Opinion : 最近のイラク情勢雑感 (2003/11/23)
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イラクで、相変わらず爆弾事件が多発しているらしい。ただ、以前は米軍や国連が狙われていたのが、最近は警察署が狙われる事例が増えている。
事情はどうあれ、警察官は同じイラク人なのだから、イラク人がイラク人をテロで殺しているとなると、テロの目的自体が怪しくなってきて、民衆の支持を失うのではないか、という指摘がある。まったく同感だ。
もっとも、爆弾事件を報じるマスコミの側にとっては、「爆弾事件が起きた」という点が重要らしく、誰が襲われているのかについての言及が乏しい。多分、「イラク情勢が不穏だ = イラクへの自衛隊派遣反対」あるいは「イラク情勢が不穏だ = アメリカのイラク政策は間違っている」といいたいのだろうが、それならストレートにそういえばいいので、わざわざ間接的に「イラク情勢の不安定」ばかり書き立てるのは、なんか卑怯じゃないかとも思える。
むしろ、国家を立て直す根本的な基盤は経済なのだから、「みんなでイラクの石油を輸入しようキャンペーン」でも張る方が生産的だろうに、と思う。変に資金援助をつぎ込むよりも、イラクが持っている石油というリソースを使って自立する方向に持っていく方が、長期的には正しいはずだから。
それはそれとして。
テロにしろゲリラ戦にしろ、攻撃側が "民衆の海" の中に埋没しているから効果があるので、それを実現するには民衆がテロリストやゲリラを、物質的にも心理的にも支持していなければならない。
各地の地域紛争では、(多くの場合は) 共産主義を担いだ「○○解放戦線」の類が出現してテロ攻撃を仕掛けるのがお約束だが、それとて、民衆がそうした行為を支持して、人員・物資・隠れ家などを提供しているからこそ、継続的な攻撃が成り立つ。そして、テロ攻撃という手段を通じて敵対勢力に心理的圧力をかけて、思いのままに操ろうとするわけだ。その点、最近のイラクで起きている事態は奇妙だ。
(そう考えると、イラク国内の石油パイプラインを爆破するのも、自国の経済基盤を破壊しているわけだから、愚かな行為といえる)
もし、一連の爆弾事件がフセイン政権残党の仕業なら、肝心かなめのイラク国民の支持を失いかねないようなことをしているわけで、首をひねらざるを得ない。むしろ、フセイン政権とは何の関係もない連中がイラクに入り込んで、「反米」を名目にして爆弾騒ぎをやっているのではないか。
つまり、爆弾事件を起こす名目さえあれば、相手は何でもいいというわけだ。阪神ファンでもなんでもないのに「阪神優勝」に便乗して騒ぎを起こし、道頓堀川に飛び込むのと似ている。そういう連中にとっては、別にフセイン政権が復活しようがどうなろうが、知ったことではないのだろう。
そうなると、後はイラク国民の民度の問題で、こういう馬鹿な連中を自国内で好き放題にさせるのか、国外に叩き出してイラクの自力再建に進むのか、という二者択一になる。米軍の駐留が気に入らないからといって、それに便乗した爆弾事件ばかり起こさせていても、何の解決にもならない。イラク国民は、そんなに自分の国をソマリアみたいにしたいのだろうか ?
もうひとつ、奇妙な感じがしているのは、「アルカイダが東京を攻撃する」という予告とやらが流れて、それで株式市場などがパニックを起こしていること。普通、爆破でも何でもテロというのは予告無しにやるもので、事前に予告してからテロ事件を起こした例が、これまでにいったいどれだけあるか。
爆弾を爆発させるのでも何でも、テロというのは警戒が薄いところを突いて攻撃を仕掛けなければならない。なのに、わざわざ予告して警戒を厳しくさせるようなことをしたところで、実際のテロ攻撃を実現しづらくするだけ。それに、過去にもアルカイダは「予告つきテロ」なんてやったことがないのだから、今回の件も、なんか怪しい。テロリストというのは事後に犯行声明を出すもので、事前の予告なんてしない。
もちろん、「テロ予告」とやらが本物だという可能性をあっさり否定するのは危険だけれども、他にも
偽者が便乗して騒ぎを起こし、日本政府をして現在のイラク復興の枠組みから離反させようとしている
イラクとは関係なく、反米宣伝を目的とする第五列が騒擾を引き起こそうとした
アルカイダとは何の関係もなければ政治的目的もない、単なる愉快犯によるガセネタ
など、いろいろな可能性が考えられる。(他にもいろいろ考えたのだが、トンデモの領域に入ってきそうだったので掲載しなかった :-)
だいたい、仮に本物だとしても、「テロ予告」が一つ流れただけでオタオタするのでは、テロリストを喜ばせるだけではないか。テロリストの目的は、我々一般市民の生活を暴力によって蝕み、思いのままに操ることにあるのだから。
もちろん「やれるものならやってみろ」などとテロリストを煽る必要性はまったくないのだが、「予告」だけで泡を食って、自衛隊派遣を断念しなければ、などと議論するのもどうかと思う。自衛隊を派遣するかどうかの決定は、とどのつまり、日本政府がイラク復興の枠組みに対してどうコミットするかという姿勢の問題なのだから、そうした国家戦略の観点で決めればよいこと。「テロ予告」に対しては黙殺して、粛々と日常生活を続行しつつ、警備を強化するのが筋。
昔の「超法規的措置」の時代からそうだけれど、日本政府は何事につけ事なかれ主義で、この手の暴力的な脅しに弱い。政治家に官僚出身者が多いのと関係があるのだろうか ?
ペルーの人質事件でも「平和的解決を」などと寝言をいう人がいたけれど、経過が "平和的" なら、結果がどうなってもいいというのだろうか。テロリストという人種は「暴力」や「威迫」以外の何物も信じないという根本原則を、みんな忘れている。
どうも、最近のマスコミ報道の動きを見ていると、平均的日本人が「平和的」という言葉に弱いところを突かれて、うまいこと、悪い奴らに利用されているような気がしてならない。時には、断固たる態度を堅持することも必要なのではなかろうか。だからといって、無責任に自衛隊員を丸腰で現地に放り込むようなことをされても困るが。
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