それに対して、日本の場合はどうだろう。ペルシア湾の掃海部隊に始まり、カンボジア、モザンビーク、ゴラン高原、東ティモールなどなど、自衛隊員が海外に送り出された事例は増えてきている。だが、総理大臣や防衛庁長官、統幕議長あたりが現地を訪れて、実際に任務にあたっている自衛隊員と話をして一緒に飯を食ったことが、いったいどれだけあるだろう ?

自衛隊を海外に出すということは、(朝日新聞なんかは嫌がる言い方かもしれないが) "show the flag"、つまり日本が当地の再建にコミットしているという意思を示すことでもある。海外派遣される自衛隊員は、体を張って、日本の代表選手として仕事をしている存在なのだ。
だからこそ、怪しげな法解釈で出動のための名目をでっち上げて、裏口からコソコソと送り出すようなマネをしてはいけないし、現場の自衛隊員に対して、何の支えもなく現地にぽつねんと放り出された、と思わせるようなことをしてもいけない。

それには、法的根拠をちゃんと整える、衣食住などの設備をちゃんと整える (モザンビークではポルトガル軍に食事を頼ったせいで、ポルトガル料理ばかりで閉口したと聞いている)、といった日常的な施策もさることながら、自衛隊の最高指揮官である内閣総理大臣や防衛庁長官、あるいは統幕議長が実際に現地に出向いて、隊員を激励し、話を聞き、一緒に缶飯を食うことも必要なのではないか。

そうすれば、トップの側は現地情勢に関するナマの情報を耳にすることができるし、今後の海外派遣の参考になりそうな話を聞くこともできる。そして現場にしてみれば、自分たちの任務に対する意味を見出す助けになるハズだ。なにしろ、日本の "代表選手" として送り出すのだから、それに見合った扱いをしても、バチは当たるまい。これだって、一種のオリンピックみたいなものだ。

あるいは、総理大臣や防衛庁長官に限らずとも、外務省の在外公館から人を送り込むという手もある。自衛隊の海外派遣とて外交の一環だし、しかも体を張って危険地帯で仕事をしているのだから、それに対して外務省の人間が出かけていって謝意を表するぐらいのことをしないでどうする。大使館でふんぞり返っているだけが外務省の仕事でもあるまい。

実は会社の仕事でも同じことで、トップが雲上人になってしまったのでは、仕事が順調に進んでいるときはともかく、何かトラブルや危機に見舞われた際に全体がひとつの方向にまとまる妨げになるかもしれない。組織が大きくなってくると、トップがまめに現場を回るのが難しいのは分かるが、日産のカルロス・ゴーン社長みたいに自分の足で販売店を回っている例もあるのだから、あながち不可能な話でもないのでは。


もっとも、過去の歴史的経緯を見てみると、日本ではトップがお飾り的存在で、実務は部下が取り仕切るのが普通、という傾向がある。そうした土壌があるから、お飾りで実権を持たないトップは現場を訪問しないのかもしれないが、果たしてそれだけだろうか。社民・共産あたりが相変わらず「軍靴の響きが」などといって海外派遣に反対しているから、国会でブーブーいわれるのが嫌で現場訪問をしたがらないのではないか、と勘繰ってしまう。
そんな「事なかれ主義」などくそ食らえなのであって、もし本当にそんなことを考えているのだとしたら、最初から海外派遣などといわない方がよろしい。

いささか極論に走ってしまうが、イラクでもどこでも、自衛隊を海外に出すというなら、ぜひともやってほしいことがある。
自衛隊派遣が実施されている期間中に、総理大臣と防衛庁長官と統幕議長は必ず、最低 1 回は現地を訪問して現場の自衛隊員と話をするように義務付けてみたらどうだろう ? 送り出しておいて後は知らん顔、というのでは、いくらなんでも無責任だ。

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