Opinion : 戦史に学ぶ・マリアナ編 (2003/12/1)
 

ひところ、ビジネスの教材として「戦史」が持て囃された時代があった。今では「そんなことがあったの ?」といわれそうだが、「プレジデント」誌が毎回のように、戦国時代、あるいは太平洋戦争などを題材にした特集を組んでいた時期がある。また、その企画が (やった当時には) 当たっていたのだから面白い。

最初にお断りを入れてしまうけれども、世の中のすべての事象が、戦史にかこつけて解決できるなんて思っていない。でも、極限状態における判断の重要性とか、戦略論・戦術論といった部分で戦史から日常生活に適用できる教訓も、またいろいろあるのではないかと思う。


そこで取り上げてみたいのが、1944 年 6 月に生起した、フィリピン海海戦 (マリアナ沖海戦) だ。といっても、小沢部隊の「アウトレンジ戦法」を云々したいのではない。悪いけれど、あんな作戦は最初から画餅に決まっている。そうではなくて、それを迎え撃った米海軍第 3 艦隊の方に注目したい。

いうまでもなく、この海戦で第 3 艦隊の指揮をとったのはレイモンド A. スプルーアンス提督。ミッドウェイで一躍名を挙げたが、個人的には、もっともスプルーアンスらしいと思ったのはマリアナの方だと思う。
この海戦では、日本海軍が保有していた空母の大半を取り逃がす結果になったので、後になってスプルーアンスはかなり非難された。しかし、海軍作戦総長のアーネスト・キング提督は、スプルーアンスの作戦指揮を高く評価している。なぜかといえば、作戦の本来の目的が、マリアナ諸島の占領にあったからだ。

日本で顕著だったが、アメリカにも似たような人はいたようで、海戦の目的は敵艦隊の撃滅にあり、敵艦隊を撃滅することが戦争に勝つことだ、とする意見がある。だが、それはとんでもない勘違いで、艦隊を撃滅するのはあくまで手段。マリアナの場合、とにかくサイパン・テニアン・グアムを占領して日本本土爆撃のための拠点を作るのが最大の目的だったのだから、それを忘れなかったスプルーアンスがキングから評価されたのは、至極当然の話といえる。

そもそも、空母というのは載せている飛行機が攻撃力のすべてなのだから、その飛行機を壊滅させてしまえば、ただの鉄の箱に過ぎない。スプルーアンスがそこまで考えていたのかどうかはともかく、結果としてそういうことになった。
そして、日本側の攻撃をしのぎ、小沢艦隊が退却に転じたところで、パッと手を変えて追撃に移る。そうなると、攻撃隊の帰りが夜になってしまおうがお構いなしに、攻撃隊をどんどん出す。帰ってきた攻撃隊を収容するためには、潜水艦の脅威にかまわず照明を点けるし、翌日までかけて救難と収容の作業をちゃんとやる。この辺の攻守の切り替えとメリハリのつけ方が凄い。

もし、米艦隊の指揮をハルゼーが執っていたら、おそらく猪突猛進で日本艦隊と決戦してしまい、肝心の上陸部隊のことはお留守になっただろうと思うし、現にレイテではそうなっている。だが、スプルーアンスは「マリアナ諸島の占領」という本来の戦略目的を忘れなかったから、日本艦隊から攻撃隊が飛来したとき、まずは防空に専念した。

ポイントは、戦略目的を見失わず、状況に応じて (大戦略を踏み外さないような) 打ち手を講じることができたという点。これはビジネスでも日常生活でも、忘れてはいけないポイントじゃないかと思う。


自分のような零細自営業でも、日々、仕事をしていると、予定外のイベントはたくさん発生する。終わるはずの仕事が終わらなかったり、急に「緊急のお願い」なんていう件名のメールが舞い込んできたり。そんなときに、全体の流れを壊さないように手持ちのカードを組み替えて対処するのは、なかなか骨が折れる。ときには、どうにもこうにもいかなくなって、スケジュール遅延をお願いすることもなくはない。(でも、ギリギリになってから「実は…」とやるのはよくないと思うから、まずいことになりそうだと思ったら、できるだけ速く、関係者に状況をレポートするようにしている)

個人で商売していると、リソースは 1 人分しか存在しないから、さすがに PERT チャートを描くような真似はしていない。でも、Excel で線表をひいて、どの時期に仕事が集中しそうか予測する、というぐらいのことはしている。

まして戦争となったら、当初の予定通りに進まないのが普通だ。「戦場で唯一確かなのは、計画通りにいかないということだ」なんていう格言もある。それを考えると、あまりに精緻で複雑で巧妙な計画は、むしろ戦略目的を実現する邪魔になるのではないかと思う。そんな計画を立ててしまった日には、計画を構成するリンクがひとつ壊れただけで、全体が瓦解してしまう。

では、「大戦略を忘れない一方で、状況に応じて柔軟に打ち手を変える」ために何が必要かといえば、当初の予測通りにいかない状況を事前に想定するシミュレーション能力と、状況が思い通りに進まないことを計算に入れて、パッと手を変えられる柔軟性ということになるのだろう。ただし、そこでちゃんとした戦略が根底にないと、ただの場当たり指揮になってしまう。これ重要。

この辺の事情は、多分、ビジネスの世界でも同じではなかろうか。だからこそ、「プロジェクト管理」なんていう概念や、それを扱う専用のソフトウェアがあるし、ロッキードはポラリス計画に際して PERT という概念を生み出した。最終的な目的や、そこに至るまでの流れを支配する critical path、必要なタスクをこなすためのリソースの有無を見失わないことがポイントになるのだろう。

なんだか猛烈なこじつけになってしまったが、こんな風に戦史を眺めてみるのも、ときには有意義なのではなかろうか。現場で起きたことの事実関係を正確に知ろうとするのも、それはそれで興味深いものではあるけれど。

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