Opinion : 変な日本語と変な英語 (2004/3/15)
 

子供の頃から気になっていたにもかかわらず、一向に是正されないのが、高速道路の一部のトンネルに表示されている、この看板。

このトンネルはラジオが聞えます

もちろん、「ラジオが聞こえます」といいたいのだと分かる。だが、「聞えます」と書いたら送り仮名が間違っているのは、小学生でも分かる。5 文字ごとに分割するとちょうど 15 文字になるが、正しく送り仮名を振ると 1 文字はみ出てしまうわけだが、だからといって、間違った送り仮名が堂々と跳梁跋扈していてもいい、というわけでもあるまいに。

多分、有名大学卒の "優秀な" 人材を集めているであろう道路公団が、こんなみっともない状況を 30 年あまりにわたって放置しているというのも、どうにも納得のいかない話だ。書籍や雑誌の編集者に「字数を納めることの方が送り仮名を正しく書くことより重要だ」なんて主張したら、怒られるに決まっている。どうやら、内輪の都合だけを考えた独善的な優先順位付けや理屈がまかり通るのは、国税庁に限った話ではないらしい。

(2004/3/17 追記)
この件について、金森様という読者の方から、漢和辞典を調べた結果に関するメールを頂戴した。許可をいただいたので、ポイントになる部分を引用したい。

「きこえる」には "聞える" と "聞こえる" があるようで、大別すると、自発的に聞くとき、"聴く" に近い意味の時は "聞こえる"、受動的に聞く、耳に入ってくるという意味の時は "聞える" というようです。それ以外のパターンでは、天からきこえる、とか、風の噂できこえる、音にきこえた、といった様な時も "聞える" と書く様で "聞こえる" と "聞える" で使い分けていたようです。

金森様の調査によると、最近では、能動・受動にお構いなく「こ」を省く場合も少なくないとのことで、公団の使い方は (結果的には) 間違ってないものの、本来の趣旨からすると変、ということになるらしい。
ただ、小学校あたりの国語のテストで「聞える」と書いたら、非常に高い確率で「×」をつけられるのではないかと思うのだが、どうだろう。

ちなみに、後で思い出したのだが、道路公団がらみでは、「ラジオが聞えます」以外に「締ようシートベルト」という看板もあったはずだ。これもどうかと思う。


もっとも、おかしな言葉というと、道路公団の専売特許というわけではない。以前にもどこかで書いたような気がするが、JR 東日本が「優先座席」に「priority seat」と英訳をつけているのも、相当に変だ。日本人にとっては、「優先座席」が何の座席かは分かる。イラストがつけてあるから、日本語が読めない人でも、多分、意味は分かるだろう。

だが、それとこれとは別問題。せっかく英訳をつけるなら、ちゃんと意味が通じる英訳をつけるべきで、日本語の直訳をすれば正しいというものではないはず。英語圏の人のために英語表記をするのだから、正しい意味が通じることが第一なのでは ? しかも、座席の掲示だけでなく、車内放送まで堂々と「priority seat」と放送しているのだから、困ったものだ。「弱冷房車」に「weak cool」という英訳をつけたという伝説がある、某在阪私鉄に匹敵するではないか。

確か、営団地下鉄は、「優先座席」に対して、もっとまともな英訳をつけていたはずだ。今度、地下鉄に乗る機会があったら、確認しておこうと思う。

(2004/3/18 附記)
営団地下鉄では、優先座席の英訳は "courtesy seat" だった。「親切座席」「優遇座席」「好意の座席」といったところか。少なくとも、"priority seat" よりは遙かに意味が通じている。こうでなくては。

この「priority seat」もひどいと思ったが、もっとすさまじいものを見てしまった。軽井沢から北軽井沢に向かう国道の脇に出ている看板なのだが、日本語では「急カーブ」と書かれているところに、「sudden turn」あるいは「bad turn」と英訳がつけてある。あのねー。

追記 (2005/5/18)
現場を通りがかったときに撮ってきた、証拠写真を追加。とくと御覧いただきたい。

急カーブ = Sudden Turn !?

急カーブ = Bad Turn !?

こんな判じ物みたいな英訳をつけなくても、「sharp curve」とか「tight turn」とか、もっとまともな言い方はいろいろあるだろうに、よりによって「sudden turn」とは。「急」に出現するカーブという意味 ? でも、急カーブとは、急に曲がっているカーブという意味のはずだから、この英訳は支離滅裂。「bad turn」に至っては、もう笑うしかない。


これが、スラングの類にひっかかるもので、何気なく書いた英文が英語のスラングではお下品な意味になってしまう、という程度の話なら、まだ笑い話で済むと思う。実際、有名なビルの名前で、英語のスラングとして見ると、とんでもない意味になるものもあると聞く。だが、スラングとなると学校で教わるものではないし、辞書をひいても載っていなかったりするから、学校秀才がその手の文章を知らなかったとしても、まだ同情の余地はある。

だが、「priority seat」や「sudden turn」になると、スラング以前の問題で、ただの判じ物になってしまう。冒頭で書いた「ラジオが聞えます」にしても、子供に「正しい送り仮名を」と教育する端からこんな間違いが跋扈していると、教わる側の子供は、どちらが正解なのかと混乱するか、それとも (自分がそうだったように) 道路公団の人は日本語ができないと思うか、どちらかだろう。どっちにしても、いい影響があるとは思えない。

ちょうど、自衛隊がイラクに派遣されている。こうなると、日本の貢献ぶりをアピールするべく (アピールしない国際貢献は、政治的には役に立たない。どんどんアピールできることはアピールするべきだろう)、海外向けの広報宣伝活動の重要性が増してくるのではないか。そこで英語やその他外国語の報道発表資料を作ろうということになった際に、「priority seat」とか「bad turn」レベルのトンチンカンを書いていないかと、心配になってしまう。

軍事と政治が不可分の存在である以上、国際社会に日本のプレゼンスをアピールする意味で自衛隊を出すという選択肢にも一定の意味はあると思うが、ただ出せばいいというものではなくて、それを売り出すための広報活動だって重要だ。となると、ちゃんとした言葉で説明するということの重要性は無視できないと思うのだが、国内向けですらかくのごとしだから、果たして国外向けは大丈夫なのかと、心配になってしまった。杞憂に終わればいいのだが。

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