Opinion : なんかスッキリしない人質事件 (2004/4/12)
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例の、イラクで発生している "人質事件" の一件に関する話をいろいろ聞いていると、どうもスッキリしない。今週は、この辺の話について、つらつらと書いてみたい。
まず、いきなり「自衛隊撤退」なんていう要求を突きつけてきたところからして、そもそも妙だ。一般的なテロリストの傾向からいって、何か気に入らない存在があるのなら、その気に入らない対象に対して直接攻撃に出るか、本国の一般市民を標的にするのが通常の行動パターン。現地の日本人 (それも自衛隊ではなく一般市民) をわざわざ攫っておいて脅迫するような、迂遠なやり方を取るものだろうか。
スペインで起きた爆弾事件については「ETA 説」と「アルカイダ説」があるようだが、仮にアルカイダの仕業だとすれば、確かにやらかしそうな相手ではある。飛行機を爆弾代わりに使おうなどと考える悪魔の集団だから、爆弾事件ぐらいは朝飯前だろう。
そういえば、「自衛隊をイラクに派遣したらアルカイダがテロをやる」という脅迫話が出て、自衛隊派遣反対を叫ぶ人達が勢いづいたことがあった。あの件って、あれからどうなったんだろう ?
一般的なイスラム系テロリスト (といっては失礼で、正確にはイスラムを口実にしてテロ事件を正当化する暴力集団というべきか) の手口からして、自衛隊の宿営地に突っ込んで自爆あるいは AK47 を乱射するとか、そうでなければ日本のどこかで爆弾事件を起こすとかいう方が、手口としては自然。そういう意味で、今回の事件は一般的なテロ (とりわけイスラム系テロ) のパターンから外れまくっている。
いつも書いていることだけれども、テロリストというのは「話し合いや相互理解なんてかったるいから殺っちまえ」という短気な連中なのであって、目的を達成するために最短距離を突っ走るのが普通。誘拐してそのまま殺害するならともかく、わざわざ衛星テレビを通じて脅迫するなんていう悠長なやり方は、なんだかテロリスト的ではない。そんな手法が登場するのは、刑務所に入っている仲間の釈放を求めるときぐらいではなかろうか。
実は、犯人がテロリストでも何でもなくて、ただのカネ目当ての誘拐犯だったとしたら、それはそれで妙だ。カネ目当てなら、最初から身代金を要求するはずで、よりによって「自衛隊を撤退させろ」とは面妖だ。自衛隊がイラクから撤退しても、犯人にとっては一銭の得にもならないのだから、これはこれで筋が通らない。それに、よしんば自衛隊が撤退したところで、その他の国の軍隊がまだ大量にいるのだから、「イラクから外国人を追い出す」という目的だとしても矛盾がある。
では、一部で囁かれている「自作自演説」はどうか。可能性を完全に否定しようにも、それはそれで胡散臭い状況証拠がいろいろあるらしい。とはいえ、いかに日本のプロ市民が頑迷でも、自衛隊撤退という目的を達成するのためだけに、身体を張ってまでこんな "事件" を起こすだろうか? そう考えると、個人的には懐疑的になってしまう。
別の可能性として、たまたま攫われた被害者が犯人に吹き込んで「自衛隊撤退」といわせた、という可能性も考えられる。だが、あくまで「そういうことも考えられる」というレベルの話で、いきなり誘拐されて動転している (はずの) 人が、そんなことをとっさに思いつくものだろうか。単なる自作自演よりは可能性がありそうだが。それに、犯人がそんな要請を受け入れるかどうか。
もっとも、どんな事件でも「陰謀論」というのは人を引きつけやすいものだから、最初から「自作自演じゃないの ?」という先入観をもって見れば、そう見えてしまうものだ。真珠湾攻撃の「ルーズベルト陰謀論」あたりを筆頭に、事件があるところには、往々にして陰謀論がつきものだし、陰謀論を吹聴してばかりいる「ジャーナリスト」だっている。
「陰謀論」ということなら、もっととんでもないシナリオをでっち上げることも不可能ではない。つまり「テロリストの要求に屈しない日本」を世界に向けて演出するために日本政府自ら仕組んだ大芝居、というシナリオだが、こうなると、もはやトンデモ本の世界。一応、ひとつの可能性として考えてはみたものの、考え出した自分自身が「そんなことはあり得ない」と思ってしまう。
第一、そんなことをやって後から真相がばれたら、日本政府の面目は丸潰れどころの騒ぎではない。思い切った行動を取るのがもっとも苦手な日本の政官界が、そんなことを考える訳がない。それに、実際にやるなら現地人を巻き込まざるを得ないのだから、そこから足がつく可能性が高い。まともな脳味噌の持ち主なら、そこまでして自作自演しようとは (多分) 考えない。
と、いろいろ考えれば考えるほど訳が分からなくなってしまったのだが、どちらにしても、何か「裏」がある事件なのは確かだろうと思う。表に出ている情報だけで判断するのは危険そうだし、ましてやマスコミ報道だけに頼って判断するのは間違いの元ではなかろうか。ましてや、ネタ元が「アルジャジーラ」とあっては、何らかのバイアスがかかっていると疑ってかかるのが当然だろう。
この事件、どういう方向に転んだとしても、きっと後から「驚愕の新事実 !」なんていうのが出てきそうな感じがしている。
それにしても、「情報交錯」といって混乱している永田町と霞ヶ関は、どうにも頼りない。普段から「情報」というものを評価・活用する修練ができておらず、入ってきた話を手当たり次第に、そのまま真に受けてしまっているのではないかと疑ってみたくなる。「そんな馬鹿な」と思う人もいるかもしれないが、大島駐独大使が送ってきた情報を何でも真に受けていた、参謀本部ドイツ課という先例もある。
最後に与太話をひとつ。
今回の誘拐犯人は「戦士旅団」と称しているらしい。イタリアには「赤い旅団」というのがあったけれども、どうして「師団」でも「聯隊」でも「軍団」でもなく、よりによって「旅団」なんだろう。テロリストの思考回路というのは、何か「旅団」に思い入れを生じるようなものを含んでいるんだろうか ? だいたい、テロリストが跳梁跋扈していそうな国の軍隊にはたいてい、「旅団」なんていう西側流の編制単位はないと思うのだが。
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