Opinion : Winny 開発者逮捕に関する私見 (2004/5/17)
 

P2P ファイル交換ソフト「Winny」の開発者が、著作権法違反を「幇助」したという容疑で逮捕された。当然ながら、Winny ユーザーが多い場所では警察に対する不満タラタラのようだし、左翼系・プロ市民あたりの人達も「ネット規制の一環だ」と文句をいっているらしい。

で、お約束のように出てくるのが「道具を開発しただけで逮捕されるのは怪しからん。使い方の問題ではないのか」という批判で、「極論すれば、包丁を作ったら逮捕されるということか」なんていうことを書いている人までいる。また、メディアも「権力寄り」とみなされるのが嫌なのか、どちらかというと今回の逮捕には批判的なトーンであるようだ。
ただ、こうした批判はどちらかというと「批判のための批判」というところがあると思う。はっきりいってしまえば、「道具を開発したことが非難されるとは怪しからん」という批判そのものが詭弁だ。


何度も書いているように、テクノロジーには善用も悪用もできるという特性がある。これはたいていのテクノロジーにあてはまる法則だろう。一見したところでは平和利用しかできそうにないと思えるものでも、使い方次第では戦争の役に立ってしまうことがある。たとえば、1940 年代に入るまで、数学が戦争に勝つかどうかの死命を制するなどと思った人がいただろうか。

だから、このことをもって「道具を開発したことが罰せられるのは云々」という批判が出てくるわけだが、それは違う。「原理」と「応用」を分けて考えなければならない。「原理」とは、根本となる考え方そのものであり、「応用」とはその原理をどう使うかという問題だ。つまり、「応用」を考えた際の開発者の意志あるいは意図が、善用と悪用を区別する際の分岐点になる。

たとえば、ウラン 235 の核分裂反応によって膨大なエネルギーを発することができる、という現象がある。これは「原理」で、そのこと自体には何の罪もない。もともと存在する自然現象なのだから。ところが、この原理をどう使うかということが問題であり、「膨大なエネルギー」を発電のために使うこともできれば、核兵器に利用することもできる。
そこで問題になるのは、原理を発見するのはアカデミックな問題だが、応用を行うのは科学者の意志の問題という点だ。つまり、「核分裂」という現象をどういう目的のために使おうとしたのかで、「善用」と「悪用」の境界が分かれる。発電なら前者、核爆弾なら後者ということになろうか。

といったところで Winny の件について考えてみると、まず P2P という考え方自体には罪はない。P2P によるファイル交換という用途にしても、それが違法な流通を行うものでなければ、別に問題はない。ところが、Winny の開発に関する経緯を見てみると、先に WinMX で逮捕者が出たのを受けて、匿名性を持たせる形で開発された、という経緯がある。実は、もっとも問題にしたいのはこの点だ。

繰り返すが、P2P という原理そのものに罪はない。問題は、現行の著作権法と相反するような使い方を促進するような機能を、作者が意図的に Winny に盛り込んだという点だ。もちろん「違法な使い方をするかどうかは使い手の問題で、作者が関知するところではない」という意見もあろうが、開発の時点で匿名性を持たせるための仕様を意図的に盛り込んでいる故に、「未必の故意」といわれても言い訳できないと思われる。悪用する使い方を想定していないのであれば、利用者の追跡を難しくする機能 (他にどんな目的が考えられる ?) を持たせたり、殊更に匿名性を謳う必要などないのだから。

このことは、「同報メール配信ソフト」の問題と比較してみると明瞭になる。同報メール配信ソフトとは、テキスト ファイルや各種データベースの形で用意されたメール アドレス一覧に対して一斉にメールを個別配信するソフトで、spam メール配信に多用されていることで悪名が高い。実際、自分自身も Outlook の振り分け機能により、この種のソフトを使って送られてきたメールを排除するようにしているが、送られてくるメールがみんな spam だという実績が先にあるからだ。
ただ、この場合には善用でも悪用でも本質的な機能は同じであり、送信者の追跡を難しくするような仕様でも盛り込んでいない限りは、「それは使い方の問題だから」という弁解が成立する。そこが、意図的に匿名性を持たせた Winny と違う。

著作権のあり方などに関する作者の供述内容を見る限りでは「確信犯」を裏付けるような内容になっているようだが、これは警察の発表に立脚しているものだから、犯罪性を打ち消すような内容が表に出てくる可能性は低い。したがって、公表されている供述内容をそのまま鵜呑みにするかどうかは、各自の判断に任せたい。
なお、「幇助」という意味では、「激生ぶっこぬき」なんていう極めてお下品な見出しのついた記事を載せて煽り続けていた某誌にも、責任の一端があると思うのだが、それについて京都府警はどう考えているのだろうか。


自分が著作権に立脚して収入を得ている身だから、この種の問題になると保守的になってしまう傾向はある。とはいえ、現行の著作権のあり方、あるいは法規のあり方に問題があるからといって、それに対する違反行為を助長するようなツールを開発することが正当化されるとは思えない。そうしたやり方が成立してしまったのでは、日本は法治国家ではなくなる。あくまで、法律の範囲内で動かなければならず、目的さえ正しければ手段は何でもよい、ということにはならない。

著作権法のあり方に疑問があるなら、それを関係各所に対して論文その他の形で訴えかけるのが筋であり、匿名 P2P ソフトを開発することが正当な手段とみなされるだろうか ?

同じことは、あまたのテロ事件にもいえる。世界の現状に不満があるからといって、テロ行為が正当化されるわけではないのであって、目的で何であれ、悪いものは悪い。もっとも、「テロは許されないが、しかしアメリカが悪い」といって話をすり替えてしまう人が少なくないので、また話がおかしくなってしまう。テロの善悪と、アメリカが世界に君臨して好き放題やっていることの是非は別の問題だ。

だから、「現行の著作権のあり方が云々」とか「道具の使い方が問題で云々」というのは、いずれもエクスキューズに過ぎない。この件に限らず、違法行為などの弊害が後を絶たないようであれば、将来の可能性を犠牲にしてでも、そのテクノロジーを一時的に封印することも必要ではなかろうか。そして、弊害を技術的に解決できるようになったら解禁するのがよい。

おそらく、Winny 作者逮捕に対する批判の多くは「インターネットという自由と無償のワンダーランドに官憲が介入してきたことへの嫌悪感」が根本的動機になっているのではないか ? もっとも、都合のいいときだけ、特定の事象に対する政府の介入や政府の支援を求める人もいるのだから、いい加減なものだが。

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