Opinion : 車内放送をきっかけに考えた、情報伝達のあり方 (2004/2/23)
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先週、JR グループの構内営業について少し触れた。もっとも、これは個人的な好みの問題でもあるし、とりあえず revenue をあげなければならないという目の前の課題があることを思えば、そうむやみに文句をつけるのも難しい部分がある。
それはそれとして、他の面ではずいぶんと改善されたと思う一方で、あまり変わり映えしないと思わされるのが、駅の構内や車内で行われる放送ではなかろうか。
もっとも、これは運輸業界に限った話ではなくて、日本ではどこもかしこもスピーカーであれこれ放送しすぎて、却って騒音の渦と化して訳が分からなくなってしまっていることがよくある。幼少の頃から馴染み深い、某駅の駅前商店街など典型だ。
ただ、特に列車やバスの車内放送、駅の構内放送の場合、しゃべっている人の発声に問題があるケースが少なくない。つまり、なんかモゴモゴしゃべっているために、何を話しているのか聞き取りにくいというわけだ。夜行列車や夜行バスなら、夜中には放送の音量を小さくして囁くように話すだろうが、それは夜中という特殊事情があるからで、昼間は話が違う。
こと車内放送の場合、音量や音質の面では、それなりに改善が見られると思う。音量については自動音量調整装置の装備が当たり前になっているから、周囲がやかましくて放送が聞こえない、ということは滅多にない。音質についても、スピーカーが良くなっているのか、バリバリに割れた音になるようなことは多くない (と思う)。だが、どんなに音量や音質を調整しても、元の発声が良くないのでは話にならない。世界最高のスピーカーをもってしても、モゴモゴしゃべっている声を明瞭な声に作り替えることはできない。
放送とか演劇の世界では、「発声練習」がつきものだ。本来の作業に入る前に、まず明瞭に発音できるように練習させられる。なにもこの手の業界と同レベルで練習させなくても、とは思うが、せめて明瞭な発音でしゃべる練習ぐらいは、接客の一環としてやってもらってもいいのではないかと思う。次に到着する駅がどこか、というだけでなく、乗り換え案内や異常事態が絡んでくると、車内放送をちゃんと聞き取れるかどうかは重大事なのだから。
最近になって増えてきた自動放送は女性の声を使うことが多いし、これも最近になって増えている女性車掌の車内放送も、比較的聞き取りやすい。発音の仕方が違うのか、声の質の問題なのかは判断致しかねるが、運転業務に性差は関係ない一方で、意外なところで影響があるものだ。
とどのつまり、これは「情報をいかにして正しく、的確に伝えるか」という思想の問題なのかもしれない。「とりあえず放送はやりました」というだけでも職務を果たしたことになるかもしれないが、「正しく情報が伝わるように、気を使って放送しました」という方がいいに決まっている。明瞭な発音、意味が通じやすい文面、順序が前後しない内容など、注意したいポイントはいろいろある。
放送・演劇業界などでは早口言葉までやるが、これは業界の事情があるからで、車内放送には必要ないだろう。むしろ、ゆっくりしゃべって欲しいぐらいだ。といったところで、話のついでに早口言葉にチャレンジしてみよう。
「信州出身新人シャンソン歌手新春シャンソンショー」
「今日の生鱈奈良生真魚鰹」
「お茶たちょ茶たちょ、ちゃっとたちょ。茶たちょ。青竹茶筅でお茶ちゃとたちゃ」
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「放送」の話からは外れるが、情報伝達という観点から見て良し悪しが激しいと思うのが、さまざまな企業や個人が作成している Web サイトのデザインだ。
最近、スキー場通いが多いせいで、スキー場や近隣宿泊施設の Web サイトを見て回ることがよくあるのだが、デザインだけは妙に綺麗なのに、どうも欲しい情報にパッと行き着けなくて困る Web サイトが少なくない。また、そういうサイトに限って、Flash を使って凝りに凝ったムービーを延々と見せてくれたりするものだ。こうなると、もはや「Flash 公害」ともいえる。Flash 自身の罪ではないにしろ。
これが、道楽で作っている個人サイトなら、まだいい。作る方も見る方も、楽しみでそうしているわけだから。とはいえ、どんなコンテンツが置かれているのかが一目で分からないようなデザインは、いかがなものかと思う。
また、アフィリエイト プログラムのバナーばかりがベタベタと目立つところに貼り付けてあって、肝心のオリジナル コンテンツはどこだよ、といいたくなるような個人サイトもあるわけで、そんなサイトには近寄りたくないが、それは本題とは違う話なので措いておこう。
それに対して、まがりなりにも企業や団体がユーザーのための情報発信手段として Web サイトを設置しているのなら、ユーザーが知りたい情報を的確に掲載するだけでなく、目指す情報に素早く行き着けるようにするデザイン上の工夫も欠かせない。そういう配慮が欠けている Web サイトが、意外なほど多いものだ。まさに、さきほどの車内放送の話と同じで、「情報をいかにして伝えるか」という思想の問題といえる。ナビゲーション性の悪い Web サイトは、モゴモゴと不明瞭な発音をしている車内放送と同じぐらい使えない。
「情報化時代」という言葉が使われるようになって長く経つけれども、今にして思えば、「情報」を伝送するために使われるインフラの話にばかり目がいっていた傾向があるように思える。「情報共有、あるいは情報発信のためのインフラを作りました」「そこに情報を流しました」というだけではなくて、「情報を分かりやすい形で発信するように工夫しています」という領域まで配慮が行き届いてこそ、発信する情報が役に立つのではなかろうか。受け手に正しく意味が伝わらなかったり、受け手が求めている情報がなかったり、受け手が目指す情報にたどり着けなかったりするのでは、まるで意味がないのだから。
そういう意味では、防衛業界で話題の RMA にしても、第一線の兵士まで情報を共有できるインフラを作る話だけではなくて、第一線の兵士が素早く情報を理解できるようにするための手法の問題まで踏み込んでこそ、本物なのかもしれない。
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