Opinion : 道路問題で "官業" のあり方を考えた (2003/12/8)
 

12/1 付の日経によると、国土交通省が提示した道路公団の民営化案のうち、民営化会社が保有・債務返済機構の道路資産を買い取る「上下一体案」について、自民党道路調査会は「道路は公共財であり不適当だ」という見解で一致したそうだ。
なにしろ自民党道路調査会の結論だから、道路建設の邪魔をするような意見を受け付けないのは当然といえば当然だが、言うに事欠いて「公共財であり不適当だ」とは、なんという噴飯モノの見解だろうか。なるほど、道路が公共性を帯びた存在であるのは自明の理だが、それをいうなら、公共の用に供されるものがすべて、民間企業による保有・運営は不適当だとでもいうのだろうか。

そもそも、公共財というなら、なにも道路に限った話ではない。鉄道も港湾施設も、空港も、電力・ガス・水道・通信といったライフラインも、みんな公共財だ。しかし、鉄道の中には民間企業の手で運営されているものがたくさんあるし、電力会社もガス会社も通信事業者も、これみんな民間企業だ。
しかし、それで何か不自由が生じているというものでもないし、かような現状に対して「公共財だから、民間企業が保有するのは不適当だ」なんていう議論は出たためしがない。何故、道路に限って「公共財だから民間企業の保有は不適当」という結論が出るのか、理解に苦しむ。

ついでに書けば、道路の中にも民間企業が保有・運営しているものはある。といっても、そこら辺の「私道」の話ではなくて、先日、東急電鉄が売却を決めた箱根ターンパイクのような道路の話だ。あの道路がなくなったら、自動車メーカーや自動車雑誌は試乗会の場所がひとつ減って困るだろうから、これだって立派に公共性があると思うが、それを一私企業の運営にしていても、今まで、誰も文句をいわなかったではないか。

身も蓋もない書き方をすれば、高速道路を民間企業の保有にしてしまったのでは採算ベースで物事を考えるようになるから、従来のような道路建設の枠組みを維持できなくなり、ひいては集票マシンに差し支えるということだろう。ふざけるな。
都合のいいときだけ、都合のいいような理屈を振りかざすのでは、他の話は一切無視して、ストックオプションに限って「地位に立脚して給与所得だ」と強弁し続ける国税庁と同じではないか。


道路の件は政治や利権が深く絡むから、どうしてもこういうドロドロした摩訶不思議な理屈がまかり通ることになりやすいが、他所の業界でも、民間ベースで済むはずのものを、わざわざ「官業」に委ねようとする動きがあるから困ったものだ。

たとえば、新電電の中に、NTT 地域会社がほとんど独占している加入者線 (ひらたくいえば、電話局とユーザー宅を結ぶ回線のこと) を第三者的公団の保有にする「加入者線公団構想」なるものをぶち上げた会社が、かつて存在した。
「公団」なら第三者的存在だから、どの通信事業者も平等に使えるという理屈かもしれないが、いったんこういう形で「官業」を立ち上げたら、他の官業の例からいって、際限なく自己肥大を繰り返し、天下りと利権の温床になって収拾がつかなくなるのは、目に見えている。

かつては、インフラ利権というと鉄道が筆頭だったが、一連の国鉄改革などを通じてローカル線建設では票にならぬという現実になり、結果として新幹線以外の「我田引鉄」は影を潜めた。しかし、高速道路の方は相変わらずというわけだ。まかり間違えば、「e-Japan」計画に着目した政治家や官僚が、今度は「光ファイバーは公共財だ」といって通信網に手を出して、今の道路公団と同じ事態を引き起こさないという保障が、いったいどこにあるか。そう考えると、加入者線公団構想が潰れてよかった。

現に、通信行政の担当は総務省であるにもかかわらず、その一方で国土交通省が「情報 BOX」と称する光ファイバー網を全国の国道の地下に建設するために税金を使い、しかも道路工事で渋滞を引き起こすというおまけを付けてくれている。「農道空港」という悪しき先例を考えると、そのうち今度は農林水産省あたりが「農業の IT 化を促進するため」とかいって、独自に光ファイバー網の構築に乗り出そうとするかもしれない。(もう、すでにやってたりして)

郵政公社の「簡易保険」や、各種「公共の宿」の類もそうだが、民間でも同業者が多数存在する業種に、わざわざ優遇条件に護られて官業が参入する必要などない。民間企業には利益というインセンティブによって経営改善のためのドライブが働きやすいが、そういう仕掛けがない官業は、往々にして非効率的な運営で赤字を垂れ流し、天下り官僚には高額な給与や退職金を払い続け、しかも表向きは安価な価格と「国営」の安心感で民業を圧迫する。
しかも、そうやって際限なく事業を拡大することで、役所の「省益」を拡張し、天下り先を確保し、政治家をひきつける利権を生む。えてしてそんなものだ。


もちろん、官業でなければ成り立たない分野だってある。外交、警察、消防、国防なんていうのは典型例で、いくらなんでもこれらを民間企業に任せるのは無理だ。しかし、イギリスでやっているように、軍隊に関わるものでも民間企業に任せて支障のない業務については、PFI (Public Finance Initiative) の枠組みを使って民間委託しようとしている例もある。

イギリス軍では、通信衛星や空中給油機の運用などに PFI を取り入れる計画を進めている。通信衛星の運用業務を PFI 化する Skynet 計画の場合、2018 年までの期間で、総額 41 億ドルの契約になる。それにしても、RMA の基本構成要素たる衛星通信網を民間企業に委託しようというのだから、MoD も大胆だ。

もっとも、何でもかんでも PFI 化しろとはいわないが、個人的な考え方としては、官業でなければ成り立たない分野だけを官業で賄うべきだと思う。それも、業務内容によっては PFI のような枠組みを用いて民間企業に業務委託し、民間企業の行動原理に基づく効率化原理を働かせるようにするのが、今後の進むべき方向ではないかと思う (その際に、サービスの均質性や水準を落とさないような枠組みを作るのが肝要)。
単純に官業にしてしまうと、実際の必要性や効率性を無視して、組織拡大だけを意図しておかしな方向に進むことが多いからだ。

行政改革や地方分権に対する中央省庁の抵抗ぶりを見ていても、この人達は国のあるべき姿より、自己の組織の権益維持ばかりを考えているのは明白だ。そんな手合に官業をやらせて好きなように肥大化させたらどういうことになるかは、あえて説明するまでもあるまい。

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